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ありあまる愛

朝子供達の送迎を終えて仕事場に向かう途中、2歳の女の子を肩車して歩くお父さんを見かけた。
お父さんは背広のスーツを着ていたので、出勤前子供を保育園に預けに行く途中なのだろう。その親子とは1週間のうち2回くらい見かけるので、すれ違うときは時たま軽く会釈するのだが、
会えばほぼ必ず子供を肩車している。

同じく1歳と3歳の子供を育てているので、2歳の体重はなんとなくわかる。
11キロか12キロはあるだろう。
決して軽くない重さを軽々と肩に背負い、
女の子はいつも嬉しそうに笑っている。

その光景を見ると、
私はいつも過去の温もりを思い出す。

父と手を繋いで
横浜の山手まで歩く散歩道
私は父と一緒に先方を歩き
後手には母と妹がゆっくり続いて歩く。

横浜の南区、吉野町の稲荷坂から根岸森林公園に向かう散歩道は
坂が5つ以上あって
小学生の私にとって
決して優しい道ではなかった。
でも父と交流できる唯一の時間だったので
父と同じ歩幅に合わせて歩いた。

普段滅多に手を繋がない父は
この時だけはそれを許した。
父の手はいつも汗ばんでいて
私の手も汗ばむ手をしていたので、
汗で滑らないよう
力を入れて握っていた。

特別会話をするわけではないけれど
心は繋がっていると感じる瞬間だった。

中学生になってから家庭環境が変わり、
家族で散歩をすることはなくなってしまったが
愛をもらった瞬間は忘れない。

いや、忘れられなくて
大人になっても
一人で吉野町から山手まで歩くようになった。
幸福だった時の自分を思い出すために街を見渡すとき
吉野町の稲荷坂はかくも美しい。


すれ違った親娘の愛に触れ
そんな思い出が蘇り
心が温かくなる朝だった。

もちろん私と父の思い出は
そんな愛に溢れたものばかりではなく
非道な出来事もそこそこあった。
しかし愛に溢れた瞬間も確かにあったんだと
思い出して安心を手に入れる。

少しの愛でも
相手に伝わることに気ければ
自分の愛は子供達にとって不十分なんじゃないかと
心配する必要はなくなる。

そんな愛について触れたい時に読む本がこちら


愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。


この書き出しで始まる本作品は愛にまつわる複数の物語のアンソロジーとなっている。
ほぼ10年前の作品だけど今も読んでしまう。
舞城さんの作品は暴力的で
悪意もそこそこあるので
正直、読む人を選ぶ本だと思うけど
タイトルの好き好き大好き超愛してるは
当時一世を風靡していた世界の中心で愛を叫ぶのアンチテーゼになっているくらい皮肉たっぷりで
大衆が望む愛に真っ向から中指を立てて愛を叫んでいる作品集だ。


愛について徹底的に考えると
人は無我夢中になり、取り乱し、醜くなる。
その目的は
純粋なる愛を叫ぶためなんだ
というメッセージと受け取ってる。
エログロ大丈夫な方は是非1エピソードだけでもどうぞ。

ちなみに昨晩はアマプラで
モダンラブというオムニバスドラマを見て
いろんな形の愛に心をキュウキュウさせました。
カジュアルに泣けるのでこれも大変良さです。


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