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無理難題2週間


理由はわからないが閉塞感のある2週間だった。

友達と会ってお芝居を見に行ったり、新しく知り合った人と話をしたり、喫茶店でずっと友達になりたかった人に名前を呼ばれたりして、それはそのつどうれしくてたまらなかったというのに、私はなぜか閉塞していた。

職場では、同僚と何かしゃべりたいのに話題が思い浮かばず黙っていたり、うまく話せそうになくて諦めたりしていた。

学校は、コロナの影響でいよいよ激しくなってきた保護者からの要望に応えるために、「オンライン授業」の整備に必死で、「非常勤の先生方にもその説明会をします」と言ってきて、急に昼休みが奪われたりした。

その前の週の木曜日も、昼休みが「説明会」になったのだった。

内容は、「授業時間の最後のチャイムが鳴るまでキッチリ授業をしてほしい」というものだった。

その日の授業の具合で、数分早く終わったりすることもあるのでしょうが、そうすると「授業は終わりだ!」=「休み時間♪」=「スマホ触ろう♪」という生徒が現われて、「*授業中はスマホ厳禁!*」の校則が徹底されずに困る……という真面目な生徒(保護者)からのクレーム(!)があったらしい。

なんか変だなーとか、つらいなーいろいろ……とは思ったけど、「説明会」で前に立って説明した先生が、「部活などで疲れていて家ではなかなか勉強しない子もいて、生徒たちにとって、学校で授業中に先生と一緒にその時勉強する、というのはものすごく貴重な時間なんです……どうかよろしくお願いします」と言ったから、私はその言葉に胸を打たれたのだった。

(その後に喋った教頭先生の、「授業時間はすべて先生方にお任せしているんですから、責任をもってキッチリ最後までやっていただかないと困ります」というのは完全に、蛇・足……!)

コロナの「陽性者」ではなくとも、「濃厚接触者」になると、何日間も学校を休まなければいけないから、「自分の子だけ、勉強が遅れてしまうのではないか」と保護者は心配になるらしい。

加えて、国をあげて「オンライン授業」の実施が急速に奨励・一般になりつつあることもまた不安をあおるのだろう。

みんなとにかく不安なんだなと思った。

基本的に不安、という精神状態がもう1年以上続いているから、それに何かの要素が加わるとすぐに爆発してしまうぐらいの段階にまで一気に引きあがってしまう。

ただでさえ「不安」なのに、子どもが「濃厚接触者」になって不安が増し、他の学校はみんなもうやってるのにうちの子の学校はまだ「オンライン授業」を実施していないのはなんでだ! →ハイ、爆発! →学校に電話。という流れなのかもしれない。

そんなふうに、みんなの不安について考えたり、教頭じゃない先生の心のこもった言葉に思いをはせたりしていたから、完全な絶望とか落胆に激しく突き落とされるわけではないけど、私もゆるやかにしんどかった。


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❇️いちじくソーダ😍

理由はわからないけど今週に入って少し元気になって、週末に見たドラマの最終回(『東京MER』)の感動場面を授業で熱弁するなど、徐々に調子を取り戻していった。

これも自分だけで何とかしていることではなく、だからと言って他者(その時目の前に居る人)によってのみ左右されるというものでもなく、どうしようもないことなのだと思う。

全体的なムードというか、時期や、流れのようなもの……。

季節も天気も関係しているし、暦とかもたぶん。

授業の後にちょっと話した子が、「季節の変わり目でつらいっす」と言っていて激しく賛同したけどそういうことでもあるし、そういうことなのだと思う。

どうしてもあらがえないもの。

人間も動物や虫なのだなと思う。

だからもう、その時のそれにまかせるしかない。

そう考えたらあの二週間はみんな閉塞していたように思う。

みんな、誰かに話しかけたいけど何を話したらいいかわからなくてうつむき、ひとり閉じこもっている感じ。

元気になったから振り返って分析してみることにした。

すると、あの二週間は「無理難題」が多かったのだった。

・「オンライン授業」という新しい試みに対する、全員の緊張。

・さらに、やったこともないのにみんなそれぞれ誰かからのプレッシャーを感じて硬直し、不安にさいなまれた。

・学校は、保護者からの。一般教員は、学校からの、それぞれ「ちゃんとやれよ?」という無言の圧力を感じた。

・それも、全員ひとりで感じて、全員ひとりで抱え込んだ!!!

……みんな立派じゃない? 真面目で涙ぐましいほどだよ。いとおしいというか、かわいいと言ったらいいのか。

いや、私もなんですけど。当事者で、しっかり孤独に動揺していたけどさ。

みんな、何とか新しい事態に対応して、相手に対して誠実に応えようとしてすごいと思う。

そんな急激な変化に応じるなんて、本当はきっと何年もかけて準備して行うことなのに、みんな当たり前のように「緊急事態」に猛スピードで対応しようとしている。それが当然で普通のことだというように。

私の見る限り、専門の業者に依頼している様子でもないので(すごくお金がかかるらしい)、学校の中の誰かが担当して、「オンライン授業」ができる環境を整備するところまでこぎつけたのだと思う。

その人は通常の業務と並行して行ったのかもしれず、実施に至るまでに何度も改良や変更のお知らせがあったから、とにかく頑張っていたのだろう。

それって、世の中のスピードと不安に対応するという、「働くこと」において大事なことなのかもしれないけど私は少し怖くなる。

すべてを犠牲にしたその人のスピードを、「当然」のこととしてみんなに求めたら怖いから。

そういう「圧力」を無言で感じて、みんな黙ってしまった二週間だったのかもしれない。

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それにしても、人のお昼休みを奪ってはいけない!! しかも二週連続で!!

だいたい、非常勤講師の時間割はぎゅうぎゅうに詰まっていて空き時間がないことが多いから、その45分間しか休み時間はないのだ。人の休みを奪ってはいけない! 

そのことには、本当はその時もっと怒りたかったな。なんかぼーっとしちゃった。


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