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食レポ|香湯ラーメン ちょろり 目黒店

 「かおたん」との出会いは忘れられない。学生の殻を脱皮しようとしていた二〇〇〇年代の半ば。僕は大人たちに囲まれて、南青山にある「えんとつ屋」でラーメンを食べていた。風が吹けば吹き飛びそうなほど狭く、古びた店内。今までに食べた醤油ラーメンにはない香りと癒しを覚えた。

 社会人になってから、恵比寿の「ちょろり」で仕事終わりの「飲み会」を初めて体験した。花のように咲く笑い声、高揚する中でも存在する上下関係、熱された紹興酒。それらは「輪郭のついた記憶」と呼べる。

 時間を超えて、脈々と流れる「かおたん」の味わい。その香りと癒しを身体は定期的に求める。「ちょろり」が目黒にも存在することを知ったのは五年くらい前だろうか。「ちょろり」は恵比寿にしかないと思っていた。黄色い光を放つ看板。垢が浮く店内。それは紛れもなく「ちょろり」だった。

 その店も世界の変化に合わせ、扉を閉ざした。店先を通るたびに視線を向けた。動きを止めた店内を眺め、また脈打つ日を待った。その日が訪れる。埃や塵が積もった机を磨くように、目黒の「ちょろり」は磨き抜かれていた。

 衝動を止められず、十六時という中途半端な時間に店を訪れた。僕は「ラーメン」を注文した。琥珀色のスープ。そこに浮かぶもやし、サヤエンドウ、そして、揚げネギ。小さな歓喜がここにある。芳醇な醤油。その風味が体内を駆け抜ける。「また、こよう」。その思いが、踏み出す一歩に弾みをつける。


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