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共感と納得を生み出すネーミング法!決定編|納得をつくる二つのポイント

こんにちは。渋谷(しぶたに)です。
このnoteでは、NEWhで活用したサービスデザインの思考法や手法を紹介しつつ、”サービスデザインの現場の声”をリアルタイムでお伝えしていきたいと思っています。読んでくださった方が少しでもNEWhのサービスデザインの思考法や手法に興味を持って頂けたら良いな…というお気持ちで書いていきます!

1回目、2回目のちょこっと振り返り

1回目の記事では、共感と納得を意識したネーミングの重要性と、従来のアプローチにおける「一人で一生懸命考える」やり方の限界について考えました。そして、その解決策として「共創アプローチ」をご紹介しました。

共創アプローチでは、自社・チーム、顧客、社会の視点を持つメンバーが集まり、様々な立場からアイデアを出し合い、議論により結論を導きます
そうすることで、多角的視点とアイデアの量で質を担保できること、さらにメンバー全員が同じプロセスを時間を共有しながら進めることにより、チームの共通認識が醸成できること、さらに意思決定を後押しするチームの熱量を作り出すことができることをお伝えしました。

2回目の記事では、実践編として、まずは共感を作るための具体的な三つのプロセスをご紹介しました。
1.コンセプトや特徴的な機能からコア・キーワードの抽出する
2.言葉の「解像度を上げる」=共通の体験を想起する言葉に言い換える
3.ネーミングの「型」を活用しアイデアの量を担保する
詳しく読んでみたい、と思って頂いた方はこちらのリンクからどうぞ!

今回は、これまでのプロセスを経た上で、どう社内の意思決定を通すか?ステークホルダーの「納得」を作り出すためのプロセスに焦点を当てて行きたいと思います。このプロセスは、ネーミングだけでなく、新事業開発の様々なフェーズにおける意思決定を進める上でも有効だと思いますので、ぜひ最後まで読んでみていただけたらと思います。


なぜ「納得」が必要なのか?

ネーミングは、サービスや商品を提供する側にとっても自社のアイデンティティを決定づける重要な要素です。特に大企業の場合、市場にサービスを投入する際のレピュテーションリスクは大きな検討事項となります。

ここで重要なのは、「納得」という感覚の本質です。第1回でも触れた、作家の中谷彰宏氏によれば、納得とは「正しいか正しくないかではなく、自分から出たんだという実感」です。つまり、人は自分の心の中で思っていたことを代弁してくれたと感じた時に「納得した」状態になるのではないでしょうか。

第1章で、私が事業会社時代に経験した意思決定の難しさをお話しましたが、チーム内では良いアイデアと評価され上申したけれども、意思決定者からの納得が得られず日の目を見なかった…という経験をされた方もいるのではないでしょうか?
今回のプロセスでは、意思決定者が「自分から出たんだと言う実感」=納得を作るポイントは何かという問いに向き合い、意思決定を突破するためのプロセスをご紹介できればと思います。

納得を作る二つのポイント

意思決定者の納得を生み出すためには、二つのポイントが大事だと思っています。一つは「確からしさ」、もう一つは「企業らしさ/自分たちらしさ」です。その理由を含め、一つずつお話したいと思います。

(1) ネーミングの確からしさ

確からしさとは、「そのネーミングが確かに世の中に受け入れられそう」と思うことのできる状態を指します。名前というシンプルな成果物の特性上、判断が感覚に頼りがちになりますが、好き/嫌いの話にはしたくないですよね。意思決定者は経営層やマネジメントをされている方が多いと思います。そのような方々は、普段ロジカルに物事を判断することが多いため、ネーミングのようなクリエイティブの領域に関しても、世の中に受け入れられるための裏付けや背景が必要なのではないかと思います。

この裏付けや背景の確からしさを担保する一つの方法は「成功例の手法」を根拠にすることだと思います。前例があり、それが成功している場合、反論される可能性は低くなります。なんだ当たり前ことじゃないか、と思われるかもしれませんが、意外と見落としがちなステップではないでしょうか。

例1|メルカリ

一つ例を見てみましょう。「メルカリ」というネーミングは、「商い」をラテン語で読んだものです。創業メンバーが候補を出し合い、「響きが良い」「商いの語源であり、なるほどという印象を受ける」などの理由から選ばれました。
このように、「サービスの原点・ビジョンを堂々と表現する」ことで意味を成立させ、「他言語や響きで語感を良くする」ことで共感性を高めるという手法を学ぶことができます。

一方、2回目の記事では、ネーミングには3つの必要条件があるとお伝えしました。
①想起しやすさ:サービスのコンセプトや機能が想起しやすいこと
②記憶しやすさ:一度見ただけで憶えやすく、語感がよく発音しやすいこと
③識別しやすさ:他サービスとの違いが明確で、ユニークな存在になっていること
この条件で見た場合、「メルカリ」は語感を優先したことで、①の「想起しやすさ」をクリアしていないのでは?と思われるのではないでしょうか。

そうなのです。矛盾する様ですが、世の中の成功例には、必ずしも必要条件を全てクリアしないことがあります。メルカリの場合、①の弱点があるからこそ、立ち上げ初期からCM等の広告でサービス内容の認知を急速に広めました。逆に、想起し辛かったからこそ、人々の関心を呼んだのかもしれません。弱みを強みに変えた良い例ですね。(予算がある場合に限りますが…)

じゃあ、最初から必要条件なんて必要ないじゃん!と思われるかもしれませんが、基本のステップを飛ばしていきなりひねってしまうと、意思決定者の視点では、「飛躍したアイデア」「単なる思いつき」と捉えられかねません。
したがって、「基本の型→ひねる」の順番で検討を進め、意思決定者にはアイデアだけでなく、検討プロセスを含めてインプットすることが大切だと思います。

他にも世の中にある事業の成功例から、参考になるネーミングの手法をご紹介したいと思います。どれもひとひねりされていますので、独自性を高めるために参考になるのではないでしょうか。

(1) 接頭語/接尾語の活用

  • Bravia(ブラヴィア):BRAVO(賞賛)+ ia(接尾語、場所の意味)

  • ORIX(オリックス):ORIENT + ORIGINAL + x(接尾語、柔軟性や多様性)

(2) 多言語表記の利用

  • Uber(ウーバー):Overのドイツ語

  • hulu(フールー):中国語で「相互的に記録する/瓢箪」の意味

(3) オノマトペの活用

  • Twitter(ツイッター:現X):携帯が鳴る音「twitch」と鳥のさえずり「tweet」+ er(接尾語)

(4) 関連する人物やイベントの参照

  • Tesla(テスラ):ニコラ・テスラにちなんで命名(EV技術の基礎となる交流電流の発明の親)

(5) ことわざや歴史の引用

  • ASICS(アシックス):ラテン語の格言「Anima Sana In Corpore Sano」(健全な精神は健全な身体に宿る)の頭文字

(2) ネーミングの企業らしさ/自分たちらしさ

長かったですね…ようやく最終段階です!
これまでの流れを振り返ると、まず、商品/サービスのコンセプトやアイデンティティから土台となるコア・キーワードを抽出し、基本の型でアイデアを発散し、必要条件で絞り込みました。そして、世の中の成功例から「ひねり」を加え、アイデアの再発散を終えました。最後の絞り込みは、二つ目の「納得」、意思決定者が「だから我々がやるべきだ」と思うことのできる状態を目指します。
これには、既存の自社らしさを定義するコーポレート・アイデンティティやブランド・アイデンティティを活用します。言語化されたアイデンティティがない場合は、過去のプロダクトやサービスから、共通しているポイントやメッセージを書き出してみるだけでも良いと思います。

例2|AIRism comfort unlimited

ユニクロを例に見てみましょう。ご存知のように、ユニクロには「LifeWear」「究極の普段着」というビジョンがあり、「普段着の進化」により「暮らしを豊かに」することと、グローバル企業としてその豊かさ「分け隔てなく」波及していくというアイデンティティが存在します。さて、ユニクロは新商品やブランドのネーミングをどのようにつけているでしょうか。

AIRismの例で見てみましょう。
2013年にヒートテックに次ぐグローバル戦略ブランドとして発表されたAIRism。それまでのシルキードライ、サラファインを統合し、究極の心地よさを追求した肌着として誕生しました。
AIRismは、暑さや寒さの概念を超えた快適さを表現するために「AIR」を使用しているそうです。商品コンセプトとして、空気をまとうように軽く、心地良い肌着ということで共感を呼びそうですね。
さらに、「AIR」という言葉からは単なる温度調整という機能から心地よさという体験を追求したという「進化」季節や場所に関係なく使える「分け隔てなさ」が感じられると思います。また、「リズム」という言葉により、衣類の軽さを表現するだけでなく「暮らしを豊かに」という情緒感や世界の拡がりを感じさせます。
2020年にネーミング大賞を受賞していますが、しっかりと社内外のステークホルダーへの共感と納得が意識されたネーミングなのではないかと思います。もしAIRismが「ヒートテック」のシリーズとして「クールテック」としてリリースされていたら、ここまで波及する商品ではなかったのではないでしょうか?なぜ「AIRism」になったかは、以下の記事に熱く語られています。とても面白い記事ですので、ぜひ読んでみてください。

このように、商品/サービスのコンセプトを捉えた確からしいアイデアを、そのまま提案するのではなく、企業やブランドのアイデンティティと照らし合わせ、整合性があるかをチェックするプロセスが「だから我々がやるべきだ」という想いを向上させます。そして、最終の案だけでなく「確からしさ」と「自分たちらしさ」という二つの検討プロセスを意思決定者に伝えることが、納得をつくる上で非常に大事だと思います。

まとめ

ここまでの内容を踏まえ、共感と納得を生むネーミングを作り出すための5つのステップをまとめてみました。

①共創でアイデアの量と質を確保する
チーム全体でアイデアを出し合うことで、多様な視点を取り入れ、質の高いネーミングの候補を増やします。

②共通体験を通じて言葉の解像度を上げる
共通の体験や理解をもとに、言葉の意味や背景を明確にし、ステークホルダーとのコミュニケーションの質を向上させます。

③普遍的な「型」で共感度を向上させる
基本的なネーミングの型を活用することで、一般的に受け入れられやすい名前の土台を作ります。

④成功例から学び、独自性と確からしさを高める
既存の成功事例を分析し、そのエッセンスを取り入れながら、自社の独自性を加えます。

⑤企業/自分たちらしさをチェックする
コーポレート・アイデンティティやブランドらしさを言語化し反映することで、ネーミングに自社らしさを込め、社内外の納得を得やすくします。

適切なネーミングは、アイデアを世に送り出す重要な一歩となり、新事業の持続可能性と収益性を大きく左右する可能性があると思います。こちらのnoteが皆さんの新事業開発サイクルに少しでも役に立てると幸いです!
次回は現在トライしている新しいサービスデザイン思考法について書いていきたいと思います。次回も読んでみたいなと思った方はぜひ「いいね」ボタンをお願いします!


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