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【短編小説】クリスマスソング

街の木々は煌びやかに着飾り、彩りどりの輝きを放つ。
テレビのCMやスーパーのBGMはすっかりクリスマス仕様。

数あるクリスマスソングの中で僕が大学生の時に発売されたあの曲も、クリスマスの定番ソングとなり、毎年この時期になると必ず耳にするようになった。

この曲を聞くたびに僕はあの頃に引き戻されて、君のことを何度も思いだすんだ。

何度も、何度も。



僕は大学4年生だった。
君は1つ下の学年。

偶然、僕の友達と君が同じゼミ生で、お互いに話はしないもの近くにいることが多かった。
僕の友達と君が話す姿を見て、可愛らしい子だと思っていた。
始めは、ただそれだけだった。


不思議なもので、近くにいると仲がいいような気がするのだろうか。
僕達はいつしか2人でも話をするようになっていった。

出身地が近いこともわかり、地元の話で盛り上がった。
他にも、2週間後にあるテストの話だとか、ゼミの話をした。

共通の話題といえばそれくらいしかなかったし、それだけの話題でも僕は君と話したいと思うようになっていた。


僕が君と話をするようになって4ヶ月くらいがたった頃、周りの友達から冷やかされるようになった。

当然だ。
誰がどう見ても、僕の気持ちは筒抜けだったと思う。

……君を除いては。


「本当に優しいですよね、先輩って」
君は僕にこう言ったけど、違うんだ。

僕が君に優しいのは、あくまで“優しい人”だから。
僕が君に勉強を教えるのは、あくまで“面倒見がいい先輩”だから。
僕が君を駅まで送るのは、あくまで“帰る方向が同じ人”だから。

君はきっと、そう思っているんだろうね。

君に向ける行動の全てが君への思いの現れだということに、君は一体いつになったら気が付いてくれるんだろう。

僕に向けるその笑顔は、一体いつになったら僕だけに向ける笑顔になってくれるんだろう。


このもどかしさが募りに募って来た頃、君の友達から、君が好きなアーティストの話を聞いた。

ライブにいくほど好きなアーティストの新曲が12月に発売される。
その曲は12月にふさわしいクリスマスソング。

好きな人へ向けた、曲。

その曲は僕の背中を押してくれる曲だった。
僕の思いを代弁してくれているような、君に伝えたい思いの全てだった。


この気持ちを伝えたい。

僕のわがままかもしれないけど、少し早いクリスマスプレゼントを渡そう。



この日も、君と駅までの道を歩いた。

君はテスト前の憂鬱な気分を嘆いていたけど、浮ついた僕の耳にはほとんど入ってこなかった。

「テスト勉強ばっかりでクリスマスも楽しめないですよね。ね?先輩」
「え?あ、うん。そうだね。テストもあるし、卒論も書かなきゃだし。」
「あ、そっか。先輩は卒論の提出期限近づいてますもんね。」
くしゃっと笑う君の笑顔は前よりも自然体で、前よりも僕の心をキュッと締め付ける。

「私もテストの結果次第でクリスマスどころじゃなくなるし、頑張らないと。」
リュックの肩紐をキュッと握った君の指先が赤く染まっているのに気が付いたのに、僕は何もできない。

ポケットにしまった僕の手に力が入る。

うん、今しかないよな。

「あのさ。これ、よかったら貰ってくれない?」
君と僕の距離のちょうど中間に、プレゼントを差し出した。

この距離が早く縮まりますように。
そう願いながら差し出した。

「……これ、何ですか?」
「ちょっと早いんだけど、クリスマスプレゼント。」
「……まだ12月入ったばかりですよ?」
「うん。だから、ちょっと早いけど。」
驚いた様な、それとも少し困惑した様な表情の中に、少し嬉しそうな表情も入り混じった君は、プレゼントを受け取った。

「もらっても良いんですか?」
「もちろん。」
「私、何も用意してないですよ?少し早いクリスマスプレゼント。」
「もらいたくて渡したわけじゃないから。それよりも、テスト頑張って。」
「ありがとうございます。テスト、頑張ります。」
君はそういうとプレゼントを丁寧にリュックにしまい、「それじゃ、電車来るんで行きますね。」と行ってしまった。

君の姿を見送り、僕は大きなため息をついた。

安堵のため息だ。

やっと、やっと僕の思いが君に伝わった。


翌日、君はいつも帰る時間に姿を見せなかった。
その次の日も、そのまた次の日も。

「テスト勉強の追い込みで、友達の家に泊まらせてもらってるから早く帰ってるんです。」
大学の図書館で会った時に君はそう言った。
「1人だとなかなか覚えきれなくて。」
そう話す君との距離が、少しだけ遠くなった様に感じた。


君はあの曲を聞いてくれたんだろうか。

告白をしたわけでもないし、一方的にプレゼントを渡しただけなのに、僕は何を求めているんだろう。



気がつけばクリスマスまで残り1週間を切っていた。
テストも終わり君と話すきっかけを失ってしまった。

1人駅までの道を歩いていると、駅の改札前の柱にもたれかかっている君の姿が目に映った。
僕は無意識のうちに君の方へ駆け寄っていた。

「あ、先輩。お疲れ様です。」
先に声をかけて来たのは、君の方だった。
「お疲れ。今から帰るの?」
「はい。これから帰るところです。」
「そうなんだ。誰か待ってるように見えたから。」

僕の言葉を聞いて、君は首に巻いたマフラーに顔をうずめてしまった。
おかしなことを聞いてしまっただろうか。

心配になりながらも君の反応を待つことにした。

すると君の手が急に動き出して、カバンの中から何かを探し始めた。
不思議そうに見ている僕とは、目は合わない。

「あの、これ……」
そう言って差し出されたのは、僕が君にあげたクリスマスプレゼントだった。

「やっぱり、いただけないなって思って。気持ちはとても嬉しかったんですけど、でも、私何も用意してないですし、何も渡せないので……」
マフラーに顔を埋めたまま話す君の手は、僅かに震えていた。

あぁ、そうか。
これが答えか。

「そんなこと、気にしなくて良いのに。でも、急に渡されても普通は困るよね、うん。」
そう言いながら、僕は綺麗なままの包装紙に包まれたCDケースを受け取った。

「そういえばテストは、受かりそう?」
変な雰囲気をかき消したっくて、僕の気持ちをリュックにしまいながらそう尋ねた。
「はい!って自信持って言いたかったんですけど、ギリギリかもしれません。」
俯きながら微かに微笑んでいる顔を見て、心臓がギュッと締め付けられた。

これ以上、僕が君の笑顔を見たいと願っても、それは叶わないらしい。

僕の思いは、届かなかった。

このCDを返されたということが全ての答えだった。



あの日から、僕はこの曲を聞くたびに君の笑った顔を思い出す。

できれば僕の横で笑う君をもっと見ていたかったけど、叶わなかった思い。

君に伝わったようで、届かなかった僕の思い。


12月になると流れ始めるクリスマスソング。

この曲を聞くたびに僕はあの頃に引き戻されて、君のことを何度も思いだすんだ。

何度も、何度も。


こんにちは、移常 柚里です。

この短編小説はnoteに投稿を始めた頃に、12月になったら書きたいと思っていた小説でした。

最近の忙しさもあり、クリスマスになる前に完成される時間があるのか不安になり“つぶやき”に書いたのですが、そう思っていた矢先に時間ができたので、無事に書き上げることができました。
こう言うタイミングは思った様に行かないものですね。

それでも、久しぶりに時間をとって小説を書けた事でさらに書きたい欲が溢れてきました。

やっぱり、文章を作ることが好きなんだな。
改めてそう感じることができた様な気がします。

まだまだ書きたいことがたくさん思い浮かんでいるので、少しずつ投稿できたらなと思います。


いつもスキやコメントをして下さる方、新たにフォローしてくださった方、小説を読んでくださった方。

全ての皆様に感謝を込めて。

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