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職務経歴書はその人の歴史そのものです。職業柄、毎日膨大な職務経歴書を読む私ですが、職歴の空白つまり「ブランク」は採用する側の人間にとって、どうしても気になるものです。どういう事情で「ブランク」ができたのか、何が起こっていたのかあれこれ妄想します。私自身は「ブランク」にはそれ相応の理由と背景があるものだと思っています。何かを得るためには何かを捨てなければならないのですが、採用する側の人は、「ブランク」に対してネガティブな反応をしてしまうものです。

仕事から離れることはブランク(=空白)ではなく、キャリア向上に必要なブレイク(=休暇)。空白期間ではなく職歴の「ブランク」を「キャリアブレイク」としてポジティブに捉えようとするこの言葉、本当なのでしょうか。

職歴空白はブランクじゃないと自分に言い聞かせても、私は心の底から納得できません。周りの皆と同じように働けるようになった今だからこそ過去を振り返ることができますが、専業主婦だった当時の私は目の前のことに必死で、ブランクなんて早く終わってしまえ!と思っていました。

ブレイクにしてはあまりにも長すぎた7年間は「キャリアブランク」と引き換えに得られたかけがえのない時間でした。しかし気がつけば自分の人生は後回しで、空っぽになっている自分がいました。それでも私は子どもと過ごす時間を選びました。それだけ子育ては重いことなのです。

子どもと過ごす時間において、楽しいことや嬉しいこと、そして感動することがたくさんありました。今でも子どもから学び、親として成長させてもらっています。一方で目の前の小さな命を絶対に死なせてはいけないという覚悟と「母親」という責任の重さを感じます。母親になることは、社会からの仕打ちを受けているようにも思え、悲観的な気持ちになることもありました。

そんな母親の重圧について語られた衝撃的な本を見つけたので、ご紹介します。

世の中のお母さんたちは、自分を責めないでほしいです。母親という役割はそれだけで重く責任がある。もし子育ての他に何か成し遂げたいことがあるのなら、いつか自分の人生を取り戻してほしいと願っています。

そんな私も、今は自分の人生を取り戻す途中です。母親業を軽く見ないでほしい。きっとそこには専業の母親として過ごした時間を簡単に「キャリアブレイク」の一言でくくられたくないという気持ちがあります。

私自身7年の職歴空白があり、現在はキャリア支援をしていますが、そんな私が実際に経験したことや感じたことを書いてみようと思います。


▼7年は長すぎた


私が正社員を辞めたのが2006年。そして正社員復帰したのは2020年。専業主婦として全く仕事をしていない期間が7年あり、正社員を辞めてから正社員として復帰するまでに14年の歳月がかかりました。居住地がいつ変わるかわからず、育児や家事をワンオペで回している状態では、とても仕事復帰はできませんでした。それゆえ、完全に仕事から離れていた7年間を「キャリアブレイク」として括られてしまうと、実際はそんな生やさしい時間ではなかったため、モヤモヤとします。もっと違う人生を歩むこともできたのではないだろうか…と考えてしまう自分がいます。

働き盛りの7年間を無職で過ごすことを想像してみてください。私は今でこそ、ある程度働けていると感じますが、そこまでこぎつけてやっと、過去の自分を振り返ることができました。当時は絶望の気持ちと不安でいっぱいになりましたが、復帰できたらラッキーぐらいに考えようと自分に言い聞かせていました。7年を取り返す道のりは、当時の私にとって果てしなく遠いものでした。そもそも専業主婦が本格的に仕事復帰できる保証は、どこにもないのです。復職を望んでいる自分に気づくたび、仕事は私のアイデンティティの大部分を占めていたのだと感じました。

▼妻側だけに降りかかるキャリア断絶問題


専業主婦の間、絶望の気持ちでいっぱいだった私ですが、改めて言いたいのはキャリア断絶問題は主に妻側に降りかかるということです。専業主婦になった女性が仕事復帰を考える時、収入が103万円や130万円の壁を超えないように働くことを考えます。そして経済的に自立できないことで、夫からDVやモラハラの被害に合う可能性だってあります。女性のキャリア断絶問題は女性の経済的自立と精神的自立に大きく関わっているのです。今の日本の働き方では、過去に仕事で活躍していた女性でも、結婚、出産を経験すると社会的弱者へと転落してしまう可能性が大いにあります。夫側の転勤で居住地が定まらない、子どもは保育園に入れない、親のサポートがないという「ないない尽くし」の中で妻のキャリアは断絶します。そんな不本意専業主婦であるにも関わらず「自分が選んだ選択だから仕方ない」と言われてしまいます。これから結婚しようとする若い世代はこんな現状を見て、結婚することにメリットを見出せるのでしょうか。結婚して一旦専業主婦になるとキャリアが断絶し、経済的にも精神的にも夫に頼らざるを得ない状況にはまっていきます。この問題は夫側にはほぼ起きません。妻側だけにキャリア断絶問題は降りかかるのです。

▼時代背景に翻弄された


「結婚してもあなたは仕事を続けますか?」
「入社倍率は男性は4倍、女性は20倍」
「ウチは総合職なのに簡単な仕事を女性に与えている、とても女性に優しい企業なんだよ」
「2人目の産休を取りたいなんて、けしからん奴だ」

これらの言葉は実際に私がかけられた言葉です。こんな言葉が平然と飛び交う時代に、私は就職しました。セクハラは横行し、男性ばかりが集うタバコ部屋で、人事の重要な決定がなされました。総合職の女性でもコピー取りと電話応対が主な仕事で、一般職に就く女性も沢山いました。産休を取ることで女性は白い目で見られ「けしからんこと」として職場では歓迎されませんでした。そんな産休育休も当たり前に取れない環境で「寿退社」をする女性が多くいました。今は社会の見方が大きく変わり、女性は産休を取って復帰することが当たり前になり、男性の意識も変わってきました。時短勤務は圧倒的に女性が多いですが、それでも時短勤務というオプションがちゃんと用意されるようになりました。これは当時の私からすれば、とんでもない進歩です。今は必ずしも専業主婦を選ばなくでも良い時代になったのです。

しかし私は専業主婦を選びました。私は自分のキャリアを断絶することで、家族の犠牲をなるべく最小限にしたいと思いました。自分の仕事と同じくらい大事な家族との生活。結婚をきっかけに、私の大事な片方を全部失うということ。何かを捨てなければ何かは手に入らないと分かっていても、「究極の二択」を迫られ、どちらも選べない自分がいました。そして訪れる未来の自分に対し恐怖を感じました。きっと私の可能性は、家族の幸せと引き換えに目減りしていく、そんな未来を想像して焦りを感じました。

しかし今はそんな時代ではなくなりました。女性が結婚出産を経ても、キャリアを継続すべきだという社会的合意形成がされつつあります。「女性は家庭に入るべきだ」から「男性女性共に家庭に協力すべきだ」という考え方が増えてきました。もちろん夫婦の形は千差万別ですが「家庭は夫婦共に作るもの」という考えが、特に若い世代ではメジャーになってきたように思います。

▼出産後の人生は長い

出産後の人生の方が女性は長い。100歳まで生きる時代に、キャリアを継続できないことは女性にとってもリスクです。だからいつ離婚しても一人で生きていけるだけの経済力とキャリアを身につけないといけないと感じます。

やはり仕事から離れることはブランクではなくブレイクだと言われても納得できません。専業主婦になることで「休んだ」覚えはありませんし、そのために捨てたものが大きすぎます。結果的にバージョンアップをしたと断言できますが、専業主婦の期間は「キャリアブレイク」だと言われても、やはり納得できない自分がいます。

だからこそ取り戻したい。
職歴空白の7年間を巻き返したい。
誰がなんと言おうと。

今はそれは過去のものとして前を向いています。
だからキャリアブレイクだなんて言わないで…。

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