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廃炉への今ー1Fと中間貯蔵施設②

本稿では、福島第一原発の現況を中心に。
進む“廃炉作業”を見ていただきたい。
前半記事はこちら


廃炉資料館で考える事故の状況

はじめに、前半記事で掲載しそびれた「中間貯蔵施設」内展望スペースからの1Fを見ていただきたい。廃炉作業が進んでいる様子、皆さんはどう思われますか。

筆者にとって、2度目の東電廃炉資料館へ。
事故前は、福島第二原子力発電所をPRする目的で建設された「エネルギー館」。
現在は、大型シアターが設置され、当時の状況等を見ることができる。
展示エリアでは、原子力政策のパネルや原子炉の建築構造、更には、当時、事故収束にあたられた社員の方の声などが紹介されている。
事故経験者が減ってきている中、社内でも若手に伝えるようにしているとのこと。
事故がどのようなものであったのかを知るためには、ぜひ一度お立ち寄りいただきたい。ちなみに、前回訪問時の記事はこちら

入るとすぐに大型パネル。2階建てで、資料も豊富。
事故発生時の状況。4号機以外は、非常に緊迫した状況だったことがわかる
“放射性物質”は5つの壁で守られるが、人智では抑えきれなかったのが、1F事故
中央制御室をモデルとした展示
第二原子力発電所までが被害が及んでいたら大惨事だった。
1Fとは、直線距離:約11. 5kmとなっているが、原発を密集して建築するのは危険だ。
“根本原因”は何か。津波対策をはじめ、予測が不十分だったといえる。
“安全神話”に陥っていた原発(原子力)政策がわかる
「反省と教訓」はもちろん、原発政策の「規制と推進」の癒着も問題であった。1F事故を経て、“40年ルール”という原発の運転期間が「原子炉等規制法」の改正(2013 年7月)で設けれたらが、今回の
GX法ではそれが突破わられる形に…
復興に向けて、さまざまな形で進められている。

防護用装備等を装着して、1F入構。

入構前に、東電の方より視察コースの説明や注意事項などを受ける。今回は、今夏に放出が開始された「ALPS処理水」の海洋放出状況などを見ることが目的。
どこで、処理後の水と海水が混ざり、希釈されるのか?
どのあたりから海洋放出されているのか?
どのタンク群から移送等が行われたのか?等々
質疑では(時間が足りなくなるほど)闊達な議論が行われた。

指で示していただいているあたりが、希釈する設備群

入構にあたっては、厳密な入退域管理がされ、事前に個人情報等と、確認の為の身分証の種類までも登録する必要がある。
入構時の流れは以下の通り。イメージとしては、空港のセキュリティゲートで一人ずつ名前を呼ばれ、顔の確認(事前情報との照合)を経て、手荷物検査・ゲート通過という流れだ。
これだけ厳しい確認があるにもかかわらず、柏崎刈羽ではID不正利用があった。なんとも不思議だ。(こんな平易に言ってはいけないが)
この際、個人線量計も身につける必要がある。
なお、1日4000から4500人の方が作業に従事されているとのことである。

写真撮影は禁止(というか、スマホ持ち込み禁止。ICレコーダーも基本不可)撮影は、東電の同行の方にお願いすることとなる。
貸与される個人線量計は、以下転載写真を参考いただきたい。首からかけたストラップに付け、同じく貸与されるベストの胸ポケットに入れて移動する。
退域時には、被ばく線量を確認し、それぞれ返却する。

出典:毎日新聞「見つめ続ける・大震災 綱渡りの廃炉作業 福島第1原発、奮闘の7000人」(2016/3/5)

はじめは、海洋生物飼育試験施設の見学。

ヒラメとアワビが飼育されているが、「処理水が含まれた海水と、普通の海水の両方で海洋生物を飼育し、双方に差がないことを目に見える形で示し、処理水の安全性を証明することにある。」
ちなみに、X(旧Twitter)でも発信されている。

東電撮影:海洋生物飼育試験施設

この後は、専用バスに乗車して移動。バス車内には、放射線量を示すモニターも設置されている。都度、スピードを落として東電の方が案内してくださる。
道中では、タンク群や汚染水処理設備の建物等を抜けていく。
そして、1〜4号機が見える丘にて、“1Fの今”を見ることができる。

東電撮影:春には桜が咲くと

廃炉進む1号機、いまだに高い放射線量

1〜4号機の状況は、バスを降車して見ることができる。(昨年8月に「1~4号機側 ブルーデッキ」と改称したとのこと)
2〜4号機は事故直後の面影は薄れつつあるが、1号機については、水素爆発があったことはいまだにわかる。
現在も1号機には392体の燃料棒が燃料プールに残っている。
これを取り出すためはもちろん、作業環境の構築、雨水流入抑制を目的とした大型カバーの設置も進められているところである。ちょうど、大きな部品が吊り上げられるなどの作業が進められていたが、作業エリアは高い放射線量となっていた。

なお、展望台の下あたりに、汚染水対策のサブドレンや凍土壁がある。
前回の視察でも言及したが、この地は、元々海岸段丘地帯。段丘の海側は切り立った崖であったが、段丘を掘り下げて現在に至る。
容易にわかることだが、水は高いところから低いところへと流れる。ここで食い止めないと汚染水が永遠と海へ流れ、染み出ていってしまうのだ。

東電撮影:左から、2〜4号機
東電撮影:1号機
東電撮影:1号機の手前の排気筒はすでに半分の高さに解体されている。安全上の理由からということで、2020年4月に完了している。なお、「2011年の事故で、1号機原子炉格納容器の圧力を下げるベント(排気)に使われ、内部が高濃度の放射性物質で汚染。」
東電撮影:1号機の作業の様子
東電撮影:作業現場を見下ろすと、この数値
東電撮影:一方、我々が降りた展望エリアの数値はこのように

夕焼け染まる海ー「ALPS処理」後の海洋放出口

「ALPS処理水」の海洋放出が始まり、早四ヶ月。
今年度は、約3万1200トンの水を4回に分けての放出する計画で、11月30日に3回目が完了、これまで計2万3351トンが放出された。
他方、10月25日に、ALPSの配管を薬液で洗浄中、廃液をタンクに送るホースが外れ、数リットルが飛散し、作業員が被ばくする事故も発生した。
(詳細は、まさのさんの記事ご参照)

ただでさえ危険が伴う様々な廃炉作業、安全確保は非常に重要だ。
こうした中、海洋放出という決断をした政府だが、現場はどうなっているのか。
1〜4号機を見た後、施設内を再びバスで回った。

東電撮影:高性能 多核種除去設備(高性能ALPS)が建物内にある
東電撮影:同

「ALPS」設備が設置されている建物からは移送配管が張り巡らされている。
1000を超えるタンクには、アルファベットが付いているが、これはタンクができた順。また、移送の観点から希釈設備に近いところから処理水への流しているとのことだ。
ちなみに今年は、約30基分の放出計画。放出完了まで、30〜40年かかるとされる…。
ここで、改めて位置関係を確認いただきたい。東京新聞の写真を引用させていただいた。こちらを参考に、以下お読みいただきたい。

出典:東京新聞「7割は再び処理が必要 福島第1原発の「処理途上水」の実情とは」(2023/9/4)

ちなみに、「ALPS(アルプス)」って何?というのが、筆者が原発政策に関わりはじめた頃に思ったことだ。今思えば、音の響きだけ聞くと、某ミネラルウォーターを連想してしまっていたが、無知とは怖いものだ。

汚染水は増え続けているが、「ALPS」だけで処理がなされているわけではない。「サリー」「キュリオン」という装置に通されて、セシウムやストロンチウムが先に浄化処理されている。報道だけ見ると、その処理方法はわかりにくいが、ありとあらゆる手法で放射性物質の除去が試みられている。

海洋放出前には、各放射性物質ごとの濃度の限度「告示濃度限度」を踏まえ、が基準値を下回るよう、海域モニタリング等で計測されているが、放出口付近で放射性物質が滞留・沈澱しないのかという指摘もある。
これは、放出をしているタンク群も同様で、タンク内を撹拌するというが、古いタンクほど沈殿物もあるだろう。希釈したとしても、除去しきれないトリチウムや、デブリから溶けたテルル・ストロンチウム等も含まれている点をどう見ていくかは今後も注視すべきだ。

「ALPS処理水」とは、東京電力福島第一原子力発電所で発生した汚染水を多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)等によりトリチウム以外の放射性物質を環境放出の際の規制基準を満たすまで繰り返し浄化処理した水のことです。

環境省HP
出典:環境省HP。浄化処理の流れ、実際に「汚染水」と「処理水」を見たが、その透明度はポンチ絵の通り、かなり違う。浄化装置の性能はすごいかもしれないが、その後の処分もどうするか?

5~6号機側 グリーンデッキへ。昨年6月後半から設置されたエリアで、希釈放出設備と放出口が一望できる。あいにく、希釈放出設備はセキュリティの都合で撮影不可だが、以下に転載した YouTubeをご参考いただきたい。

海洋放出は、5・6号機付近の海側に設置された深さ約18メートルの水槽のような場所で海水と希釈された後、トンネル内を流れ、沖合約1キロの放出口から海へ放出される。
海洋汚染防止を目的とする「ロンドン条約」に反しないか?という指摘もされてきたことを留意されたいが、実際に見ると、放出口はほとんどわからない。

東電撮影:クレーンの先に放出口があると
東電撮影: グリーンデッキに設置されている案内板。赤く「現在地」とあるのがデッキ付近。5、6号機あたりに吹き出しが多数あるが、希釈設備(プールのようなもの)はこのあたり。
東電撮影:同。

また、トンネル採掘にあたってのシールドマシーンの一部やセグメント(トンネル壁面材)も展示されていた。1年にも満たない工期(採掘作業は2022年8月4日開始、翌2023年4月26日完了。同6月26日には全ての工事が完了)で使用されたものだ。

東電撮影:シールドマシーン
東電撮影:セグメント

デッキからは、1号機などを違う角度から見ることもできた。
ちょうど夕焼けが鮮やかに映える時間帯。雄大な自然が作り出した海・太平洋と“人間が作り出した”原発という巨大な建造物の対比を見つめつつ、自然との共存、地球に生かされることを改めて考えさせられた。

東電撮影:手前から、1号機〜4号機。前で紹介した写真は、この写真の右側から撮影したもの。

この後、乾式キャスク仮保管設備を見た。
使用済み核燃料をどう処分するか、そして“破綻した”核燃料サイクルを継続すべきか否か…市民の分断を生むことはこれ以上あってはならない。バックエンドの議論を早急に進めていくべきだ。

最後には、「ALPS処理水」のサンプルを見た。
増え続ける汚染水対策は繰り返し述べたが、スラリー(放射性物質の汚泥)や空になったタンクなど、新たな“放射性廃棄物”の処分方法も課題だ。

自然災害と原発をどう考えるか

2024年元旦、石川・能登半島で大きな地震が発生した。今も大変な思いをされている方がおられる。1日も早く安心した生活が戻られることをお祈りする。

1F事故時もそうだった。
地震(津波)対策をどうするか、である。
幸い運転中ではなかった志賀原発だが、原発の約30キロ圏内に約120カ所のうち、周辺15カ所のモニタリングポストが測定不能となっている。
震度5強の揺れを観測した新潟県柏崎市・刈羽村には、昨年12月27日運転禁止命令が解除された柏崎刈羽原発がある。地震による異常はなかったものの、かねてより、大雪時に原発事故が起きた際、避難経路をどう確保するかが課題となっている。

我が国は、原発を動かすに値する安全性は持ち合わせているか。
「新規制基準」が見合っているものなのか。
昨日4日、総理は会見で「原発再稼働を諦めるべきでは?」と記者から質問を投げかけられたが、その答えは、「無」

「原子力を活用し続ける上では、「安全神話」に陥って悲惨な事態を防ぐことができなかったという反省を一時たりとも忘れることなく、安全を最優先で考えていく。」(第6次エネルギー基本計画(令和3年10月))

我が国はどこへいくのか、エネルギー政策はどうなるのか。
今年にも策定予定の第7次エネルギー基本計画の動向にも注視したいが、何ら“反省と教訓”が肝に“免じられていない”政権に政策を委ねていいものだろうか。

事故を風化させてはならない。
「フクシマの声を忘れるな」。
今一度私たちも思い起こすべきだ。

【タイトル写真:1Fから富岡駅への車中から】
(参考)

・読売新聞『福島原発「処理水」の海洋放出、迫るタイムリミット…廃炉の現場ルポ』(2023/02/16)
・同「福島第一原発で続く廃炉作業の厳しい現実、燃料デブリの取り出しはいつになる」(2023/02/18)
・東京新聞『処理水の海洋放出を開始 東京電力福島第1原発 「不安な思いは増している」と漁業者団体』(2023/8/24)
・東京新聞「福島第1原発、3回目の処理水海洋放出を始める 被ばく事故から8日、東京電力はまだ詳しい説明できず」(2023/11/2)
・FoE Japan「【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント」

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