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岡井隆歌集『鵞卵亭』を読んで

岡井隆歌集『鵞卵亭』を読んで

『鵞卵亭』は一九七五年、岡井隆が四十七歳の年に刊行された。あとがきには「七○年と七五年の作品のアマルガムである。」とある。アマルガムとは合金のこと。一九七○年、九州へ移住して作歌を中断したあとの「再誕」(篠弘「再誕岡井隆論」)第一冊目の歌集といわれる。六つの章、137首から成り、「鵞卵亭日乗」以降の作品が「五年間の作歌の空白ののちに詠まれたもの」(篠弘、同前)ということだ。

「浪漫的断片」にみ

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「ただ行為の中にのみ」      ~大口玲子『自由』を読む〜

「ただ行為の中にのみ」      ~大口玲子『自由』を読む〜

はじめに

 大口玲子(一九六九~)は第三歌集『ひたかみ』(二○○五)刊行後カトリック教会に通い始め、二○○八年の復活前夜祭に受洗している。同年六月、長男を出産。第四歌集『トリサンナイタ』(二○一二)には妊娠出産、受洗、被災、避難、宮崎への定住という激動の六年間が綴られている。第五歌集『桜の木にのぼる人』(二○一五)は「東日本大震災後の世界を生きる」が大きなテーマになっている。第六歌集『ザ

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