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書評 #64|ヒポクラテスの憂鬱

 劇的な変化ではない。しかし、それは物語に大きく、前向きな影響を及ぼす。『ヒポクラテスの憂鬱』は前作の『ヒポクラテスの誓い』から確かな上積みがある。作品に強固な筋を通しているのが「コレクター」の存在だ。県下で起きる自然死や事故死に陰謀が秘められていることを示唆する存在。緊張。猜疑心。不安。その答えを求めるかのごとく、指は先のページへと伸び続ける。

 結末に大きな驚きはない。しかし、短編集でありながらも、一章ごとにすべてがつながっている。
 
「いつもいつも有るものを見ようとする癖をつけてはいけません。そこに無いものを探すことも重要デス」
 
 准教授であるキャシー・ペンドルトンが残した言葉だ。この言葉に象徴されるように主人公の栂野真琴が自身の成長を通じて点と点を線で結び、スケールのある作品へと昇華させる。

 解剖医は作中で発生する事件の真相を突き止める上で欠かせない存在だが、それと同時に予算や解剖医の不足など、国が抱える問題点を指摘している意義も大きい。


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