ようこそ笑店街へ【24】日常の教室

日常の教室

 黒板に背を向けていた先生が生徒の前に向き直る。
「……ということで、今説明したところ、テストに出るぞ。覚えておけ」
 すると一人の男子生徒が挙手して声を上げた。
「すみません先生! 今のところ聞き逃してしまったのでもう一回……」
 その声に、一瞬で先生の顔色が変わった。
「聞き逃した? なんてことをしてくれたんだ君は!」
「え……」
 いきなりの怒声に男子生徒はびくっと体を震わせた。それまでざわめいていた教室も一瞬にして静まり返る。
「今逃した言葉がもし危険なものだったら、君はどう責任を取るつもりなんだ? そんな態度で言葉に接していたら将来は大変なことになるぞっ」
「ご、ごめんなさい」
「いいから探しなさい。逃げて間もないから、まだその辺に転がっているかもしれない」
「は、はい……」
 男子生徒は席を立ち、辺りをきょろきょろ見回す。しかし探しても探しても見つからない。
「早く探しなさい。見つかるまで授業はいったん中止とする」
 見かねた隣の席の女子生徒がそっと声をかける。
「大丈夫? これ、もしよかったら」
 そう言って彼女が差し出したのは、少し欠けた言葉だった。
「あたしが聞きかじったもの、なんだけど」

 数日後、男子生徒はテストで点を落とすことはなかったものの、日常での怪我が絶えなくなった。
 恋に落ちたのだった。

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