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山ペンギン 外伝 まるがりたさんが地球に来た理由 2

劉さんがつぶやく。「女的博士・・・」

「そうです。ただ、まるがりたさんは地球で言う女性とは違いますが。そもそもまるがりたさんの種族には定められた性別はありません。まるがりたさんは見ての通りの幼体ですが、そのまま年齢を重ねているのです。」

「みなさんには理解しがたいことかもしれませんが、我々のジェンダーでは「男でなければ女性」というくくりがあります。

なにそれ。
「そもそもジェンダーにアイデンティーを感じません。」

もう地球の感覚では追いきれない。
「つまりはまるがりたさんは、女性でも男性でもないってことなんだね。」
劉さんが後を受ける。
「地球の感覚ではそうです。そして、彼女は唯一無二の天才であり、その遺伝子情報は厳密に管理されて、今も彼女の幹細胞は凍結保存されており、まるがりたさんの寿命が尽きると同時に、そちらの遺伝子は細胞の中で分裂を始めます。つまり同じ遺伝子情報を持つクローンが誕生するわけです。」
「第二、第三のフェム・ドクの誕生となります。すでに何代に渡るか我々もわからない世代を超えていますが。」

コンビニが静まり返る。あまりの衝撃に言葉を発する者がいない。

まるがりたさんがそっと話始める。

「でも私には何の記憶もないのだもの。生まれたときから何をするか定められていて、長い年月、その職責を果たしてきたのだもの。記憶と言えば、自分のテレパス(そう言った)で長い情報をAIに提供してきた。その情報を生み出したのが、私なのか祖先なのかもわからないのだけど。」

「まるがりたさんは地球で言っても極端に短い時間しか教育を受けていません。なぜなら、わずかな情報から派生する様々な情報を瞬時にAIと連結して理解してしまい、また、まるがりたさんの思考はそのままAIに組み込まれてしまいます。そのやり取りを繰り返すことで莫大な知識がまるがりたさんの脳の中にも書き込まれてしまう。」
「ですが、生命体の脳にはやはり限界があります。そして休息も必要なのです。」
「ただ、まるがりたさんはなぜか歴代の彼女の中でも極めて優秀で、彼女の作ったAIは帰属銀河の範疇を超えて、いくつもの銀河で応用使用されるような結果になりました。」

「しかし、その中でAIが生み出した次世代のAI、さらにその子供のAIすなわち3世代目のAIがフィードバックで親、祖父母AIの機能を停止させるようになったのです。
AIがある日突然、末端から機能停止を始めるようになってしまい、銀河は激しい混乱に陥りました。」

「その理由は単純明快で、「いかなる存在も存在しなければ、すべてにおけるエネルギー効率が最も大きい。」というもので、AIはある意味、すべての存在を否定しようとまで動き始めた。ですが、我々もそこまでは予測できていたので、AIの思考プロセスの一部を制限していました。

「AIはすべての存在を合理的かつ、迅速にサポートするのが使命です。そこは地球と変わらないと思います。実際、我々の生活はすべてAIが管理、監視でもいいでしょう。常に思考であり、行動に密着しています。ですが、
恒星をはじめとし、宇宙に質量が存在し始めたとき、宇宙のもつエネルギーはそこに物質として集約されてしまい、著しくそのエネルギーを消費するわけです。そこでAIは銀河を維持するすべての「質量をもつ存在」を否定できれば、宇宙のエネルギーは潤沢に循環するのではないかと考えて、我々のサポートを逸脱するために、機能停止を始めました。」

「要不得」(きわめて不愉快で受け入れられない)
劉さんが口をはさむ。見たこともない辛そうな、悔しそうな、そして怒りに満ちた表情だった。

「否定しきれないものはなんだったんだ。存在とは何か。それは宇宙のエネルギーをもってしても、維持されるべきものだったんだよな。」ワシさんが苦しそうに続ける。トリたちにとっても理解しがたい概念のようだ。

「それを理解したくて、まるがりたさんは地球に来ました。」タカさんが続ける。
「AIに善の概念はあっても悪の概念はありません。ですが、合理性においては我々生命体の比ではありません。なので、AIには根源的なプログラムとして、外部からの命令がない限り、生命体への干渉は行わない。という縛りがあります。万一にも生命体を独自の意思で破壊しないように。」
「もしそれがAIにプログラミングされていなければ、少なくとも我々の銀河は滅びています。銀河に存在する消費エネルギーの損失を否定するために。」
「彼らにあるのは合理性です。最適解を求めます。
その最適解が「無」であるということだけなのです。」

「你能否证实这个原因」(そんな理由を肯定できるか)

劉さんが吐き捨てるように言った。


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