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新装版 A.P.ルリヤ著『言語と意識』(金子書房)ー導入編

昨年金子書房さんからA.P.ルリヤ著『言語と意識』の新装版が出た、という情報をツイッターで知って入手して読み始めたのが2020年11月下旬。

1982年に日本語版初版が出たから約40年前のものだが、中身は全然古くなく、むしろ新鮮な発見に満ち溢れていた。恐らく学生時代や言語聴覚士になったばかりだったら読みきれずに挫折してしまったかもしれない。

とはいえ本文だけで400ページもあるからコツコツ読み進めてようやく読了することができた。久々に重厚な名著を読んでフルマラソンを完走したような気分になっている。

ルリヤについて

ルリヤについては言語学や言語病理学を学んだことがある人なら一度は耳にしたことがある名前だろう。彼が師事したヴィゴツキーと共に旧ソ連での心理学や言語学の礎を築いた人物で、失語症や言語発達の研究などでも名高い。

当時は画像診断技術も未発達だったから、言語の機能について研究するには様々な言語の形態を比較することはもちろんだが、病気やケガなどで言語機能に障害が出た人に様々な実験をする、作成したテストなどを多くの人に実施してみて結果を分析するといった方法が中心だった。

ロシア革命直後で文字を習得していない農民にも調査をした、という記述も見られ、彼らの研究が政治とも深く関係していた様子が垣間見える。

今ほど学問の垣根もなかったので、心理学・言語学・社会学・教育学・医学といった幅広い分野に多大な影響を与えた。

翻訳者の天野清氏によるとこの本がルリヤの遺稿だったそうで、そういう意味でも彼が言語について最終的にどのように考えていたかを知る手がかりにもなる。

西欧やアメリカの心理学や言語学の理論とはまた異なる雰囲気を持っているし、ややとっつきにくい面もあるが、言語聴覚士を志すならせめて概要だけでも知っておくべき内容と言える。

天野先生のこと

実は天野清先生には国リハ学院時代言語心理学の講義でお世話になっており、当時よく分からぬまま通り過ぎてしまったルリヤの理論を今一度読み直そうと思ったのがこの本を手に取った理由だ。

訳者あとがきにも触れられているが、天野先生は生前のルリヤ氏に指導を受けた方で、そんな人の講義を受けられるとても貴重な経験だったはずだ。

しかし、残念ながらその講義で私が覚えているのは天野先生の声が聞こえにくくて時折近くの入間基地から発着する飛行機の騒音にかき消されていたことと、ロシア語ならではのキリル文字を黒板いっぱいに書かれて困惑したことぐらいだった。

結局テキストとして購入したご著書を読んで何とか凌いだが、今思えば大変もったいないことをしたと後悔している。就職後そのテキストは何度か読み返したが、当時勤務していた職場に寄付してしまったのでこれを機に買い直そうかと考えている。

で、結局!?

本を読んだ詳細な感想も書きたいが、書き始めてみるととんでもない長文になりそうだと気がついた。

ルリヤやヴィゴツキーについて夫に話しても「いやぁ、多分由美の分野以外の人は知らないだろうから、紹介があった方がいいよ」とのことなので、詳しい感想や考察などはまた別にまとめようと思う。


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