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一人旅行体験エッセイ ドイツ「ドクメンタ15」移動編〜ハードボイルドブラックコーヒーと甘々ココア〜

ドイツベルリン在住、悩める青い髪の人間こと地球生活ピーポーYurikaです。

夏の終わりの匂いが漂う2022年8月19日のドイツ、どうしても季節に争いたい、全力で冬の到来に抵抗したい。
諸行無常を全力で逆走する人生でありたい。

書を捨て旅に出よ、
とはいえ書と共に旅に出よ、
そして旅を書に残せよ。

ということで、夏をどうにか味わい尽くすために思い立って週末旅行に行ってきた。

ベルリンから鈍行列車で7時間半、カッセルという街で行われている5年に一度の国際芸術祭「ドクメンタ15」
一泊二日の小旅行。

ドクメンタ旅行を通し感じたこと、
作品を肌で体感したこと、
ひとり旅のあるある、楽しさと寂しさ、
大事な物を失くしたこと、
切なさで美術館で一人涙をこらえたこと、

直感型人間による情報<体験なドクメンタ15旅行記。
感じたことを伝えることで、誰かの小さなナニカのきっかけになればいいと思う。


4時 バスで駅へ


朝4時、小さいリュックと大きめのメモノートを片手にバスに乗る。

家から15分、静かなバスに揺られべルリン中央駅に着くと荷物を抱えた人たちが駅の中に散っていく。

ベルリン1大きい駅、Berlin Hauptbahnhof ベルリンハウプトバーンホフ。
夏の前はウクライナからの避難民、夏の中旬は旅行客でごった返していたこの駅も、8月の終わりの早朝となるととても静かだ。

日の出も遅くなってきた、まだ暗い。


ホームに上がると、すでにちらほら人がいた。
皆地面やベンチに座り、荷物にもたれながらあくびをしたり、パンをかじったりして静かに電車を待っている。

この夜が明ける感じ、旅が始まる前の高揚感、好きだなぁ。
私もリュックを下ろし地面に座る。

目的のカッセルまでは長距離列車を2回乗り換えれば到着する。
7時間半、時間はかかるがこの夏特別に発行されていた1ヶ間月9€でドイツ国内乗り放題のチケットを利用する。
このチケットも8月いっぱいで期間が終わる、
使えるものは使えるうちに使い尽くしたい。

ノートを広げてメモを残す、
”使えるものは使い尽くす”

旅の相方として持って来た私の命のノート、Life noteライフノートには感覚と言葉がびっしり残っている。
忘れてしまうものを残したい、もはや病気に近いとさえ思うが
後にこのノートが旅を通して大事なことを教えてくれることとなる。

5時過ぎに電車が来た。
主要の駅を通ってきたのでまあまあ人が乗っているが、どこかしらの席には座れるだろう、席探しが気楽なのは一人旅のいい点だ。

5時 Berlin Hauptbahnhof出発

電車に乗り込み端っこの折りたたみの椅子を下げ座る、大きな窓の横、移動中に夜が明けるのを楽しもう。

車内は人がいる割には静かでみんな寝ている様子。
南西に向かって電車が動き出す。

流れる景色、窓を眺める。
建物の間隔が徐々に広がっていき、公園や集合住宅の庭、レンガ造りの大きな建築が左から右に流れていく。
やがてぼんやりとした朝焼けの中、緑の土地が広がり始め木々が増えてくる、
広大なひらけた牧草地には霧がかかっていて、朝もやの霧の中に干し草を大きく丸めたものが転がっているのが見えた。

メモを取る
”牛の餌の牧草ロール”

牛の姿は見えない
土地が広いせいか、朝の霧に隠れているのか



電車はベルリンの街からポツダムを通り過ぎ、森と牧草地を走り抜ける、
2時間ほどで終点の街、"Magdeburg マクデブルク"に着いていた。
街から自然へ、自然から街へ、境界線はいったいどこなんだろう、
朝の霧で霞んだのか、それともそもそも一体なのか。



7時 Magdeburgでコーヒー

朝7時、次の電車まで30分ある。
少し寒いのでコーヒーを探すことにした、

朝霧を抜け迎えた朝、ひとり旅、乗り換えの駅で飲むコーヒー
なんとも渋くてかっこいい
ハードボイルドだ。

思い切り気分に浸れるのも一人旅のいいところ、
ここは熱々のブラックコーヒーを飲もう、パン屋のまずいコーヒーでもまた渋さが増すというもの。

構内を歩くと簡単なパン屋を見つけた。
レジで注文して受け取りベンチに座る。

気がついたら私の手には甘々のホットココアが握られていた。
しかも生クリーム付き。

まんまとチョコレートトラップにかかってしまったらしい、
甘党の性である。

ハードボイルドブラックコーヒーと甘いココア、
その境界線もまた曖昧だ。

クリームを舐めると甘さでつい笑みが溢れる。

ベンチの隣にピンクのワンピースを着た女子二人が座った、
小さなキャリーケースを足元に立てて私と同じパン屋で買ったであろうアイスラテを飲んでいる。

旅の予定を確認しているのか紙を広げながら楽しそうに喋っていて、ドイツ語ではない優しいイントネーションが聞こえる、タイ語かな、と予想する。
女子旅、これ以上なく楽しいイベントだ。

同じベンチに座る二人と一人、ピンクと青、ホットココアとアイスコーヒー。
違うけど、旅を楽しむもの同士、おなじ。

クリームとともにココアをすする、
甘い、
甘酸っぱい、
先日数年ぶりに恋をした、
私はハードボイルドと孤独を愛しつつも同時に恋する乙女(32)でもあった。

ピンクのワンピースは着ないけど、甘いホットココアを飲む。

ふとした事で感情が勝手に動き混乱する、どうしたらいいんだろう。

不慣れな気持ちをメモに残す

"ココアが甘酸っぱい”
クリームが古いわけではない。

どうせ混乱するのなら自ら進んでいろんな刺激を取り入れたい、
祭りは踊れ、
神輿は担げ、
列車には乗れ、
作品は見に行け、
感情は感じて残せ、
その上で混沌をぶち破ってシンプルが見えるはずだ。

心と共に動く、ドクメンタ15ひとり旅。

ホットココアを飲み干して次の列車に向かう。
コップの底にココアが溜まり甘くて苦かった。

9時 HalleからKasselへ


次の目的地は更に南に位置するHalle ハレ、
ガラガラな車内で登り始めた朝日をぼーっと眺めていたら1時間ほどで到着した。

Halle ハレはドイツ最古の大学のうちの1つがあることで有名な街、芸術の大学もありアーティストも多い。
駅の構内はマクデブルクよりも広かった。
乗り換えに20分、Halleから目的地のカッセルまでは3時間かかるので少し駅を歩いてトイレに行った。

こういった駅やモールなどのトイレは基本有料で、1€を払うと中に入れる。

1€、ハリボーグミが買える金額、しかしケチって
「長距離電車の備え付けトイレで用を足せばいいか〜」とこの機会を逃すと、
列車内のトイレが故障で使えないことがたまにあり膀胱が終了するので行ける時には行っておく。
海外あるあるだ。

用を済ませてホームに向かうと電車は早めに来て止まっていた、
これに3時間乗ったらカッセルに辿り着く、どんな場所なんだろう。

静かな車内に乗り込み二階部分のボックスシートの窓際、景色がよく見える座る。

電車がゆっくり動きだし、駅に止まるたび次第に人が増え四人席が埋まった。
見ず知らずの人と静かな相席、みんな窓の外を眺めたり眠ったりしている。

電車内にはWi-Fi、充電用のソケットが備えられていていて快適だが、オンラインにアクセスする気になれず、充電器に繋いだスマートフォンも首にかけていたヘッドフォンも鞄の中にしまいひたすら外を眺めていた。

そういえば朝ごはんがまだだったな、
備え付けの小さいテーブルに、昨晩作って持ってきていたサンドイッチを取り出し、齧る。

ベルリンを出た頃は真っ暗だった景色もすっかり陽が高く登っている、快晴。
太陽の光の下、景色に力強い色が宿ってきた。

青い空と白い雲、緑の木々、緑と黄色の混ざった牧草地、
暇そうに止まっている茶色い牛や馬。

黄色いチェダーチーズとピンクの生ハムの塩っけが口の中に広がりブラックペッパーが弾けた。

晴れた日に食べるサンドイッチが好きだ、
夏の凍らせたマスカットも好き、
伊豆の金目鯛の煮付けも好き、


好きの心は大事にしたい、

好きな人に好きだと伝えるか悩んでいたらいつの間にか眠っていた。
陽の光が暖かい。



12時前 落ち込む

目が覚めるとカッセル中央駅まであと20分ほど、少ない荷物を確認して充電器をしまう。

ここで気付いた、
おかしい、私の命のノートがない、
てっきりリュックの背中部分に収めていると思っていたが、
手に持っていたか?座席の周りを見るもない。
リュックをいくら探せど、A4の分厚いノートは圧倒的に不在だった。


そもそも最後に持っていたのはいつだ?記憶を辿る。
Halleの駅の有料トイレに入った時、手に持っていたノートを個室の棚に置いた、

「忘れないようにしなきゃな、ま、忘れるはずがないんだけどね」と頭によぎった記憶がある。

個室から出て手を洗った時、ノートを持っていたか

間違いない、あの時だ、
なんで気がつかなかったんだ、
なんでリュックに入れなかったんだ、
びっしり残された言葉たちが、時間をかけて書き留めた言葉と感覚が、あのトイレの個室に残されている、

縫いかけの小さな刺繍を挟んでいたし、貰い物のポストカードも挟んでいた。

衝撃的なショックと喪質感、後悔の念が押し寄せる。
形のあったものが、一気に手元からなくなってしまった。

日頃小物を失くすことはよくあるが、それでも今回は予想だにしなかった出来事だ。

時間的に引き戻れない、明日帰りにHalle駅に寄って探すしかない。
諦めるにはまだ早い、が望みは薄い。

過去のメモが形として手元からなくなったことで自分の過去の体験もごっそりなくなってしまったかのように感じた、
冷静になれば実際に今までを生きて体験してきた自分は紛れもなくここいいるというのに。

それでもやはり忘れていく記憶を、その時に見たものを、言葉で形ある物に残したい。
形あるものに頼ってはダメなのか、諸行無常なのか、それでも残したくなるものなんだ、、あ〜

光差す車内、頭を抱えていたら降りるはずのカッセル中央駅を通り過ぎて、次の終点の駅まで来てしまった。

否が応でも列車も時間も進むらしい。

明日ベルリンへ帰る際Halleのトイレと、駅のインフォメーションに行こう。
起こったことを考えても仕方ない、今は今を楽しむしかない。

また電車を乗り換えて一度通り過ぎたカッセル中央駅にたどり着く。


午後1時過ぎ 目的地へ到着

午後一時過ぎ、暑くてジャケットを脱ぎ腰に巻いた。
ここからは完全にアート体験だ、感じて感じて感じまくるのだ。

移動だけで思ったよりも記事が長くなってしまったので一旦ここまで。
次回はやっと芸術祭の作品について。