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一気読み必至、二度読み必須の出会い

電車なんて停まらなければいい。いっそのこと乗り過ごしたいと思えるほど夢中になって読んでしまった。通勤電車内の読書で、とんでもない作品に手を出してしまったようだ。

これは、東京創元社のゲラ先読みキャンペーンに当選し、発売前の小説を読めるという幸運を得た私が、休日まで我慢できずに通勤電車の中で読み、あっという間に読み終えて書かずにいられなかった読後記録である。

夫婦関係がうまくいっていないアダムとアメリア。そんな二人は週末旅行に宿として改装された古いチャペルへ。だが天候は悪化し、吹雪の中に閉ざされてしまう。そんななか不可解な出来事が……よくある密室でのミステリーかと思いきや、よくある話などでは全くなかった。

冒頭から、タイトルの意味はそういうことかとニヤリとし、わくわくしながら読み進めた。物語はまるでスピード感のあるショートフィルムのよう。にもかかわらず、この物語は映像化不可能な代物だ。活字で読むからこそ味わえる至高の愉悦と言ってしまいたい。

そして気持ちがいよいよ高まりすぎた頃、衝撃の真実に襲われた。このままクライマックスへ突入するかと心の準備を始めたところだったのにも関わらず、唐突に世界は一転。ちょっと待って欲しい。もう一度最初から読み返したい。途中のあれもこれも改めて読みたい、という衝動に襲われたのだ。こういうことだったのか、「どんでん返しの女王」とは。恐ろしい。この作家をこれまで知らなかったことを恥じた。と同時に同じ時代に生きて、今読むことのできる喜びも感じた。読み進めたいのに戻って読み返したいという謎の状態に陥ってしまった幸せな私をどうしてくれよう。

このように、うっかり冷静さを失ってしまうほどの読書体験はなかなかできない。本作は、一気読み必至、二度読み必須の傑作だ。みんな一刻も早く読んで欲しい。決して営業するわけではないのだが、読み終えた人と語り合いたくてたまらない。いや待て。その前にもう一度最初から味わわなければ。道々で、衝撃の布石を拾い集めながら。

せっかくだから営業っぽいことも言っておこう。
発売は7月29日らしい。楽しみだ。

#彼は彼女の顔が見えない

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