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ままごとが好きな男の子は恥ずかしいの?

次男は小さい頃「おままごと」が大好きだった。自転車やボールにはさほど興味を示さず、おままごとがとにかく好きだった。

義父は、それをいつも何か奇異なものを見るような目で見た。義父の感覚では男の子はキャッチボールを喜んでするのが当たり前で「ままごとなんか」するのはおかしいのだ。おそらく、次男がおままごとをすることを止めずに小さいままごとセットまで持ち歩いている私のやり方も気に入らなかったのだろう。

義父は毎回次男に会うと「ままごとなんかしてるの?」と言った。その度に、私は胃がギューッとつかまれるようだった。義父なりに次男を可愛がってくれていて、次男のためを思って小さいうちに「普通に」なるようにしようとしていたのはわかっていたけれど、私は「ままごとなんか」という言葉が嫌だった。

料理は、手も頭もフル回転させる。五感、手の動き、様々な要素が組み合わさっている。それに、食べることは大切だ。自分の身体を作ることだからだ。だから、実際の料理もおままごともどんどんやればいいと思っていた。必ず、生きていくための糧になるはずだと考えた。

義父の言葉で、次男が食べることや食材、料理することに興味をなくしたり、嫌悪感、羞恥心を持ったりしてほしくなかった。でも、
「一流シェフは男の人が多いですよ。」
そんな風に言ってみても、結局義父の言うことが変わることはなかった。

一方で、私の両親、特に母は次男のままごと好きを尊重してくれた。実家に帰ると、使わなくなった本物のお鍋や食器を庭に用意して、庭の木の実や花びらを使って遊ばせてくれた。次男は暗くなるまでお鍋に木の実や葉っぱ、水を入れてスープを作っていた。

そういえば、私は小さい頃相当お転婆で、おもちゃのピストルを持って走り回って「太陽にほえろ」の山さんになり切っていたのだった。時には西部警察の大門にも。あの時も、女の子らしくない私を祖父母は苦々しく見ていた。私はそれに気づいていた。でも、両親は私の好きにさせてくれて、母は何かとはみ出しがちな私のことをユニークだと言ってくれた。

これまで意識しなかったけれど、私の母は強い人なのかもしれない。何も言わず見守るということは、あれこれ口を出すよりもずっとしんどいこともある。母が子育てしていた頃は「男らしさ」「女らしさ」が今よりもずっと重視されていたはずだ。

・・・両親の協力もあって、次男は思う存分おままごとをし尽くした。

今、次男はシェフとは全く違う道を目指す大学生になっている。ある時期がきたら、拍子抜けするくらいにあっさりとおままごとから卒業した。食べることが大好きなことは今も変わらないが。

もし、小さい頃におままごとをやめさせても、やりつくして卒業しても、目に見える結果としては変わらないのかもしれない。でも、幼稚園、小学生くらいの頃に自分が「やりたい!」と思ったことが肯定的に受け入れられるか、否定的に受け入れられるかは心の深いところに影響するのではないだろうか。根拠をもって証明できるわけではないけれども、そんな気がするのだ。

もちろん、誰もがやりたいことを何でもできるわけではなくて、経済的、物理的にできないこともたくさんある。そういう意味でやりたいことが出来ないのも悔しいが、いつか条件が整えばできるかもしれないという希望は持っていられる。しかし、「恥ずかしいことだから」やるべきではないと言われたら、いつまでたってもそれをやることは許されないことで、それに興味を持つ自分は恥ずかしい存在になってしまう。

私も、おもちゃのピストルをもって走り回るのを両親から「そんなことをするのは恥ずかしいことだ」と言われていたら、自分はおかしいんだ、恥ずかしい人間なんだと思っていたかもしれない。

次男は、おままごとに関して義父に理解してもらうことは出来なかったが、母や私という理解者もいたから自己否定せずにいることができた。本人もおままごとが好きだったことはよく覚えていて、
「あの、グリーンピースのおもちゃとレジのおもちゃが本当に好きだったよね。」
と、ニコニコして言っている(なぜか、きれいな緑色のプラスチックでできたグリーンピースのおもちゃがお気に入りで、毎日毎日それで遊んでいた)。そういうところを見ると、ままごと好きだったことをちっとも恥ずかしいとは思っていないようで、ホッとした。

全ての人には理解されなかったとしても、味方になってくれる人がいるということは人間が成長していく上で大きな力になってくれる。そのことを両親と息子が気づかせてくれた。

これからは、私が誰かの力になっていけたらと思う。

今この瞬間にも、理解者が身近にいなくて小さな胸を痛めている子がたくさんいるかもしれない。もしそんな子と出会ったら、ひとりで出来ることは限られているけれど、否定せずに寄り添ってあげたい。





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