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マグリットから生まれた妄想物語

 少し前に、横浜美術館で募集していた、「《王様の美術館》からつむぐ物語」の入賞作品が発表された。これは、マグリットの絵画「王様の美術館」から400字程度の物語(400字程度)を想像するというもの。どうやら1000点以上の応募があったらしい。https://yokohama.art.museum/education/online/magritte.html
 私も応募したものの、残念ながら、「落選文学展」への追加となってしまった。ということで、ここで公開。箸にも棒にも爪楊枝にもかからなかった傑作だ。
 余談だが、マグリットは自身の絵画の意味深なタイトルについて意味を質問された時、意味は答えずに、「詩だ」と言ったらしい。深い。

思い出美術館


 この町に、寂しい人はいません。
 もしも寂しい人がいたならば、彼がやって来るからです。
 ある夜のこと。
 帰り道を歩いていると、目の前にその人が現れました。
「こんばんは」
 被っていた帽子を取ってお辞儀をすると、じっと見つめて言いました。
「あなたの寂しさをいただきに来ました」
 すると、あっと思う間もなく、突然、目の前が真っ暗に。次の瞬間、気づけば広い部屋の中にいたのです。
「ここは……美術館?」
 たくさんの絵が壁に飾ってありました。しかし近づいてよく見ると、それは絵ではなく、額に入った写真。
 しかも写っているのは知っている人でした。家族も親戚も友達も、近所の人も、顔見知りの人も、みんなみんな笑顔です。
 見ていると、賑やかな声までも聞こえてくるようでした。
「楽しい」
 思わず呟いて、目を閉じました。そして再び目を開けると、そこは先程まで歩いていた、いつもの道でした。
 もう彼の姿はありません。でも、体は軽く、心には温かさが残っていました。

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