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深夜に書いたラブレターは渡しちゃいけないけど、彼の好きなところを書いていたい。

 午前3時半、久しぶりにベランダに出てみたら思ったよりも寒かった。もう、昼間は半袖でいいくらいなのに、夜はまだ夏になりきっていないことが嬉しい。

 どうしても眠れないから何か書きたくて、パソコンの電源をつけた。通話の先で眠る恋人を起こしてしまわないように、いつもより静かにキーボードを叩く。安らかな寝息が、今夜のBGM。

 特筆することもない日常を過ごしている。休日は眠るばかりで、家事も進まない。昨日だって、私は1日中寝ていた。彼にわがままを言って始めた通話は、彼がゲームをする音を私に届けるためだけにあったようなものだ。
 友人とゲームをしている彼の声を聞きながら、私は1日中微睡んでいた。

 繋がっていないことが不安になる。私は彼のことが大好きなので、彼の負担になっていないか不安になる。恋ってこんなものだっけ?って自問自答して、今までの恋愛が役に立たないことを思い出した。

 彼とお付き合いをはじめるまで、私は好きな人と恋人関係になったことがない。 

 いつだって、私よりも恋人の方が私を好きだった。過去に3人の男性と付き合ってきたけれど、どの人のことも私は親しい友人以上には好きになれなかった。もっと言えば、私は彼らの彼女だった時、彼氏である男性よりも恋愛的に好きな男性がいた。

 私はおそらく異性愛者だ。けれど、この恋を知るまで恋人や配偶者が存在する男性しか好きになってこなかった。私の好きになった人の左手の薬指には、いつも指輪が嵌っていた。
 このことを私の恋人は知っている。私が、感情を抜きにして男性とお付き合いができることも、感情がないまま身体の関係を持ったことがあるのも、心理的浮気状態で誰かの彼女だったことも、全部知っていて受け入れてくれている。

 私は彼が大好きで、嫌われたくない。「好き」に「好き」が返ってくることが嬉しくてたまらない。感情が一方通行じゃない恋を知らなかったから、初めての幸せを抱ききれずにわたわたしている。一方で、嫌われたくないという感情が、私をだめにする。

 静かな寝息を立てる彼を起こさぬように「好きだよ」と口にする。意味もなく名前をよんで「ごめんね」と続けてしまう。きっと、昼間の通話は彼にとって負担だっただろうな、と思っている。勝手に思っているだけで、本当のところはわからない。

 彼が心穏やかに日々を過ごせていたら幸せだと思っている。その側に私が居られるのであれば、それにまさる幸福はない。
 けれど、私はとてもわがままなので、彼の声を聞いていたいと思ってしまうし、できれば私を好きでいて欲しいと思ってしまう。なんて欲深いんだろう。死んでしまえ。

 こうして彼に渡せないままの感情をnoteに書き連ねて満足する。伝えられないことで積み重なっていくもやもやを、ただ吐き出したふりをする。実際に、一時的には気持ちが楽になるから、間違っていないのだと思いたい。

 問題を解決することだけが正しさではない、と思っている。正解を導き出すことは正しいけれど、その正しさは時に人を傷つける。エルキュール・ポアロが、オリエント急行でその事件を解いてからその答えをわざと間違えたように、間違っていることがある種の正しさを生み出すこともある。

 私の恋人は、優しくて私のわがままを叶えてくれようとする。声を聞きたいと請えば、電話をかけてくれる。あなたを縛る印が欲しいと言えば、買いに行こうねと言ってくれる。壊してと願えば、壊し方がわからないから教えて、と。

 彼が本気で「嫌だ」と私にいうのを聞いたことがない。わがままを言ってくれない、と拗ねる私に小さなわがままを渡してくれるような人だ。もっと彼のわがままを叶えたいのに、わがままを言って欲しいという私の願いを叶えるためのわがままは、本当に些細なことばかり。優しすぎて、私はとても怖くなる。

 いつか飽きられるんじゃないだろうか。今、彼はきっと私を好きでいてくれるだろうけれど、あと数ヶ月したらもっと素敵な人を見つけてしまうかもしれない。あるいは、わがままばかり言う私を嫌いになってしまうかも。

 電波が悪くて途切れてしまった昼間の通話に、私はもう私から昼の通話をねだるのはやめようと決めた。もし彼が提案してきたなら喜んで飛びつくけれど。

 これは不安という名前をつけた惚気だし、きっと読まれることがないラブレターだから書き直すこともない。渡せない手紙のようなものをnoteに記しているだけ。本当に渡すラブレターは、もっと彼に見合った幸福ばかりが溢れるものにしたい。

 好き、好きです、好きなの、大好き。
 会いたいし、一緒に眠りたいし、抱きしめたいし、手を繋ぎたいし、キスもしたい。手料理だって食べて欲しいし、好きなお店に一緒に行きたい。テーマパークで一緒にジェットコースターに乗りたいし、静かな公園でピクニックだってしたい。

 したいことばっかり積み重なって、リストにしたら何メガバイトになるんだろう。彼とやりたいことを書き並べたらきっと、一生スクロールし終わらないんじゃないか。

 空はもう、明るくなっている。数時間後、きっと彼は目覚めて「おはよう」と言ってくれるだろうから、私はなんでもないようなふりをして「おはよう」とかえそう。

 あなたに嫌われたくないから、私はあなたにとって邪魔にならない人になりたい。恋人が負担になるなら友人でいいし、友人が嫌なら恋人がいい。友人でも恋人でもいられないのなら、知人でも他人でもいい。死んでくれと言われても、怖がりの私は死ねないだろうけど、殺してくれるのならいいかもしれない。 

 なんでも言葉にしようね、と言ったのに私は臆病さゆえに言い出せずにいる。約束破りのだめだめな私。

 世の中の恋している皆さん、不安は口にしてちゃんとわかり合ったほうがいいと思います。でも、私にはできません。


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