佐藤ユンコ@ゑまふ

日本語の美しさ、楽しさを伝え、残していけるような文章を目指して、日々創作しています。 分野は、小説、童話、エッセイ、書評など。 人生に必要なのは文学とアートと少しの笑い。そういうものに囲まれて生きていきたい。 画廊勤務経験あり。カラーコーディネーター。現在会社員。

佐藤ユンコ@ゑまふ

日本語の美しさ、楽しさを伝え、残していけるような文章を目指して、日々創作しています。 分野は、小説、童話、エッセイ、書評など。 人生に必要なのは文学とアートと少しの笑い。そういうものに囲まれて生きていきたい。 画廊勤務経験あり。カラーコーディネーター。現在会社員。

マガジン

  • めくるめく活字世界

    本があれば生きていける、と思えるほどに好きだと言える。そんな私の書評や、本を巡るあれこれ。

  • 落選文学展

    コンテストに落選した珠玉の迷作たちを「落選文学」として公開。自画自賛展といっても過言ではない。完全なる自己満足の世界。 ・・・と言いつつ、誰かに読んでもらいたいだけという寂しがり屋の記事でもある。

  • ようこそ笑店街へ

    とある町の商店街は、「笑店街」と呼ばれている。一風変わった店ばかりが集まっており、すべて言葉を使って全力で遊んでいる店と人々が楽しく商いをしている。 これは、福野明(ふくのはる)という女性が笑店街に引っ越してくるところから始まる連作短編集。基本的に一話完結。どこからでも読んで笑ってください。

最近の記事

令和に行く、18世紀ヴェネツィア。

令和の世。今なら、電車で気軽にヴェネツィアへ行けてしまうので便利にも程がある。パスポートが不要なのはもちろん、時代は18世紀である。 早くから前売り券を確保し、週末にいざ行かん。 新宿にあるSOMPO美術館で開催中(~12/28)の「カナレットとヴェネツィアの輝き」展だ。 カナレット(1697-1768)は、都市の景観画(ヴェドゥータ)の巨匠と呼ばれ、18世紀のイタリア、ヴェネツィアの風景を描き人気を博した画家。これまでも何かの展覧会で一、二点展示されることはあったが、特

    • 再会するならこの場所で

      彼女の文字は、彼女が描く水彩画のように澄んでいる。 毎年届く年賀状を密かに楽しみにしている。近年印象深かったのは、青や緑、紫がかった山並みが描かれた一枚。文字は、絵に寄り添うような繊細さを帯びている。 そんな彼女と久しぶりに会う場所として決めたのが、黒澤文庫だった。 「本と珈琲とインクの匂い」は、なんとなく思い出を呼び起こしてくれそうな気がして。 それに何より、前回食べたいと思ったガレットにも挑戦したかった。 手書きのメニューを一瞥し、私は即決。 実は詳しく知らなかった

      • 本と珈琲とインクと永遠が

        「いらっしゃいませ」 気づけば見知らぬ店へ足を踏み入れていた。 「ただいま少しお時間いただきますがよろしいでしょうか」 よろしくはない。究極的に時間があるわけではない。この後展覧会に行く予定がある。 それなのに「大丈夫です」と即答してしまった。 そんな風に応えるつもりではなかったのに、引き寄せられた。 「お好きな席へどうぞ」 店員さんの穏やかな笑顔の先を見渡せば、本ばかり。ブックカフェのようだ。ほとんどがセピア色の風景と化していて、壁のいたる場所が本棚となっている。 平日

        • 参りました。

          神保町レポート。今回は、旧・岩波ブックセンター跡地にて2018年に開店した、書店・喫茶店・コワーキングスペースが一体となった複合施設「神保町ブックセンター」に行ってきた。 折々にイベントが開催されるというコワーキングスペースも魅力だが、今回は何事も無く、書店&喫茶スペースを利用した。 ガラスの自動ドアから入り、すぐ右隣にあるカウンターで注文した後は、自由に席選びだ。一人席、カウンター席、二人位席などが用意されていて、うろうろ迷った末に決定。 本に囲まれた空間でお茶をたし

        マガジン

        • めくるめく活字世界
          10本
        • 落選文学展
          10本
        • ようこそ笑店街へ
          38本

        記事

          歴史と物語の生きる場所

          以前テレビでも紹介され、ずっと気になっていた古書店に行けた。その名も「永森書店」。数年前に現在の場所に移転し、神保町A7出口を出てすぐという、ザ・古書店街と言える立地で、分かりやすい路面店だ。 しずしず扉を開くと、入口近くの棚の前で腰を屈めて熱心に商品を物色しているお客さんが目に入った。大きなキャリーケースも置かれている。 どうしよう、邪魔だ。 すると一瞬の心の声が伝わったのか、無言で立ち上がって通路を空けてくれた。古本を愛する人は皆優しい。よい店にはよい人が集まるというこ

          歴史と物語の生きる場所

          或る一生

           ついに、見つけてしまった。何の変哲もない朝、鏡に向かい合った瞬間だった。見間違いかと思い、そうであって欲しいという願望と共に二度見してしまった。二度見どころか三度見ても変わらずそこにあったため、観念することにした。白髪だ。  もともと同年代の友人や年下の後輩でさえ当然のように白髪があると話していたが、私には別世界のもののように思ってしまっていた。失敬な思考である。そんな私の頭の中を見通してか、こつんと小突くかのように額の中央の生え際に一本悠然とお出ましになられた。  白

          ムンク以外見知らぬ画家達だったが……壮麗な「北欧の神秘」@SOMPO美術館

          ここだけの話だが北欧に明るくない。気づけば閉幕まであとわずか。これは行かねばと思って行ってきた。新宿はSOMPO美術館にて開催している「北欧の神秘――ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画展」(~6/9)。 入り口で、出品リストと、ペラ1枚のカラー鑑賞ガイドを入手。これらは公式サイトでダウンロードもできるようだ。とても便利。 展示はエレベーターで5階へ行き、5階→4階→3階と進んでいく。 プログラムは序章「神秘の源泉」、第1章「自然の力」、第2章「魔力の宿る森」、第

          ムンク以外見知らぬ画家達だったが……壮麗な「北欧の神秘」@SOMPO美術館

          満を持してマティス展。偏愛(?)に満ちた鑑賞レポート!

          「マティスってどんな画家?」 と訊かれた時は、色彩と構図が・・・フォーヴィズムの・・・なんてことは言わず、「ピカソ最大のライバルであり友人だったフランスの画家」というところから始める。マティスを知らない人がいても、ピカソ(1881-1973)の名を聞いたことのない人は非常に少ないはずだからだ。 そんなマティスの展覧会が、現在、六本木にある国立新美術館で開催中(~5/27)のため、足を運んだ。よほど注目の高い展覧会なのだろう、雑誌や書籍、テレビでも取り上げられ、ネット上でも至

          満を持してマティス展。偏愛(?)に満ちた鑑賞レポート!

          ギャラリー活字「絵から生まれた物語展」

          絵の鑑賞方法に正解はない。むしろ見た人すべての人の数だけ正解がある。 かつて画廊勤務10年という経験を持つ私は、当然のごとくそれなりに知識を得ている。いや、知識がなければ仕事にならなかったのだが、それは置いておいて、そんな私が経験によって感じたことは、「絵は好きに見よ」である。 絵画について、画家について、描かれた時代背景などについて知ることは楽しい。そして知ることによって絵画をより深く感じることができるのも素晴らしい。 しかし、今回は何の情報も入れず、ただ見た瞬間のイメ

          ギャラリー活字「絵から生まれた物語展」

          「絵から生まれた物語展」第2展示室

          第2展示室:あなたの椅子 あなたの椅子と決めた日から わたしは腰かけるのをやめた それは肘掛け椅子だった 少し古びた木製の 触れた背骨や尾骨に 溶け込んでよく懐いた 床板に似た深い色で 屋根裏の定位置に脚を伸ばし 椅子はあなたの顔をしていた あなたの顔を忘れた頃 わたしは椅子に 一本の 蝋燭を載せた 鈍色の燭台に据えられた 白い柱は滑らかで 哭きながらその身を崩しては 静かに揺らめいていた 照らされた椅子は ほんとうに 見知らぬあなたの顔をしていて わたしは少し 嫉妬す

          「絵から生まれた物語展」第2展示室

          「絵から生まれた物語展」第6展示室

          第6展示室:天気雨の日に そのひとはいつも、黒い服を着ていた。 よく晴れた昼下がり。ぼくは、彼女に言おうと決めた。 カーテンを閉め、部屋を見回した。簡素だがぬくもりのある木製のベッド、使い込まれた机に、座ると音の鳴る椅子、そして備え付けのクローゼット……どれも心地よいもので、これまで過ごしてきた日々の穏やかさを象徴しているかのように見えた。 部屋の中央に立てかけられた古いイーゼルは、彼女の知り合いの画商が譲ってくれたもので、脚が少しぐらつくものの、支障なく使うことができ愛

          「絵から生まれた物語展」第6展示室

          映画先読みキャンペーンと言っても過言ではない体験

          今回は、東京創元社のゲラ版先読みキャンペーンに応募し、見事当選したため、発売前に先読みし、以下に感想をしたためた。 まだ書店に出回っていないはずなので当然のごとくネタバレはしていない。物語の内容自体は東京創元社HPに掲載されている範囲に留めているので安心して欲しい。 いい映画は、開始三分で心を掴んでくるものだと考えている。もちろん人の好みにもよるはずなので勝手な持論だが、私は最初から世界に引き込んでくれるような、スピード感のある物語が好きだ。 『暗殺者たちに口紅を』は、小

          映画先読みキャンペーンと言っても過言ではない体験

          100円でインコ2羽

          前回の、レゴでゴッホ「星月夜」作ってみた自己満足記事が思いのほか好評を博し、恐ろしい程多くの皆様に楽しんでいただけて、嬉しい限り。この面白さを分かってくれる人がこんなにいるなんて、地球もまだまだ捨てたものじゃない。 そんななか、今日は思わぬところで衝撃の出会いをしてしまった。 この形状、どこかで見たことがある。今も賑わいを見せている先日のゴッホ記事にも似た、このオモチャ・・・まさか・・・いや、よく見ると、例の赤いロゴではなく、ショッキングピンクのロゴが左上に。それはそうだ。

          100円でインコ2羽

          レゴとゴッホと星月夜

          それはゴッホ好きな私にとって運命のボタンとも言うべきワンクリックだった。 「知っていますか? こういうのが売っているみたいですよ」 先輩の言葉に導かれて開いた画面に登場したのは、かの有名なゴッホ。いや、正確にはレゴだ。レゴ? レゴブロックは知っている。年齢が一桁の頃に遊んだ記憶がある。でも、これがレゴだなんて世紀末もいいところである。とてもおもちゃとは思えない・・・ その正体はこちら。 ゴッホ 「星月夜」 21333 | アイデア |レゴ®ストア公式オンラインショップJPで購

          レゴとゴッホと星月夜

          熊手と人手の小粋な関係

          11月といえば、1日がワンワンワンの語呂合わせで犬の日であったり、11日が見た目勝ちのポッキーの日であったりと、序盤から実に元気がいい。なぜ犬の日が1月11日ではないのか、とか、ポッキーではなくプリッツでは駄目だったのか、など突っ込みたくなる要素も見え隠れしているが、それらは置いておこう。 11月といえば、酉の市を忘れてはならない。11月の酉の日に行われるお祭りで、日本各地の鷲(おおとり)神社(大鳥神社)の行事らしい。本社は大阪の大鳥神社とされているが、江戸時代には東京の鷲

          熊手と人手の小粋な関係

          千年越しの物語を追いかけたドキュメンタリー

           祇園祭と聞けば、誰もが京都の伝統的なお祭りだと想像するだろう。でも、実際に見たことのある人はどれほどいるだろうか。町中を巡るたくさんの山鉾を組み立てる、鉾建てと呼ばれる組み立ての段階から見たことのある人は世界中にどれほどいるだろうか。そもそも私は、毎年、祭りの度に大きな山鉾を一から作るということすら知らなかった。ここまでは筆者も同じ。しかしながら、筆者の行動は、ある時、京都のタクシー運転手から「鉾建てを見んでは、祇園祭は語れまへんな」という言葉から急激に加速する。  本書

          千年越しの物語を追いかけたドキュメンタリー