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脚本家・坂元裕二に学ぶ「書く」姿勢

もうね、大好き。ほんとに大好き。脚本家・坂元裕二さんの作品が。

カルテットで大ファンになってからの、今回の大豆田とわ子と三人の元夫でもう坂元愛が爆発してしまって。ここ1ヶ月くらい、緊急事態宣言で多くの取材が延期になったのをいいことに、坂元裕二脚本ドラマを見まくったのでした。

で、ビンジウォッチングだけでは飽き足らず、ついに坂元裕二の集大成感がプンプン漂う本「脚本家 坂元裕二」を購入。

これ実は2018年に初刷が発行されてて、その当時買おうかどうしようか相当迷った一冊だった。だけど辞めたのは単に2,750円という価格にビビったからだ(小心者)。

読んだ今となっては1万くらいまでなら全然出せるぞと思うのだけれど、その当時は2,750円払うモチベーションが湧かなかったのだった。

だけど私の経験上、一度スルーして何年後かに購入した本にハズレはない。このタイミングで読んだのは正解だった。

本の魅力は坂元裕二ファンとして確実に幸せな読書タイムだっただけではない。脚本といえど同じ「書く」仕事として、ライターとしての学びも多々あった。今回はそのあたりも含めて紹介したい。

POINT1:本そのものが美しい

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一瞬話が逸れるのだが、最近Amazonで本を購入すると、少し曲がってたり折れてたりして届くことが多いのは何故だろう。

これがSDGs的なアレで梱包を削減してるとかなら全然OKだしずっとそれでお願いしますと思うのだが、そうじゃないなら綺麗な状態で手にしたい。

はい、ごめんなさい話を戻します。

まず表紙。表紙、めっっっっちゃ良くないですか!!!!?

紙に全然詳しくないんで表現がアレで申し訳ないのだけれど、和紙とあぶらとり紙が合体したような温かみある手触りの表紙に、各ドラマのタイトルと坂元裕二の名前だけがシンプルにドン!

ああなるほどな。Amazonで見ていたから躊躇していたのか。本屋で見てたら即買いだった。高級羊羹の包み紙みたい(もうほんとに表現が乏しくて申し訳ない)になめらかな表紙は、手に持った瞬間手放せなくなる。

そしてこの表紙の一番の魅力は、究極的にシンプルなことによって、坂元裕二の作り上げた数々のドラマの奥深さが、気配として凄みを放出するところだと私は思う。

私くらいファンだと、表紙を眺めているだけでもう涙が滲む。

POINT2:豪華な対談

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坂元裕二脚本といえば、ファンの方はそれぞれ頭に浮かぶ俳優さんがいるのではないだろうか。私の場合は満島ひかりさんと田中裕子さん、瑛太さん、松たか子さんだ。

本の中では、満島ひかりさん、瑛太さん、宮藤官九郎さん、有村架純さんとの対談があり、さらに風間俊介さん、YOUさん、松たか子さん、広瀬すずさんのインタビュー記事が掲載されている。(豪華!)

全部が全部、本当にしみじみ愛しみながら読ませていただいたのだけれど、中でも満島ひかりさんとの対談はかれこれ5回は読んだ。

一番好きなやりとりがある。Womanにて、坂元さんが満島さんに「私が死んだら子どもたちをお願いってセリフ、言わなかったよね」と言ったのに対し、「あ、切りましたね」と満島さん。

「死ぬことを自分で想定するのが嫌だったのかな」という坂元さんの見解に対し、満島さんが言ったセリフがかっこよかった。

たぶん、裕子さんとだったら言わなくても分かると思ったんですよね。
裕子さんと一緒のときは、ほんの少しでたくさんのことが伝わるから。セリフがちょっと多すぎるかなって思うこともありました。

このシーン、とてもよく覚えていて、なぜなら私はこのシーンを見ながら「私が死んだら子どもたちをお願い」っていう空気を、実際にセリフとして語られたように感じたのだ。

これを読んだからとかじゃなくて本当に「言ったんじゃないか」ってくらい入ってきて、シーンからセリフを感じたっていう体感が人生ではじめてだったから心底驚いて、驚いたから鮮明に覚えている。

ドラマの撮影現場なんて想像したことがなかったけれど、脚本家と俳優さんってそんな風に信頼し合うんと思って心から感動した。

POINT3:坂元裕二の「書く」姿勢

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ああなるほど、だから私は彼の脚本が好きなんだなぁと思うことがたくさんあった。もうこれはファンにとっては共感でしかないと思うので、つべこべ書かず引用させていただくことにする。

「登場人物が本当のことを言わない」というのは僕のベースになってることで、本心をそのまま言葉にできる登場人物には魅力を感じないんですね。(中略)言葉では嘘を言わせて、本心を伝える。
言葉で説得するということが、どんどん嫌いになっています。「説得」って人の心を支配するようなものですよね。どうすればこの人の心を変えられるか?ということを考えながらセリフを書くことになる。そこにまず嫌悪感がある。そもそも説得で変わる人っているのかな、嘘っぽいなって思います。言葉で変わるくらいなら初めからやんないだろうって。
ドラマが終わったあとも「あの人たち、今もどこかで生きてるんじゃないだろうか」って思えるようなドラマをつくること。これが僕にとって一番大事にしていることで、それが連ドラのお客さんと交わしている約束なんだと思ってる。

私が坂元裕二さんの脚本が好きな理由の大部分に、細かい描写がとてもリアルなところと、悪役が簡単にいい人にならないことと、普段のちょっとした会話を大切にしている登場人物と、そこから放たれる言葉の妙がすぎるところなのだけど、ああやっぱりすごく誠実にそれらを意識していらっしゃるんだなぁと尊敬の念がふつふつと湧き上がってくる。

そしてここから先は、書くことの姿勢について。教訓として今後のライター人生に言い聞かせて生きようと決めた言葉を引用させていただく。

どこかで誰かがひとりで「こんな風に思ってるのは私だけなのかな」と思ってるのを見つけてきて書くのが仕事だと思ってる。
『カルテット』で意識していたことがありました。ベテランの芸能人の方たちが「最近はコンプライアンスとか苦情が多くて、面白いものがつくれない」ってよくおっしゃるじゃないですか。「女性をブスって言ってもいいじゃないか。セクハラもコミュニケーションだ。差別も言論の自由だ」っていうのを僕は疑問に思ってたから、それを全部クリアしても面白いものがつくれると思いますけどね、ということをやってみたかったんですね。
「書いて消したものも、脚本に残ってるはずだ」と思ってるので、捨てたものの量が、残ったものの豊かさにつながるはずって信じてやってるんですけど。
脚本家の僕が正義だと思ってしまうと、人のことが見えなくなりますよね。自分と考え方が違う人がいても、どういうことなんですか?って、書くときの糧にしたいと思います。

はい。もう本当に素敵なお背中を見せていただきました!という気持ち。

私はどんな気持ちを、どんな挑戦を、どんな余韻を文章に込めたくて、どう歩んでいくのか。そんな壮大な問いかけに、向き合おうとできるほど揺さぶりをかけてくれた。本当に物凄い本だ。


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