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六波羅蜜寺に行く途中にある、青い屋根のパン屋さん(前編)

気が重いな、と思いながら京都に向かっている。


親戚付き合い、それも名前だけは聞いたことがあるけれど、ほぼ初めましてに近いような親戚との距離感というのは、全くの他人よりも難しい。


それぞれが、微妙に知り、つながっているので、「〇〇さんのところのなになにちゃんがどこどこに就職した」とか、「〇〇ちゃんがどこどこの人と結婚した」とか、顔はわからないのに、名前だけがひとり歩きして、「あぁーあそこの子ね(どんな顔だっけかな)」なんて、知らないのに筒抜けなのが、とても苦手である。


これなら全くの他人のほうが付き合いが楽かもしれない、なんて思う。


下手なことはできない。
恥ずかしくないように。
ちゃんとしなきゃ。
大人として、ちゃんとしなきゃ。


ここまで敏感になってしまうのは、過去にこういう「微妙な距離感」の親戚付き合いで、あちゃー、という失敗してきたからだろうか。ここでいう失敗、とは、近しい身内が恥をかかないか、どうか。あとは変な行動をしないか、どうか、である。



飛び抜けた優秀な子でなくてもいい。それは他の子が適度に担ってくれる。それなりのコミュニケーションがとれ、場にそぐわない発言や行動をしなければ、そして身内に恥ずかしい思いをさせなければ、もうそれでいいのである。


さて、こういう緊張が求められる場面で、いつもうまく振る舞えないのがわたしである。緊張で焦ってトンチンカンなことを口走ってしまったり、質問の答えになっていないようなことを言って場をしらけさせてしまったり。その時に気づかず、はじっこに座る母から睨まれて、「しまったー、またなんか間違えた、あとで怒られる!」と思い、全てが終わって解散したあとに、なぜあんなことを言ったのか、という反省会等やダメ出しを含め、怒られるのである。


そんな記憶が点々と自分に染み付いているため、赤の他人と会うより、名も知らぬ親戚と会うほうが気が重い。今回も激しく拒否したが、その抵抗も虚しく終わってしまった。



この日のために色々用意もしなくてはいけなかった。美容院に行き、綺麗に髪を整えてもらった。プチプラだけど、安いスカートとブラウス、靴を買った。イヤーカフもついでに買った。こういう買い物は嫌いじゃない。選んでいる時間はとても楽しい。けれど、楽しみではない用事のためなんだな、と思うとなんとも言えない気持ちになった。



前日はあまりにも気が重すぎて、いい歳こいて、アホみたいにひとりでおいおい泣いた。いい泣き方ではないのはわかっている。ドタキャンしたいが、そんなのできるわけがない。でもどうしても、どうしても嫌なものは嫌なのだ。


せめてもの楽しみを見つけよう。
せっかく京都まで出るのだから。


そう思って、美容院でたまたま読んだパンの雑誌が美味しそうだったので、本屋さんで自分でも買った。

もうこのビジュアル、たまらん…!



明日はパンを楽しみに京都にいく。


そしてわたしは今、パンの雑誌を読みながら、緊張の面持ちで、電車に乗っている。


 ☆

待ち合わせ場所に早く着きすぎてしまった。いや、意図的に早くきたのだが、店がほぼ空いていない。それぐらい早く来てしまった。靴擦れで足が痛い。踵側の足首の裏側を見ると、血がストッキングに滲んでいた。途中でバンドエイドを貼ったけど、すぐに剥がれてしまった。


しかし京都は暑い。この日は特に暑かった。


なんだかんだで頑張って時間を潰して、待ち合わせ時間になった。「久しぶり」と挨拶を交わすのは、両親たちだ。わたしは「大きくなったわねえ」とか、「小さい頃の面影しかないからわからないわ」と言ってくれる人もいたが、その返事にどう返したらいいのかわからない。うまく挨拶したつもりが、緊張で暗い顔になっているのがわかる。しまった、ザ・無愛想だ…


今ではこんな風になってしまったが、幼い頃、わたしはこれでも明るかったのだ。素直だったし、ニコニコしていたし、感情表現も豊かだったと自分では記憶している。声をかけてくれる人は、多分そのときのことを言っているのだと思った。



こんなに暗い顔になってしまったから、驚いているだろうか。いや、そこまで人は気にしていないだろう。けれど、不快にさせてしまっているかもしれない。

わたしがうまくやれない分、両親はとても周りに気を遣っているように思えた。そんな姿を見て、ますます落ち込んだ。そして妙に孤独を感じた。大勢でいたってひとりでいたって、孤独は孤独なんだな、と思った。むしろ大勢のなかでいる孤独のほうが、辛いかもしれない。



このままでは感じ悪いよな、と思ったけど、どう盛り返したらいいんだろうか。手当たり次第話しかけるべきか、けれど何を話したらいいのだろう。わからない。本当は日常のたわいもない話がしたいけれど、全然そんな雰囲気じゃない。そんなことばかり考えてたら、だんだん頭が痛くなってきた。時間が過ぎるのが遅く感じた。


今日のわたし、30点もない。
多分、赤点。
両親は最後まで周りに気を遣ったままだった。
ダメな子だった。



まっすぐ帰る気にならなかった。
ひとりになって落ち着きたかった。
近くをスマートフォンで検索すると、「六波羅蜜寺」がヒットした。

六波羅蜜寺に、いこう。


六波羅蜜寺は何回か行ったことがあって、方向音痴なわたしはなぜかスムーズに行けたことがなかったのだが、今回はとてもスムーズに行けたのが不思議だった。


…つづく

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