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【21世紀のサイレント映画!?】アカデミー賞で5冠の映画「アーティスト」 、その音楽とのかかわりとは


2011年に公開されたフランス映画「アーティスト」。

第64回カンヌ国際映画祭でプレミア上映、第84回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など5部門を受賞し、日本でも話題になったが、みなさんは覚えているだろうか?


物語は、1927年から1932年までのハリウッドを舞台に、トーキー映画(発声映画)の台頭によってサイレント映画(無声映画)の時代が終わり、没落するスター俳優と、逆に躍進していく新人女優の愛が描かれている。


筆者は名前こそ知っていたものの、鑑賞したことがなく、実は先日初めて観る機会を得た。映画「アーティスト」は、公開が2011年とは思えないほど、当時の映画の世界観が見事に再現されている。というのも、終始モノクロで、最後の部分を除く大部分が"サイレント"なのだ。セリフナレーションもなく、字幕も物語の展開において重要な場面で出てくるのみである。


この作品は、サイレント映画の再現であるものの、完全な無声映画ではなく、"サウンドトラック"がある。これが映画の中で、とても良い味を出しているのだ。今回の記事は、映画「アーティスト」のあらすじサイレント映画の歴史に触れつつ、作品の"サウンドトラック"、そして日本でも話題のシネマコンサートについて書きたいと思う。



映画「アーティスト」のあらすじ

(以下ネタバレを含む)

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(Wikipedia より)



舞台は1927年のハリウッド。サイレント映画界の大スター、ジョージ・ヴァレンティンは、新人女優ペピー・ミラーに偶然出会い、二人がキスした写真が新聞や雑誌などで話題になる。ある日、撮影所でオーディションを受けていたペピーは、ジョージと再会。彼の主演作でエキストラの役を手にし、彼から優しくアドバイスを受ける。

1929年、映画界がサイレントからトーキーに急激に移り変わって行く。サイレント映画に固執するジョージは、スターの座から陥落し落ちぶれるが、一方のぺピーは、時代の波に乗ってスターの階段を駆け上がるのであった。ジョージは、大変な苦労をしながら自力でサイレント映画を製作するが、その公開日がぺピーの主演する映画の公開日とかぶってしまう。また公開当日に株式市場が大暴落し(世界恐慌)、映画ヒットも叶わず破産の危機に追い込まれる。

ぺピーが次々とヒットを飛ばす中、1931年にジョージは家を出なければならなくなり、スターの座から一転、質素な家に移り住み、所持していた骨董品などをオークションで売ってしまう。
1932年、ぺピー主演の新作映画を観に行ったジョージは、その題材に彼女と自身が初めて会った時のエピソードが使用されて喜ぶが、現在の姿との違いに自暴自棄になり、自宅にあった映画のフィルムに火をつけて燃やし、倒れて病院に運ばれる。それを聞いたぺピーはすぐにジョージの元へ駆けつけ、彼が運ばれる際に唯一大切に抱えていたフィルムを見つける。それは二人が初めて共演したときのものであった。ぺピーは、ジョージを自宅に招き、療養させることに決める。

ぺピーは、自身の会社の社長に、次回の新作でジョージと共演することを提案し、長い交渉の末にジョージの出演許可を得る。しかし、療養中のジョージは、ぺピーの家の一室に、オークションで売り払ったはずの骨董品などを発見してしまう。ぺピーがジョージに内緒で全て買い取っていたのだ。プライドを傷つけられたジョージは、自暴自棄になり自殺を図るが、ぺピーが映画での再共演をしようと必死に説得し、ジョージは遂に映画界に戻ってくるのであった。


サイレント映画とは?

日本語では無声映画とも呼ばれ、トーキー映画(発声映画)の対概念である。



19世紀後期の映画発明以降、1927年に世界初のトーキー映画「ジャズ・シンガー」が発表されるまで、商業的に世界各国で製作・公開されていた映画は、ほとんどがサイレント映画であった。

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(映画「ジャズ・シンガー」のポスター Wikipedia より)

サイレント映画では、音声がないという制約があったため、様々な映画的テクニックが開発され、それは現代の映画にも引き継がれている。登場人物のせりふは字幕を入れることで表現したが、役者の演技は大袈裟なものにならざるを得なかった。日本では、上映中の映画の進行に合わせて、その内容を解説する"活動弁士"が活躍した。




トーキー映画が実用化されてからは、サイレント映画にサウンドトラックを付加したものが上映され、これを"サウンド版"という。トーキー映画以後の時代にも、サイレント映画(多くは厳密にはサウンド版)として製作された作品も存在する。その一つが映画「アーティスト」なのだ。



冒頭で、"映画「アーティスト」は、当時の映画の世界観が見事に再現されている"と書いたが、その要素として、サイレント映画時代に採用されていた1.33:1のスクリーン比で作られたこと、また、レンズ・照明・カメラの動きなどの技法が当時のものにあわせられたことが挙げられる。
そして、1920年代のサイレント映画によく見られた、動きのやや速い映像を再現するために、撮影時のフレームレート(単位時間あたりに処理される"コマ"のこと)は標準的な毎秒24コマではなく、22コマで撮影されている。



映画「アーティスト 」の音楽

映画「アーティスト」の音楽は、フランスの映画音楽の作曲家である、ルドヴィック・ブールスにより作曲された。

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(Wikipedia より)

彼は、この映画で高く評価され、アカデミー作曲賞ゴールデングローブ賞作曲賞をはじめとする数々の作曲賞を受賞した。


(オープニングの”The Artist Ouverture”)


映画のサウンドトラックは、エルスト・ヴァン・ティエル指揮により、ブリュッセル・フィルハーモニックによって録音された。録音作業は2011年4月に6日間かけ、ベルギー・ブリュッセルで行われた。サウンドトラックは2011年10月に発売されている。

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(Wikipedia より)

サウンドトラックには、1曲だけ歌付きの曲が使われている。ローズ・マーフィーが歌う"Pennies from Heaven"である。

映画の舞台は1927年から1932年の間であるが、この曲は実際には1936年に書かれた。その他の曲は、楽器のみの楽曲なので、歌が入ったこの曲は、筆者自身も大変印象に残っている。



シネマコンサート


2017年には、フランス・リヨンにて、映画「アーティスト」のシネマコンサートが行われた。

オーケストラの指揮は、映画のサウンドトラックの録音の指揮をしたエルスト・ヴァン・ティエル、そして、映画の音楽の作曲家であるルドヴィック・ブールスがピアニストとして参加している。


ところで、この"シネマコンサート"、数年前から日本でもよく見かけるようになったが、耳にしたことがある方もいるかもしれない。
ハリーポッターと賢者の石」、「ラブ・アクチュアリ-」、「LA LA LAND」「美女と野獣」など、世界を圧巻させた数々の名作が上演されている。

(映画「美女と野獣」のシネマコンサート)


"シネマコンサート"は、映画の上映に合わせ、生のオーケストラ演奏がサウンドトラックをその場で演奏する、という"映画体験"のことである。映画のセリフや効果音はそのままに、コンサートホールにて、フルオーケストラの演奏を聴きながら映画を楽しめるのである。DVDで観るのとはもちろん違うが、映画館で観るのとも違う形式である。

筆者は、映画「アーティスト」を見た時、この"シネマコンサート"が頭に浮かんだ。「アーティスト」劇中にも、映画上映のシーンがあり、スクリーンの前でオーケストラが演奏していたのだ。この"シネマコンサート"を全く新しい映画体験だと思っていたが、映画「アーティスト」の"サイレント"の時代には、映画を楽しむための自然な形式だったのだ。


終わりに

いかがだっただろうか。

映画と音楽の世界は、奥が深くまだまだ知らないことばかりの筆者であるが、ふと思いついて観る映画も、こうして色々と調べてみると新たな発見があって面白い。

読者の皆様も、次に映画を観る際には、映画の音楽にも注目してみてはいかがだろうか?




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