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褒めるところがないなら、褒めなくていい

一般的に日本人は、他の民族よりも人を褒めない。特に私のような昭和世代の、特に男性は、”褒める”ということに抵抗を感じる人は少ない。だが、ビジネス書や企業の研修プログラムで、「積極的に部下を褒める」ということが叫ばれて久しい。

企業で研修の企画運営をしていた。コミュニケーションに関するプログラムに参加した管理職は、「明日から、部下をもっと褒めようと思います。部下だけじゃなく、家族に対しても。特に嫁さんのことも((笑))」と、研修の感想を締めくくる人が、必ずある一定数いた。

何かに自ら気づくことは大事だ。だが、その先に「継続する」ということがもっと重要になってくることを、彼らは気づき始める。私はこういうコミュニケーションに関する研修を企画した時は、任意だが、2,3ヶ月程度「フォローアップのレポート」を出してもらった。研修後の自分の気づきを、どう現実に落とし込んでいるか、研修効果を分析するためだ。

最初レポート1,2回目は「最初は恥ずかしかったけど、やってみてよかった」とか、「相手の反応が今一つだが、続けてみることが大事だ」などと、前向きなコメントが添えられている。その内、「1日に、1週間に、何人に、何回褒めたか」といった定数的なところだけの記入になり、その内、レポートが来なくなる。

部下からの目線。終日いなかった上司が、特に要件もないのに、急に自ら挨拶したり、ただハンコを押すだけの書類に関して、感想を述べてきたり、部下を集めて「君たちはよく頑張っている」と言い出したりする。「何があったんだ?」と疑念を抱く。だから、部下としてリアクションも取りずらい。だが、そんな上司の”突然変異”は、1週間程度しか続かず、元の日常に戻ってくる。

なぜ、”褒める”は継続されないのか。それは”褒める”という行為のモノマネ”に過ぎないからだ。褒めるとは、本来は、相手を、状況をよくよく見て、「おー、すごい」と自分が感心した時に、自分の思ったことを言葉にして、相手に向かって発すること。別に気の利いた言葉じゃなくても、「それ、いいね」とか、なんだったら、”親指を立てる”もいいだろう。ポイントは、「自分の心が動いた時だけ」でいいのだ。

褒めるところがないなら、無理して褒めない、だった黙っていればいい。

目に留まったことを、飾り立てた言葉で相手を持ち上げても、的外れだから、受け取った側は不愉快なだけ。では、褒めたいけど、何をしていいか、わからないならどうすればいいか。

①今までより、相手を観察する時間を少し増やす

今まで、ただ書類にハンコをおしていたけど、この書類をよく見てみる。見やすく改行されているとか、書類を回すタイミングがいいとか、何か「ん!?」と思うことが見つかれば、第1ステージはクリア。

②「ん!?」の理由探す

この書類を作った部下の他の書類も見てみる。どれもグラフや色使いがきれいとか、チーム内で一番パソコンのスキルが高く、みんなによく質問されているという理由が見えてくる。

③相手に「伝えたい」という衝動が起きるまで何もしない

いいところも見えた、その理由もわかった。じゃ、相手に褒めよう。その時、「相手が喜ぶだろうという言葉なんて考えなくていい」。「見やすい書類を作ってくれているんだね」と、最初は現象と理由だけ言えばいい。それをどうしても伝えたい!と思うまで、何もしなくていい。自分に聞いてみる、”褒めた自分を褒めてほしいか?”。そういう気持ちが少しでもある内は、相手には響かないだろう。だったら、このまま黙って自分の胸の内にしまっておくことをすすめる。

褒めるとは、回数でも、言葉の表現力の豊かさではない。「いいね」と思える自分の純粋さだと、私は思う。

追記:spinel3の画像を使わせていただきました。ありがとうございました。

「人生経験の引き出し」がいっぱいあります。何か悩み解決のヒントになる話が提供できるかもしれません。