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著者にとって「理想の編集者」とは?
私の編集者がノートをはじめたらしいので、ちらっと見てみた。すると、「編集者になって3年が経とうとしています」とある。
彼が編集者になって3年ということは、「ラスト・ソング」から3年経つということか...。この本は彼が初めて企画・編集したものだったらしい。
名前は天野潤平さん。最初に会ったとき、大学卒業したての人かと思ってビックリしたことを思い出す。この人で大丈夫なのだろうか、と思った。しかも内容は、「死」とか「喪失」。普通の若者が関心を持つような内容ではない。
でも、話しはじめると、知らず知らずのうちに、話さないようにしようと思っていた事柄を話していることに気づいた。
沖縄戦を生き延びた日本人女性のことだ。アメリカのホスピスで出会った患者さんで、いつか彼女のストーリーを書くことを、亡くなる前に彼女と約束していた。でも、この話だけはまだ書けないし、書きたくないと思っていた。
話題を変えようとしたとき、「じゃあ、まずその話から書いてください」と言われた。私が他のストーリーをすすめようとしても、「いえ、その女性の話で、来週までにお願いします」と。
本を書くという作業は、今までチャレンジしたことの中で一番難しいことだった。特に最初は、本というものがどのようにしてできるのかが全くわからないし、そもそも自分が本など書けるのかという根本的な疑問がある。
まるで暗いトンネルを歩いているような気分だ。執筆というのは孤独な作業である。
幸いなことに、私は良い編集者に恵まれた。良い編集者とは、良いセラピストと同じく、その人がもともと持っている能力を発揮できる「環境」をつくれる人だと思う。
英語には、"Someone who can finish my sentence" (私の言葉を結ぶことができる人)というイディオムがある。自分が言いかけたことを、わかってくれて、代わりに文章を完結できる人。著者が願う理想の編集者とは、こういう人のことだろう。
私にはそういう人の存在があったからこそ、「まだ書けない」と思っていたことを書くことができたのだと思う。
「ラスト・ソング」(ポプラ社)
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