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6月に税金を払い、短歌を作った

○6月は市税・国保の払込用紙が束で送られてくる月。
○今年は待ち構えていた。
○特に、意図も方針も有効な減税対策があるわけでもない。ただ知っているだけ、『税の月』。
○束を持ち、電車を乗り継ぎ市役所へ行く。
○市役所の人はやさしい。
○私は変な市民ではないと思うのだ。
○税が高すぎる・安くなる方法はないか・本当に間違っていないか。を確認するために来た。
○確かめたいという欲求と、その高額なことには何歳になっても慣れるどころかまったく信じられないし、理解できないということを、私は恥じてはいないのだが、いざ聞くために窓口に行き、人に対面するとなると毎回気が引ける。
○このクレーマー市民め、黙っておとなしく口座引き落としされておけよ、と思われているのではないか?
○窓口でごねるのはみっともないことだと、脳内で自分を責める声も聞こえる。
○それでも、黙って引き落とされるのを看過できずに毎年ここに来てしまう。
○毎度手間どるのは結局自分にとっても負担なのだから、馬鹿馬鹿しくもある。
○おとなしく口座引き落としされとけよアゲイン。
○しかしこんな高額の公金、本当に間違ってないか? 何ともならないのか? これを払えと、ほんとに正気で言ってきてんのか💢
○ということを、人に確認してからでないととてもじゃないが払うことができない。怖すぎる。
○それで毎度毎度はるばるここに来てしまう。


市役所は、みんな大好き安藤忠雄の瀟洒な…堅牢な…


○市税課で尋ねたら、何も間違っておらず、何も安くならなかった。
○が、重ねて尋ねると、職場と重複して払っていたらしい数万円が発覚し、還付されることになった。去年もそうだった。
○『え、これって今日ここに来て私が言わなければ返してもらえなかったってことですか?私のお金なのに? 』と、全部知りつつ去年とまったく同じことを聞いた。『そうですね…』と言い、窓口の人は困っていた。
○数千円じゃない。数万円だぞおい。数千円でも高額だ。税のこと、よくわからないからってわざわざ聞きに行ってよかった……じゃねえよ。喜びよりもそのシステムの難に怒りをおぼえる。だからそっちに協力したくないんだってばとか、だから信用できないんだぞよということが浮かぶ。だから税金払いたくないとか、搾取されているとか、悪くすると、『たとえ死んでしまったとしても税金は払ってね』と言われてるのかな? と思ってしまうのだ。
○一度でも気持ちよく払ってみたい。これが私の夢かもしれない。
○離街届けをもらってきた。夏に書いて出そう。


紅茶紅茶紅茶を勧められるままに10杯飲んだ



○翌週、再び束を持って家を出て電車に乗った。自分の口座のある銀行は街にしかない。
○銀行には、税金・公共料金入金用の機械がある。
○本当は窓口で人にやってもらいたいが、入店したとたん近寄ってくるコンシェルジュ的な人に用件を聞かれ、言うと必ず機械へ誘導される。
○ところが公金用の機械はなぜだか銀行に一台しかない。
○どの支店も同じだ。必ず一台しかない。
○だいたい人が並んでいる。
○『恐れ入りますが、多い人は、5枚ごとにもう一度列に並んで下さい』と書いてある。
○ケッ!
○私の用事は15枚ある。
○今回は、1年分一気に入金することにしたのだ。
○ 毎期、締め切りが近づくたびに税のことを考え苛立たされるのはごめんだ。
○でも、1年の途中で私が死んだら、払った未来の分は家族などに返してくれるんだろうな? とも思う。年金についても同じことを思っている。
○二番目に並んで待った。私の番がやってきた。
○快調に8枚が済んだ。
○とはいえ、残高に大きな影響を与える大きな金額が私の見事な手さばきで次々に吸い込まれてゆく。
○数字に対して感情を持たないように努力する。
○とはいえ時間はかかる。これは感情の時間なのだ。 ○手さばきのよさについて言及しておきたい。毎月、電気ガス料金をこうして公金用機械で振り込んでいる私はプロなのだ。
○しだいに私の後ろに列ができているのは申し訳なく思うが、この機を逃したくない。
○9枚目を差し込んだ時、急に画面が『振り込み期限を入力してください』と言ってきた。はあ? こんなに大きな金額を負担している人に、これ以上何かをさせようとすんなよ。
○機械はその振り込み用紙の『期限』を読み取れないでいるらしい。見ると、たしかに印字が重なっている。
○『期限なんて知らねえよ。令和で書くなよ』と思いながら『戻る』ボタンを押すと、『最初からやり直してください』と言われ、送り込んだ用紙も戻ってきてしまった。
○ここが潮時とわきまえて、後人に席を譲った。
○あと6枚もある。このノリだと、この後、機械はいちいち私に『期限』を入力することを要求してきそうだった。めんどくさすぎる。
○窓口で一気にやってもらうことにして番号札をとったら、20分待つ羽目になった。銀行よ……。
○にもかかわらず、結局窓口でやってもらうには私が印鑑を持っていなかったため、再び機械へ。
○窓口の人が申し訳なさそうにしてくれて申し訳なかった。
○全てを終えて脱力する。何の利にもならないことに時間と体力と精神を使ってしまったと思う。
○残金をチラ見し、落ち込むまいと言い聞かせる。私のせいじゃない。私のせいじゃないよ。
○残金を見た後の気持ちは、学生時代、テストが返ってきた時の気持ちとよく似ているといつも思う。違っているのは、テストなら対策が打てること。そして、だいたいの場合、自分の努力でなんとかできること。
○いや違う。何より、テストは私のせいだけど、残金は私のせいじゃないんだよまったくなっっ。
○そんなことをぶつぶつ言って、スープストックでカレーを食べながら手紙を書いた。全部書いた。ふと、自分の手を見た。

絶句したので短歌を詠んだ。

公金を払いおおせてへたりこむ
(じっと手を見る)
今日のネイル三井住友色じゃん!

馬鹿みたいな気付きだったが、その時の私の気持ちはそれだった。
税金の高さへの怒りは絶対に忘れはしないのだが、それのみにとらわれて絶望するのではない自分もまた事実なのだった。
手の指のネイルの色が、偶然にもさっきさんざんな思いをした三井住友銀行と同じ緑色だったことに、不思議な縁と滑稽さを感じる!
(じっと手を見る)は、石川啄木の『働けど働けど わが暮らし楽にならざり じっと手を見る』のオマージュ、っていうかそのままだから!同じだから!

自分らしい歌ができたな~と思った。
『三井住友色』が思い付いた時、これは短歌だと思った。というのは、その日が友達と決めた短歌の締め切りだったから。
変な緑だな~と思っていた。緑じゃなくて縁。緑?どっちでもいい。
自分の爪に塗ったネイルの色も、三井住友の緑色も、見るたびにぎょっとしていた。じゃあ塗るなよなのだが、変でもこの色が好きなのだ。
まさか、こうしてつながろうとは。生活に違和感を持つと勝手につながっていくことがある。

6月に税金を払い、短歌を作った。忘れない気がした。


カレンダーは友達が作りました。カワイイのだ。

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