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書評 #85|審議官 隠蔽捜査9.5

 『隠蔽捜査』シリーズのスピンオフ『審議官 隠蔽捜査9.5』。主人公である竜崎伸也が登場する回数は少ないが、その存在感が薄れることはない。妻、娘、息子と周辺にいる家族に視点を移しても、竜崎がもたらしている影響力や信頼を描きながら、関わりの中に存在するドラマをミステリー作品として昇華させている。

 短編集ではあるが、安易さやチープさといった不満要素も見当たらない。読む手を前進させる力は健在だ。適度に力が抜けた感も好印象。原理原則を貫き、捉え方によっては堅物である竜崎を愛らしく描くことにより、シリーズとしての深みも感じさせる。原理原則に信念があり、邪念がないからこその人望だろう。

 重厚でありながら軽快。リアルさと外れることのない痛快さ。私見ではあるが、良質な作品を構成する要素が数多合わさった稀有なシリーズ。その未来にさらに期待を抱かせてくれた。


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