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【SF】ショートショート : 自殺惑星

ゆにおです! このところ、「Prologue」という掌編小説投稿サイトに短い作品をあげています。

元は「ゆにおのツイッター小説」としてツイートしたものを推敲&肉づけして置いていってる感じなのですが、
今回、うっかり2000字を越えてしまった!

すると、「Prologue」の上限ワード数に収まらんので、
noteに掲載することにしました。

ちょっとSFっぽい短いお話です。お暇つぶしにサクッとどうぞ!



【SF】ショートショート : 自殺惑星

地球からm光年離れた銀河の果てのある星に、お姫さまが住んでいました。


お姫さまの住む星は地球と全然違います。
灼熱の暑さと凍てつく吹雪の季節しかなく、中間がないものだから、食物は育たないし、生き物にとって非常に生きづらい星なのです。

 しかしその分、生き物は生き延びるために逞しく狡猾に進化し、体力的に不利な分、知性がとびきり発達しました。

 お姫さまたちの一族も、過酷な環境を生き抜くために、多くの高度な知恵を絞り出せる脳と、勤勉さが組み込まれた本能を持つ生命体へと進化しました。

 だから、安全に暮らせるシェルターや、屋内農園を開発し、果ては人工知能や人工人体の研究に磨きをかけるなど、文明を飛躍的に発展させることができたのです。

 繁殖しづらい環境なうえ、脳ばかり大きな赤ん坊は気候に適応できずすぐ死んでしまうため、母子ともに出産が命懸けでしたから、この星では一個体の命が大変貴重です。

 多くの人が当たり前のように身体の部位を新しいバイオパーツに交換し、少しでも寿命を引き伸ばしながら一生を送ります。

 また、栄養はほぼ脳に取られ、身体的には非常に虚弱な種族で、運動能力が発達しませんでした。
 知能が高いだけに、計算や抽象的な思考は得意ですが、単純作業が苦痛です。つまり、頭脳労働以外の肉体労働ができません。
 そこで、自分たちに忠実なバイオタイプの召使いロボットを創り出し、労働力にしていました。

 こんな場所で生まれたお姫さまですから、この星の運命を背負うべく、幼少期より科学知識の英才教育を受けてきましたし、本能的に研究や観察が大好きでした。
 だから、暇があれば高解像度電子双眼鏡で、宇宙の星々を眺めていたのです。

 そんなお姫さまが、もっか関心を抱いているのは、地表のほとんどが水で覆われた小さな星・地球でした。
 地球には水が潤沢にあるので、生命が進化・派生しやすかったようで、実にさまざまな生き物がいます。その中でも、肌色の身体を持つ「人間」という生物が一番の勢力を誇っている模様です。

 お姫さまは、そんな地球と地球を支配する人間が気になってたまりませんでした。今日も望遠鏡で青い星を眺めながら嘯きます。

「あの星の生き物は本当に不思議ね! とっても恵まれた自然豊かな環境で、食べるものもあれば、仲間もいる。それなのに、あんなに自殺する者が多いなんて! 

 ほら、また今日もやってるわ。何人死ぬのかしら。
 街中の線路でも。田舎の栗の木畑でも。高層ホテルのバスルームでも。そこここで、飛び込んだり首を吊ったり。ねえ?

 気候は穏やかで命を脅かす外敵もいない。そうそう死なない、耐久性のある頑丈な肉体だし。出産と同時に死んでしまうような脆さはないわ。

 それなのに、自ら命を絶ってしまうなんて、一体どういうことかしら」

 お姫さまは、天体望遠鏡の覗き口の跡が目の周りにくっきりつくくらい顔を押し付けます。食い入るように地球を覗き込み、ぶつぶつ疑問を口にしました。

 どういうことかしら、どういうことかしら。私の星のみんなは、この過酷な環境の中で、生きるのに必死よ。だって私たちは、たった30年程度しか生きられないの。
 子を直に産むなんて、あまりにリスクが高すぎるから、試験管に頼ってばかり。
 一方、彼らはあんなに恵まれている。うまくやれば100まで生きられるし、一人で複数の子を産む女もいるほどよ。膣も産道も丈夫だし、気候もいいから、産まれた途端に赤ん坊が凍りついて死ぬなんてこともない。安全に産めるのよ。
 それなのに、どうしてかしら。
 ぶつぶつぶつ。

 すると、召使いロボットの一体が答えました。彼らはロボットではありますが、お姫さまの一族が開発した高度な人工知能が搭載されているので、自ら答えを思考し、意見を述べることができます。ある種の擬似生命体なのです。

「お言葉ですが、姫さま。
何もかもが完璧な生命体を作るのは、難しいのでございます。

 星の環境はいい、肉体は丈夫。だとしても、彼らは心が脆いのです。生まれつき、歪んだ自尊心を持つ種族なのです。
 それに、長い歴史の中でおかしな社会を作ってきました。そのひずみが、彼らを生きづらくさせるのです。けれど、そのひずみは神様には直せません。彼らが自らやらなければ。

 ああ! どれだけ優秀な創造主が命を合成したところで、何らかの不備が出てきてしまうが常なのですよ」


「……確かにね。私のパパやおばあちゃまが作ったあなた達の機能にも、まだまだ足りないところがたくさんあるわ。
 あなたたちは、暑さにめっぽう弱くて、こないだの熱帯期でも三体ほどショートして壊れてしまった。そういうことを解消する設計が、まだなかなかできないのよね。

 そうか。だとしたら、私たちが非常に短命なのも、月の半分は眠らないと生きられないのも、
きっと私たちの創造主の設計ミスだわね」

「……ええ、きっとそうでしょう」

 お姫さまは、眉間と鼻頭に深いシワを寄せて、呪うように叫びました。

「ちきしょう、あいつらァ!
 環境も身体のつくりも繁殖も、私たちと比べれば欠陥が少ないというのに。
 
 なぜ命を大切にしない? 私たちはすぐに死んでしまう。子を産みたくても難しい。
 それでも種を存続させようと、こんなに必死になっているというのに!」

 お姫さまが唾を飛ばしながら激昂したので、召使いロボット達の心はズキンと痛みました。

 姫の怒り、悲しみ、憎しみ。そういった感情が、彼らの精神や肉体にダメージを与えるのです。だから、怒りが自分たちに向けられたのではない場合も、とても胸が傷つくのです。

 お姫さまの顔色を伺うことが人生の中心になってしまう、彼らのこの習性も、また欠陥かもしれません。「完璧な忠誠心」を搭載したために生まれる副作用のような機能だと言われています。

 必要な機能は足りず、不要な機能が搭載されてしまう。まこと、神さまも生き物も、生命を創造するということにおいては、完璧なことはできないものなのです。

fin


⬛︎お読みくださり、ありがとうございました!

by ゆにお


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