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本を書くのは「兼業」か

単著出版を控えたこのタイミングで、この事案について意見を求められました。


都立高校の教員が自身の育児体験をツイッターに投稿したエッセー漫画について、出版社から書籍化を打診されたため職場で許可を求めたところ、書籍化に必要な許可が得られなかった、という話です。
おい、今村、お前公務員なのに本なんて出して大丈夫なのかというご心配の声をお聞きするわけですが、安心してください。許可を得ていますよ(笑)

このことについて地方公務員法第38条はこう規定しています。
「職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。」
そもそも「兼業」不許可という見出しがこの問題への理解のなさを表しています。
法律の上では、我々地方公務員は、この規定により任命権者(市長や市教育委員会など)の許可を得なければ「報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない」とされているのです。

この規定の運用は自治体によって差がありますが、要はそれが本来の業務と並行し反復して行われる、いわゆるサイドビジネスとしての「兼業」か、一度限りの寄稿や登壇かどうかにかかわらず、またその額や職務との関連性にかかわらず、職務以外で許可なく金銭報酬を得ることは禁じられているということです。
逆に言えば、許可を得ていれば何の問題もなく、公務員なのにサイドビジネスで稼ぎやがって、という世間の批判にさらされることもありません。
その代わり当然、許可(我々は今回のような印税や原稿料を受け取る場合でも「営利企業従事許可」という手続きを踏んでいます。)を得るにあたっては、本来の業務に支障がないか、特定の個人や企業への便宜を供与するものでないか、公務員の信用を失墜する公序良俗に反したものでないか、などの判断基準に照らし、そのいずれも問題がないと判断される必要があり、私はその許可を受けているので心配はないということなのです。

今回報道された事案で訴えの争点となっているのは、不許可の理由です。
記事の中では「不許可の理由が示されていない」ことを理由に不許可処分の取り消しを訴えているとのことなので、許可すべきかどうかで争っているわけではないということをまず理解しましょう。
不許可とする理由が示されたのちに初めて、その理由は法が求める地方公務員の営利企業従事の禁止目的に合致するか、という争いに発展する可能性があるにすぎないのです。

私は「これは許可すべき」とか「不許可が当たり前」という判断をすることはできませんが、一般的に法が個人の行動を禁止する場合、その禁止規定がなければ原則的に自由であるはずの行動を禁止するわけですから、禁止する側に禁止すべき理由の公益性と禁止という規制の合目的性があってしかるべきであり、その立証責任も禁止する側にあると考えるのが通例です。
勤務時間外に、通常の勤務に支障がない範囲の作業量で、公務員としての信用失墜につながらない行為を行い、それが特定の個人や企業への便宜供与、利益誘導にならず、その対価として社会通念上妥当な価額の報酬を得ることは、禁止すべき正当な理由がなければ禁止してはならないと私は考えています。

よく、公務員が家業以外のビジネスを行うことは「兼業」だとして批判的な意見を述べる方もおられますが、それは本業への支障や公務員の信用失墜のリスクがあるかどうかで判断すべきであって、一概にNGというわけでもないだろうというのが私の考えです。
例えば時間外に別の仕事をすることで疲労がたまり本業に専念できないとか、副業ビジネスのことが気になりすぎて本業に集中できないということがあってはいけませんし、怪しげなものを売りつけて公務員全体の信用を損なうということもあってはなりません。
職務上知りえたインサイダー情報でもうけ話を画策するなどもってのほかです。
世間一般で皆さんが「公務員の兼業はけしからん」と言っていることの多くは、こういう事例を想起してのことではないのかな、と思います。

しかし、私や多くの公務員仲間が手掛けている、仕事や家庭、オフサイト活動などで培った知見をまとめ、広く情報発信することはその提供された情報が社会の役に立つものとして流布することで公務員の存在価値を高めこそすれ、その信用を貶め、職務に悪影響を及ぼすものだとは到底思えません。
報道の事案で発信されているツイッターのエッセー漫画も、きっと世の中の役に立つものとして受け入れてもらえる有益性の高い情報だと思います。
それがなぜ不許可なのか、なぜこの教員の希望はかなわないのか、私もよく知りたいと思いますし、そういう視点で皆さんもこの事案の行く末に関心を持っていただけたらと思います。

公務員が職務以外の場で活動し、そこで報酬を得ることについては、様々な事例があり、判断があり、また市民が形成してきた世論があります。
私自身、このことはずいぶん前から考え、自分なりの考えを持ち、SNS等で発信してきています。
この場でも少しずつ私の考えを発信し、皆さんのご意見もお聞きし、「対話」を深めていきたいと思います。
公務員が仕事以外の場で活躍し、報酬を得ることについて、ぜひ皆さんの意見をお聞かせください!

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