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書評 #59|パレートの誤算

 柚月裕子は『パレートの誤算』で生活保護と不正受給の問題に焦点を当てる。唯一無二の答えはない。生活保護費は社会において生きたくても、生きることのできない人々のセーフティネットとして機能する一方、支給の可否に万能の物差しを当てることができない故、不正受給にまつわる問題に光明は見つけづらいと感じた。その根幹には人間の欲望がある。それは自立の欲望であり、抜け道を見つけ出して堕落へと進む欲望でもある。

 ゆっくりと。淡々と。適度なスピード感を感じさせながら、物語はクライマックスへと突き進んでいく。主人公の牧野聡美と同様に、読者もまた信念を試される。真実か嘘か。敵か味方か。温かさと冷たさを同時に感じるような、視点と感情の波に揺さぶられながら、その旅を楽しんでもらいたい。


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