映画先読みキャンペーンと言っても過言ではない体験
今回は、東京創元社のゲラ版先読みキャンペーンに応募し、見事当選したため、発売前に先読みし、以下に感想をしたためた。
まだ書店に出回っていないはずなので当然のごとくネタバレはしていない。物語の内容自体は東京創元社HPに掲載されている範囲に留めているので安心して欲しい。
いい映画は、開始三分で心を掴んでくるものだと考えている。もちろん人の好みにもよるはずなので勝手な持論だが、私は最初から世界に引き込んでくれるような、スピード感のある物語が好きだ。
『暗殺者たちに口紅を』は、小説だと思って読み始めたら「いい映画」そのものだった。
開幕と同時に展開される華麗な暗殺劇は、まるで二時間映画のクライマックス。ハラハラするうちに仕事は終わり、次の場面へ。休みなく展開される章立ては、現在と過去の回想シーンを絶妙な配分で演出してくるため、もう一章だけ読んで閉じようと思っても、ついつい読み進めてしまう。活字なのに目が離せない。これは小説を飛び越えて、もはや映画そのものである。あらゆる場面が鮮やかに目に浮かび、登場人物たちを追ってこちらまで熱くなっていく。
正義の名のもとに、独裁者や犯罪者などを始末してきた世界的暗殺組織、通称「美術館」。そこで四十年働いてきたベテラン暗殺者四人組が退職記念に招待された豪華クルーズ船で命を狙われる。どうやら「美術館」の仕業らしい。四人は生き残るための作戦を考えながら、命を狙われる理由と、自分たちに差し向けた首謀者を探すことに。
この内容だけでもワクワクしてしまうが、四人が全員女性という設定も最高だ。女性ならではの闘い方がありつつ、どうしても年齢を感じてしまう場面も出てくる。そこに特別ではなく読者と同じ等身大の人間味を感じて応援するのだ。様々な予想外の展開に襲われても、彼女たちには経験と精神力の強さ、何より共に過ごしてきた仲間との繋がりがある。それがかけがえのないエネルギーとなって男どもを倒していく。その爽快感はやはり映画だ。
現在、「男女平等」という概念は一人歩きしている感がある気がしてならないが、この小説は、女性四人組だからこその輝きを放っているように思える。男女差別ではない、男女区別だ。女性はいつの時代もいくつになっても強くかっこよくあれ。そんなメッセージを感じたのは私だけだろうか。そして唐突に気づいた。彼女たちを応援しているはずが、いつの間にか読者である私が応援されていたことに。
今回は、約四百ページという、素晴らしい映画を観た。これで明日からの日常を闘うエネルギー補充は万全だ。
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