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悪いのは言葉じゃない

サムネを見ると
「よっぽど辞書好きな変わった女なんだな」
と思われるかもしれないが、そうでもない。自分の記憶力のなさと、仕事柄、またコロナ禍で暇になってしまったときに
NHKラジオ「サンキュータツオの国語辞典サーフィン」
に出会ってしまい、ついつい買いそろえた結果、こうなっただけなのである。


手を動かさないと記憶に残らない

辞書って面白いかも!と思ったのが中学2年のとき。

国語辞典ではなく、英語辞典。
英単語を調べるためにひたすら辞書をひいていたのだが、ひいてもひいてもまったく覚えない。一度ひいたところを蛍光ペンで塗っていたのだが、何回も蛍光ペン単語をひくのだ。

その当時、単語帳なんてものを作るのが流行り、例にもれず作って持ち歩いていたのだが、これまた全く覚えない。

要はただ単に、単語の意味を調べて、ふむふむと納得したつもりになっていただけで自分の中に入っていってなかったのだ。

そのときたまたま前に座っていたのが学年一番の才女。

とある日の昼休みにぼ~っと外を眺めていた時、彼女は辞書をず~っと眺めている。辞書ってそんなに時間かかるもんなのか?と思い

「ねえねえ、何調べてるの?」と聞いたら

「調べてるんじゃなくて、読んでるの」

え?!辞書を読む?どおいうこと?と話をしていると、彼女は調べた単語はその下に書いてある例文を読んで覚えているという。
どういうシチュエーションで使っているかがわかると理解できると。

さらにその例文の中にわからない単語が出てくると、またひいて例文読んでとやっていると、今度は次に出てくる単語が気になって、結果、読む羽目になるという。

なるほど、だから”辞書を読んでる”のか。

その日から真似をしてみると、面白いように単語が頭に入ってくる。例文で覚えると、他の単語も覚えるし、文法も頭に入っていく。面白いを体感できると、どんどん楽しくなってきちゃって中学時代の辞書はボロボロになるまでひきまくった。が、今は半分以上単語を忘れているという。がっくし。

英語の辞書はだいぶひいたのだが、国語辞典はそれほどひいた記憶がない。英語に比べれば日本語はなんとなく前後のニュアンスでわかったりするし、そこまで調べないでもと思っていた。

最近はもっと便利になって、グーグル先生に聞けば、単語の意味から例文、関連語まで一瞬で答えてくれるから、便利この上ない。

「辞書”なんて”重いし、場所とるし、高いし、何よりネットで検索すればすぐにわかるでしょ」と思っていた。

が、年齢とともに記憶力が低下。しかも、ネットでさくっと調べたことはまったく記憶に残らない。

「あれ?この言葉、前も調べたよな」

と思いながら、同じ言葉を何度も検索している。検索したときに

「あなた、これ、10回目の検索ですよ」

と告知してくれる機能をつけてもらいたい。

反面、辞書で調べた単語は意外と忘れないもので、原稿を書くときも次々と言葉が出てくる。

ということに気づき、これはいっちょ国語辞典を買おうかなと思っていた時に出会ったのがサンキュータツオなのである。

国語辞典”なんて”どれも一緒でしょ

国語辞典といってもさまざまな出版社から出ている。

新明解国語辞典がおもしろいというのは、なんとなく見聞きしているが、せっかくなら仕事で使いたい。最近の言葉も網羅しているのがいいなと思いつつも、正直、国語辞典なんてどれも同じでしょと安易に考えていた。

とはいえ、どれを買おうかは悩んでいた。そんなときサンキュータツオはラジオの冒頭でいう

「気分で服を変える、天気で靴を変える、けど国語辞典は一緒じゃないですか?国語辞典、されど国語辞典。国語辞典は作りてによってさまざまな言葉のチョイスがあり、創意工夫をこらしている。編集理念が違えば中身も違う。国語辞典の特徴をつかみ、気分で違う辞典をひいて言葉の海にのまれよう!」(←たぶんこんな感じ)

確かに。十人十色なんて言葉もあるように、国語辞典を作るには人がいて、その人は思いがある。国語辞典”なんて”といってはいけない!

ということで、サンキュータツオに踊らされてついつい買いそろえた結果がこれなのである。

つい、語感の辞典や知識百科なんてのも買ってしまい、コロナ禍で楽しく読ませてもらった。

結果、ヘビロテしているのは新明解国語辞典と明鏡国語辞典。

新明解国語辞典は噂通りのおもしろさ。その言葉がどんなニュアンスで使われているのかがものすごい細かく書かれていて仕事でもつかえるし、読み物としても面白い。

明鏡国語辞典は雑学に強くて、種類や製法に関して抜群に詳しいので仕事に役立つ。

岩波国語辞典はちょっとお堅い感じなのだが、歴史を知りたいときは重宝している。

国語辞典”なんて”じゃなく、”なんて”素敵な国語辞典なのだ。

舟を編むの言葉のチョイスがうまい

先週からスタートしたのがNHKドラマ「舟を編む」
原作は、直木賞作家三浦しをんさんの「舟を編む」で、映画化にもなった傑作。なのに、実は原作を読んでいない、映画も見ていないという。

読もう、見ようと思っていたのに、結局、今にいたる。

ということで、NHKのドラマは絶対に見逃すまいと録画設定スタンバイ。

冒頭、海を見ながら涙を流して、「慟哭」などの単語の意味がマトリックスのように画面を流れていき、なんじゃらほいと思ったが、見続けていくと、さすが、辞書を作るドラマ。セリフひとつとってもなかなか興味深い。

特に、ドラマの中で作り上げる中型辞書「大渡海」の発起人であり、監修者の日本語学者役の柴田恭兵のセリフはぐっときた。

わたしのように辞書”なんて”といっている新米編集者池田エライザが
「なんとなく使っている言葉で人を傷つけてしまう、馬鹿にしていると取られてしまう、自然と悪い言葉をつかってしまう」

というと、柴田恭兵が

「悪い言葉なんてない、誰かに伝えたくて必要に迫られて言葉というのが生まれてくる。悪いのは言葉じゃなく、選び方と使い方だ」と。

グサグサっとささった。かくいう私も悪気はまったくないのに、相手に不快な気持ちにさせることがある。個人的には、言葉の選び方と使い方、そして伝え方ではないだろうかと思っている。

不機嫌な態度でいえば、どんな言葉もいや~な印象を受けるだろうし、ちょっとでも笑顔で伝えれば、柔らかくなる。

辞書は、膨大にある言葉の海の中から、最もふさわしい言葉で正確に思いを届けるためにあるのだと。

辞書はほめないけど、攻めない。

柴田恭兵に惚れそうになるNHKドラマ「舟を編む」である。

”なんて”は冒頭と語尾ならOK

第一話のキーワード「なんて」

何気なく言ってしまう「なんて」は、言っている方はただなんとなく使ってしまうが、言われた方は軽視されているようでムカつくらしい。

たとえば、予約が取れづらいチーズタッカルビの店の予約を頑張って電話してとったと友達が喜んだそばで、つい軽視発言をしてしまう池田エライザちゃんは

「助かる~、朝”なんて”電話する時間ないんだもん」

あからさまに嫌な顔をした友人たち。助かるって言ってるんだから、そんなにいやな顔しなくても…、しかも、4人で予約したのに、その一言が原因で?池田エライザちゃんに、他に予定ができたと嘘ついてまで、外すのはかなり陰湿だし、そもそも仲良かったんか?と思ってしまう。

本当に大切に思っていたり、仲が良かったら

「ちょっと、そんないい方しなくてもよくない?」

と言えばいいだけだ。

ただ、カメラで一発逆転を狙う金のない彼氏に対して、自分がしゃべりたいからといって

「カメラ”なんて”あとにしてよ」

というのは自分勝手。振られて当然だ。

この「なんて」。
気づかないうちに自分も使っているかもしれない。

そこで登場するのが国語辞典だ。

一押しの新明解

さすが、文字量多し。

などと、などとは、などといった言葉の変化が「なんと」だ。

いやだなんて言えないよ
田中なんていう人は知らない
あんたなんて嫌い

このあたりが対象者への低い評価、すなわち軽視的な感じに聞こえる使い方。

ちょっと意外だな~というときに使う「なんて」がこちら

彼が医者だなんて
今頃断るなんて

このあたりも聞いたほうは不快な気持ちになるかもしれない。

接続詞のような使い方をすると感じが悪いようにとれるが、語尾につけると照れ隠し的な要素になる。

俺が一生お前を守るなんてね

という例文があったが、ちょっとこの使い方はどうだろう。プロポーズだったらこの言葉は軽く感じるが、もう50年も寄り添った熟年夫婦が言うなら茶目っ気があっていい。

好きだな~なんて思っている人に

もしかして私があんたを好きかもしれない~なんてね、てへぺろ

だったらものすごくかわいい!これはいい!(←自分の例文に自画自賛)

そして、最後、口語的表現。

なんてきれいな月
なんてすばらしいんでしょう

ドラマの最後でも使われていた「なんて」

初めと語尾につける「なんて」はかわいいが、文中で使う「なんて」は気をつけなければならない。

ドラマの中で

「どんなに尽くしても伝わらないこともあれば、たった一つの言葉で千も万も伝えられる言葉もある。全く意図してないことも言葉が勝手に伝えてしまうこともある」

言葉は難しい、けど、言葉があるから気持ちが伝えられる。

やはり、選び方、使い方、伝え方が大事。

なんて素敵にジャパネスク

なんて、なんてと書き続けていたら

「なんて素敵にジャパネスク」の本が好きだったことを思い出す。

氷室冴子さんのコバルト文庫をむさぼるように呼んでいた中学時代。このなんて素敵にジャパネスクが特に大好きだった。

この「なんて」は素敵を強調している感じのいい「なんて」だ。

おお!なんていい解説だろうと自画自賛。

そういえば、この小説、舞台は平安時代。見た目はさほどでもないが、機転がきいて和歌もなかなかの瑠璃姫が主人公で、幼馴染は右大臣家の四男・・・

って光る君へ?!

急に読み直ししたくなったが、断捨離が趣味の母親がとっくの昔にブックオフに売ったんだった・・・

実家を物置がわりになんてしなければよかった・・・なんてね


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