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その能力は誰のものか

 財政課を卒業して何年も経つのに
よそで講釈垂れるのはやめろって?
じゃああんたが代わりに行けばいい
同じ立場を務めたんだからできるだろ
まさかよそのことは知らんぷりかい
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
週末に京都府北部の京丹後市というところに行ってきました。
公務出張でもプライベートの家族旅行でもありません。
目的は「出張財政出前講座」。
福岡市の財政調整課長時代に市職員向けに始めた自治体財政に関する講義が形を変えながら発展し、10年以上たった今も全国各地からお声がかかる人気講座として続いているのです。
職員向け財政出前講座の始まった経緯や内容については以下ご参照ください。

 2020年2月にコロナ禍で開催を自粛するまでは年間に20~30本の講義を引き受け、北は北海道から南は沖縄までほとんどすべての都道府県からお声がけいただく人気講座のテーマは「なぜ“財政が厳しい”のか」「どこにお金が足りないのか」といった、少し自治体財政のことをかじれば誰でもぶち当たる壁。
規模の大小、人口や産業構造の相違に関わらずどの自治体にも共通する構造的課題と自治体が置かれた現状、将来見通しを踏まえた財政健全化への処方箋を、ゲームを交えて楽しくわかりやすく学ぶこの講座は、私が財政の現場を離れて8年近く経った今でも多くの自治体職員の皆さんに愛され続けています。
5年前にはこの講座の内容をまとめた本も出版させてもらい、そのおかげで自治体職員だけでなく、地方議会の議員さんや一般市民の方から今も出講や受講の依頼が飛び込んできます。
 
コロナ禍の中で財政出前講座に出かけていくことができない中でオンラインでの対話会を企画し、そこで得られた気づきをヒントに3年前、公務員の仕事と「対話」との関係を著す本も刊行しました。
こうした活動領域の広がりに伴い、様々な場面への露出が増え、地方自治体職員同士のネットワークの中で注目を集めたこと、また私自身のSNS等での発信などもあって、最近では財政の話に限らずいろんなテーマでの出講や業界誌、webメディア等への寄稿などの機会も増え、最近では公務員コミュニティの運営や官民連携団体の活動支援などにも携わっています。
仕事で長く携わって知見を培った自治体財政の話ならともかく、これまでやったことのないものも含めて、常に新たなオファーをいただき続けていることを本当にありがたく感じています。
 
これらの活動は、現役公務員である私の本業ではありません。
あくまでも本業を優先しつつ、自分が蓄積してきた知見が世のため人のためにお役に立つのなら、と職場や家族の理解を得ながら、いただいた依頼を請け負ってきただけのこと。
出講にせよ寄稿にせよ、準備や作業に一定の時間を要し、手間もかかることから、私の場合は原則として対価をいただくようにしていますが、何も小遣い稼ぎのためにやっているわけではありません。
本業や家庭とのバランス、様々なニーズに対応するコンテンツクオリティの維持など大変な部分もありますが、この「副業」のおかげで得られるものも多く、自らの価値に気づく絶好の機会でもありますので、社会への貢献と自身の成長の機会として乗っかるようにしています。
 
地方公務員の身分を有したまま、出講や寄稿、外部へのアドバイザリーなどにその能力を活用している方はたくさんおられます。
私のように、すでに財政畑を卒業したのに自治体財政の話を全国各地でやっているというのは違和感を覚える人もいるでしょう。
しかし、活用できる能力があるのに異動などを理由にそれを眠らせることは社会的な損失であること、個人として経験のない分野での新たな依頼によって開発される能力もあること、また出講や寄稿などの情報発信により人的なネットワークが広がり、それが社会の基盤となって我々公務員業界を支え、互いに高め合う基礎となっていること、を考えれば、こうした公務員の「副業」活動はもっと推奨されてしかるべきだといつも思っています。

 しかしながらこの「副業」には地方公務員法に定める「営利企業の従事制限」という厄介な難敵がいます。
地方公務員としての本業以外のことに従事し報酬として対価を得ることは原則として禁じられており、そういった業務に従事する場合は任命権者(わかりやすく言うと首長)の許可が必要です。
公務員の「副業」は、職務専念義務への支障、信用失墜、利益相反、職務上知りえた情報の私的流用による利益享受が問題となることから、こういった懸念がないかどうかを確認し、個別に許可をするこということになっているのです。
この制度については様々な問題があり、以前も「示されない許可基準」について取り上げたことがありました。

 この事例にもあるように許可基準は明確に示されておらず、自治体、任命権者によってその対応はまちまちです。
地方公務員仲間でこの話をすると、ある分野で功績のあった職員が他の分野に人事異動し、異動前の取り組みについて登壇や寄稿などの労役提供の依頼があった際に、依頼のあった分野は現在の職務内容とは関係がないことから、報酬を受け取るのであれば許可が必要になり、しかしながら許可基準が不明瞭で許可が得られない可能性があるため、報酬を辞退して依頼を受けるケースや依頼そのものをお断りする事例も相当数耳にします。
報酬を受け取らないというのは許可不要とするための方便ですが、許可不要とすることにより組織としてその「副業」が把握されることはありません。
しかし、無償のボランティアであれば、先ほど述べた職務専念義務への支障、信用失墜、利益相反、職務上知りえた情報の私的流用による利益享受といった弊害がないかチェックしなくてもいいのか、というところに制度上の不備を感じますし、対価性を否定することでその依頼を受け趣旨を全うするために時間や労力を割くモチベーションを損なう恐れもあると私は思っています。
また、依頼を断るとしたら、貴重な知見を共有し、教え合い学び合いで社会全体を成長させる絶好の機会を逸することとなり、大きな社会的損失になると私は思います。
 
私自身、これまで数多くの「副業」に従事する中で感じるのは「本業に専念せよ」といういわれなき批判圧力と「公務員は清貧に甘んじるべき」という偏見です。
時間外、休日、あるいは年休を取っての活動であっても「仕事をしていない」との風評は絶えませんし、それが本業に役に立つのか、市のためになるのかといった狭い了見の陰口を耳にすることもあります。
私以外にもこのような経験をした公務員仲間は多く、自らの能力、経験を社会の役に立てたいという使命感でやっているのになんでこんなことを言われないといけないのか、とがっかりさせられます。
また、そもそも公務員が「副業」として報酬を受け取ることそのものについて「雇用の安定した高給取りのくせに副業なんぞけしからん」という風潮も感じます。
公務員は全体の奉仕者ではありますが、ボランティアが当たり前というわけではなく、報酬辞退を前提とした労役の提供はその労役に対価性がないとの社会的理解を生んでしまうとの懸念を私は強く抱いています。
 
ここ数年、地方公務員の副業が解禁になったとの報道がなされています。
神戸市や生駒市などでは、報酬を得て行う公益性の高い継続的な地域貢献活動や社会課題の解決を目的とした地域活性化の取り組みなどについて明確な許可基準を設けて活動を推奨する制度の運用が始まっています。
こういった動きを受けて、国も地方公務員の兼業についての整理を始めました。
しかしながら、これらの事例はあくまでも公益性の高い活動に限定されており、今までも申請すれば許可された内容のもので、基準が明確になったことは画期的ですが許可の範囲が拡大されたわけではありません。
 
一方で、民間企業では、行政サービスでの活用を想定した商品やサービス開発におけるユーザーニーズの把握や当該企業が持つリソースを活用した社会課題解決のためのビジネスアイデアのブラッシュアップなどにおいて、対価を払ってでも現役の公務員から情報を得たいとの声をよく聞きます。
また、我々公務員側でも、せっかく豊富な行政経験により培われた専門知識が人事異動によって活用される機会を失い、当該知見を有する職員の副業禁止によって異動後にその蓄積された知識等を外部で共有、活用することが困難になるということが起こっています。
年々増加する中堅公務員の中途退職の事例の中には、豊富な行政経験あるいは先駆的、専門的なノウハウを有した職員が官民連携や地域振興を志向する中で外部からその能力活用を請われ、中途退職し転職、起業するケースも見られます。
先進事例を成功させた職員がそのノウハウを伝授するために行う他の自治体へのコンサルティングなど、ニーズがありながら現役の公務員が報酬を伴って従事することが難しい分野においては、公務員をやめない限りその経験や能力を活用することができないのです。
 
現行法は地方公務員が持つ経験、ノウハウを埋もらせることなくビジネスとして流通させることを想定しておらず、人事異動によってその知識経験の多くが眠れる資産となることを甘受しています。
また、官民連携が声高に叫ばれ、官民をつなぐブリッジ人材のニーズは非常に高まっていますが、中途退職者でしかその人材市場を埋めることができないという課題があり、公務員がその職にありながら、能力や知識経験を活用して官民連携や地域振興の橋渡しを行うことができる枠組みには至っていません。
公務員の副業規制は、公務の能率性確保、職務の公正性確保、職員の品位保持のためとされています。
言うまでもなく、私たち公務員が持っている能力は、市民が求める仕事に充てられ、市民がその効果を享受できるものであるべきだということは私も同じ気持ちです。
しかしながら、その能力発揮の対象は雇用された自治体で職務として担当する領域だけに限定するべきものではなく、当該自治体以外の行政運営や社会全体が抱える課題にリーチし、広く社会に還元することで世の中全体を変えていく一助となればいいし、世の中をより良い方向に変えていくのはそれを仕事として担当する者だけが担うわけでもないし、またそのために行う外野の活動がすべて無償で行われることが前提とされるべきではないと私は思っています。
もちろん、このような考え方が市民権を得るためには、私たち「副業」公務員がその効果をきちんと社会全体で認識してもらえるよう、「副業」を適切に実践し、その成果を評価に付し、それを発信、共有していくことが必要だと思っています。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
★書籍を購読された方同士の意見交換や交流、出前講座の開催スケジュールの共有などの目的で、Facebookグループを作っています。参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
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