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【再ロックダウンイタリア】劇場やコンサートホールが閉鎖、しかし観客の感染者は!?

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ヨーロッパの国々が続々と再ロックダウンに入る中、例にもれず筆者の住むイタリア・ミラノも11月6日(金)から再ロックダウンとなった。

しかし実は、劇場コンサートホールは、再ロックダウンになるより前に閉鎖となってしまった。今回の記事では、果たして劇場の観客の感染者はどのくらいいるのか、またそれによる音楽界の人々の反応はどうだったかなど、現地に住む筆者がレポートしていく。


イタリア全土で劇場やコンサートホールが閉鎖、しかし観客の感染者はたったの一人

冒頭にも書いたように、10月24日(土)の首相令により、10月26(月)からイタリア全土で劇場やコンサートホールは閉鎖となってしまった。11月6日(金)からのロックダウンよりも前である。

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(“コロナウイルス 、新しい首相令(Dpcm)により、ジム、プール、劇場公演(コンサート・演劇)・スキーの禁止” - 10月24日(土)に出された首相令についての新聞記事 La Stampa より)

今回のロックダウンは、前回は禁止であった、幼稚園や小学校、実技を必要とする学校は対面授業を許可、仕事によるやむを得ない移動は許可されたので、今回は前回よりは多少の猶予があるように感じられる。しかし、クラシック音楽に関わる人にとって、劇場やコンサートホールが閉鎖されてしまう、つまり観客を入れての公演ができない(今のところ、無観客の場合は公演が可能)のは、かなりつらいものがある。また、国民にとっても、生の音楽に触れる機会がなくなってしまった。

Associazione Generale Italiana dello Spettacoloというイタリアで文化(音楽、演劇、映画など)に関わる人や団体が所属する団体の調べによると、なんと6月中旬(前回のロックダウン後に劇場が再開したタイミング)から10月上旬まで、イタリア国内で行われた公演で、観客の感染者はたった1人だったのである。

上から、
期間: 6月15日〜10月10日
公演数: 2,782
観客数: 347,262
感染者数: 1

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(データ元: Associazione Generale Italiana dello Spettacolo)

とてもインパクトのあったこの発表。このたった一人のために、イタリア中の劇場・コンサートホールを閉鎖する必要があるのか?と筆者の周りのアーティストや音楽関係者もSNSでつぶやいていた。政府からの具体的な助成金の説明もない、科学的な根拠もないにも関わらず、こうして一方的に”禁止”を言い渡されてしまうのは、胸が痛む。


イタリア人有名指揮者から首相へ 直々に抗議文!?

イタリア全土で劇場やコンサートホールの閉鎖が始まった10月26日(月)、イタリア人の有名な指揮者・リッカルド・ムーティー氏が、コンテ首相に対し痛烈な抗議文を発表した。首相令が出されたのが10月24日(土)の午後、ムーティー氏からの抗議文が10月26日(月)の朝には出ていたので、このスピード感に、筆者はとても驚いた。

この発表は、ムーティー氏が音楽界の人たちを代表してただ単に抗議をしているわけではなく、国民にとって文化に触れる機会がなくなることへの危惧でもあった。

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(ムーティー氏の抗議文から抜粋)
-首相がとても難しい状況に置かれ,、国民の健康を守ることが第一なのはよく理解できますが、コンサートホールや劇場を閉めるという決定は、とても重いものです。精神の困窮化はとても危険で、身体の健康へも害を及ぼします。政府関係者の何名かの方が、音楽活動は(この状況下で)必要でないとおっしゃいましたが、これは恥ずべき事です。

-こうした決定は、この分野で働くすべての人の置かれる状況や苦労を考えていないものです。彼らは、(政府の決定により)自尊心を傷つけられ、未来の生活に対して不安な感情を持ちました。

-首相に音楽活動の再開を許可することをお願いします。また(この発表は)アーティストだけの思いを代弁しているのではなく、多くの観客も望んでいます。すべての人にとって、音楽活動(を続けること)は、必要なものです。

-劇場の支配人は、新型コロナ対策を意識し、ルールを常に守ってきました。

-この手紙が何かが変わるきっかけになることを祈って、返答をお待ちしています。

(リッカルド・ムーティー氏からコンテ首相に向けられた抗議文が掲載された新聞記事 Corriere della sera より)


そしてなんとその翌日10月27日(火)の朝、コンテ首相からムーティー氏への返答文を発表した。またしても驚くべきスピード感である。

コンテ首相も、イタリアのクラシック音楽界でかなりの影響力のあるムーティー氏の抗議文を無視する訳にはいかなかったのであろう。しかし、しかし、今後について具体的な内容ではなかった。

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(コンテ首相の返答から抜粋)
-劇場やコンサートホールを閉めることは、重い決断で心の痛むことです。もちろん音楽の分野で働く人やアーティストの方々にとって大きな問題だということは理解しています。

-文化は大切だということは理解しています。この分野だけに特に損害を与えたいだけでなく、できる限りの人と人の接触の可能性(機会)を減らす必要があり、この理由からレストランやジム、その他の人と人の接触の可能性のある場所を閉めました。

-(政府は)活動の制限により経済的に難しい状況にある方々を助ける準備はできています。対面で文化的な活動を体験できるのを待ち望んでいますし、私たちはそれらに向かって準備しています。

(リッカルド・ムーティー氏からの抗議文を受けてコンテ首相が発表した返答 新聞記事 Corriere della sera より)


多くの文化・芸術関係者からの署名

もちろん抗議の意を示したのは、ムーティー氏だけでなく、文化・芸術に携わる人たち(美術や演劇、映画など)によって、署名活動が始まった。ムーティー氏からの抗議文が発表されたのとほぼ同時であったと記憶している。

11月17日現在、105,367人もの署名が集まっている。Nome(名前)、Cognome(名字)、E-mailを記入し、プライベートポリシーの項目にチェックをするだけで署名が完了する。

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(Cultura Italianae という団体による、Vissi d’Arteと名付けられた署名活動)



スカラ座の新シーズン開幕も延期に

イタリア・ミラノにある有名なオペラハウス・スカラ座にも影響が出てきた。

スカラ座では、毎年の新シーズン開幕日が12月7日と決まっていて(なぜ12月7日なのかは以前の記事を参照)、目玉のオペラ公演があり、多くの招待客が招かれ、一般へのチケット代は普段の数倍に高騰する。

スカラ座にとってはもちろん、ミラノの人たちにとっても、とても大切な伝統ある日なのだが、今年の新シーズン開幕日に公演予定であった、ドニゼッティの《ランメルモールのルチア》がキャンセルされてしまったのである。

再ロックダウンによる様々な制限によりリハーサルが進まないことや、スカラ座の合唱団にも感染者が出たこともあるのだろうか…大変残念である。

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終わりに

予想していたとは言え、再ロックダウンとなってしまったイタリア。様々な行動が段階的に制限されていく中で、文化・芸術分野の活動は、早い段階で制限されてしまった。公演に向けて、長い間準備してきた関係者、アーティストの気持ちを考えるといたたまれない。

イタリアで、首相と有名指揮者の対話があったのには驚いたが、具体的な助成などの政策があることを祈っている。


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