一つのことを掘り下げるのもいいじゃない?読書記録 猫を抱いて象と泳ぐ
読書記録
猫を抱いて象と泳ぐ
小川洋子さん著
2017年
文春文庫
家にあった小川洋子さんの本を
再読です。ことばにならない深い思いを持って生きる人たちの、日常の感情を丁寧に拾い上げるような物語が好きです。
このタイトルも不思議な感じがします。読み終えた今はなんとなく、わかったような、、、。
◎あらすじ
主人公はリトル・アリョーヒンと呼ばれたチェスの達人。
彼は小さな子供の頃、弟と一緒に祖母に連れられてデパートの屋上にある遊園地によく行っていた。
そこで、彼は大きくなり過ぎて故郷に帰れなかった象のことを知る。
大きくなり過ぎることは、悪いことをもたらす
のだ、と悟る。
少年の両親は数年前に亡くなっていた。祖母は深く悲しみ、毎日泣きながらハンカチを握りしめていた。
家具の修理の仕事をしていた祖父も無口で実直な仕事をしつつ、両親を亡くした幼い兄弟を可愛がっていた。
リトル・アリョーヒンは、生まれつき口に障害があり、あまり自分から話すことはなかった。
学校ではやんちゃ坊主たちに、いじめられていた。彼はひとりぼっちだった。
ある日、いつもいじめられている場所のプールに行ってみると、、。
その事で、事情を聞こうとバス会社に行き、その構内にあるバス車両に住んでいる人マスターをしる。
マスターはお菓子作りの名人で、
美味しいケーキやクッキーをつまみながら、チェスをアリョーヒンに教えてくれた。
◎気になった箇所
56ページ
⭐︎チェスを教えてくれたマスターのことば
少年が答えに窮していると、マスターはゆっくりその駒を元に戻し、
「何となく駒を動かしちゃ、いかん。いいか、よく考えるんだ。
あきらめず、粘り強く、もうダメだと思ったところから更に、考えて、考え抜く。それが大事だ。
偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめるのは、負けるときだ。さあ、もう一度考え直してごらん」
「慌てるな、坊や」
◎感想
✳︎自分の思いを表現する機会が乏しかった、リトル.アリョーヒンの少年時代。
生まれつき口に障害があり、大きな口をあけてはっきり話すこともなかったかもしれない。
加えて、幼くして両親を亡くし、祖父母に引き取られるも、弟の方が手がかり、ますます家で自分を出せなかったのかもしれない。
でも、そんなアリョーヒンを丸ごと受け入れてくれて、チェスを毎日教えてくれて、励ましてくれた、マスターとの出会いは彼の人生の宝物だったかもしれない。
チェス盤の上で相手の駒と自分の駒を見比べ、相手がどんな手を使ってくるか、じっくり考える。
そして決断して、一手を打つが、また相手が思うような出方をしてくれない、そしたらまた考える。
きっと、アリョーヒンがチェス盤に向かう時は、いつもマスターの魂と一緒だったかもしれない。
そして、そのチェスで仕事を得たアリョーヒン。チェスの達人の相手をしたり、チームを組んで人間チェスをしたり、自分の置かれた場でやるべきことを、淡々とこなしていた。
同じように目立たない仕事を誠実に積み上げていく信頼できる仲間にも出会えた。
広い世界を見て、たくさんの人と交流しながら見聞を広める生き方もあるけれど、
自分のできることを
深く掘り下げ、周囲の人たちとのゆるぎない関係を築いていく生き方も、一筋の道をまっすぐ歩んでいくようで素敵だな。
と、再読後の今思う。
広い世界が苦手、どちらかと言うと、一つのことを集中して掘り下げるのが楽しい人に読んでほしい作品です。
◎今日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました😊
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