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くもった窓ガラスの向こう側~サイドストーリー~

実家からの荷物には、米、野菜、果物、お母さん手作り漬物などありとあらゆるものが入っているが、それらを大切に保護してくれているのが秋田魁新報。秋田の地元新聞だ。

新鮮な野菜をくるんでいるときは、濡れて、やぶれたりしているが、乾かして丁寧に伸ばして地元のニュースを読むのがお楽しみのひとつ。

そのときに見つけたのが

「秋田中央交通 開業100周年記念 『バスって、いいな』作文募集」

遠足といった学校行事から高校にいくための通勤手段として、自分の青春を語る上できっても切り離せない秋田のバスだが、車の免許をとってからは、とんと乗る機会がなくなった。
しかも、家の前を通っていたルートが廃止され、見かけることすらない。

その告知文には
「初恋の人と乗ったバス、家族と眺めた車窓の景色・・・あなたの思い出お寄せください」

とある。

おお!あるある。

好きな人と後部座席に並んで座って、寝たふりして肩にもたれたり、
バスの急ブレーキでよろけて、抱きとめてもらったり、
ちびっこすぎて、つり革に手が届かなくて、彼の腕にしがみついたり・・・

もちろんすべて妄想であって、そんな思い出なんてあるはずもない。

エッセイや作文応募は大好物だから、応募したいけれど、さて、初恋の思い出がない・・・家族と眺めた景色・・・一緒に乗った記憶がない・・・

はてさて、妄想を書くわけにもいかず、何かないかな~と過去の記憶を手繰り寄せて思い出したのが、窓ガラスの向こう側にいた勘違いじいちゃん。

ということで、400文字以内さくっとまとめた。
応募したことすら忘れていたとき、なんと入選したとの連絡で新聞にまで掲載。全国紙のエッセーの連載をもったわけでもないのに、両親が大喜びで自慢しまくり、近所に言いふらすもんだから、同級生にもばれ、一日フィーバーを巻き起こした。

わざわざ賞状までいただき、友人からはラインがバンバン届き、芥川賞とかそういった大賞に選ばれたかのような気分になり、若干、勘違いしそうになった。

ただ、その賞状にかかれた選評が物書きとしてむちゃくちゃうれしかった。

「あなたの作品は、おじいさまとの思い出がバスを軸に描かれ、思わずほろりとさせる素敵なエンディングは短編小説のようでもあり、またバスPRイメージ映像になりそうである」

泣かせるつもりで書いたわけではないが、新聞を読んだ友人からも

「なんか泣ける、じいちゃんに会いたくなった」
「情景が手に取るようにわかる文章だね」

と普段、自分が書いたモノに関して、感想をいただく機会がないため、こういった感想は心の底からうれしい。両親がわっしょいわっしょいなっているのを遠目で見ていたのだが、自分もちょっとお祭り気分になった。

新聞紙面のコピーをいただいたものの、資料に埋もれてどっかいきそうなのと日々特に自慢することもなく生きているので、めったにない自慢をすることにした(笑)

くもった窓ガラスの向こう側

吹きっさらしのバス停でバスが来るのを待つ。
雪が降るとバスは遅れがちになる。
猛吹雪になれば、いつくるかわからないバスを永遠と待つことになる。
でも、高校に行くための交通手段はバスしかない。
朝起きて窓の向こう側が見えなかったときは、学校を休みたくなったものだ。
「吹雪だから学校に行きたくない」
と駄々をこねる孫をかわいそうに思ったのか、おじいちゃんがバス停まで一緒に来てくれ、バス停では吹雪から私を守るように立っていてくれた。
バスが到着し、私は熱気のこもったバスに乗り込む。
友達の横にストンと腰を落とすとその友達はなぜか大笑い。
「ゆきんこ、いるかな?」と思って窓ガラスのくもりをふいただけなのに、
ゆきんこのおじいちゃん、私が手を振っていると思って、振りかえしてるんだよね」
毛糸の帽子の色がわからなくなるくらいの雪をつけて笑顔でいつまでも手を振っていた。
今でも、くもった窓ガラスをつい拭いてしまう。
おじいちゃんがいるような気がするから。

秋田魁新報

このエッセイを掲載するにあたり、おじいちゃんの写真が欲しいといわれて送ったのがこちら。

じいちゃんと当時飼っていた文太(雑種)

イラストレーターさんの腕に脱帽。
この紙面をみたとき、あ!じいちゃんだ!と思ったもん。
お母さんも、じいちゃん!じいちゃん!と大喜びだった。

いい文章も大事だけど、その文章に彩りを加える、挿絵や写真って大事なんだなとしみじみ。

改めてじっくり読み直すと、我ながら〆の部分はいい余韻がある。
本当に窓ガラスがくもっているというか結露がびっしりついているとついついふいてしまい、あの冬の朝を思い出す。

当時はしったげしょしくて(秋田弁で、めちゃくちゃ恥ずかしい)、早くバスが動いてほしいのに渋滞で全く動かず、その間、じいちゃんがずっと手を振っているせいで、車内にいた人たちが、振ってあげないとあのじいちゃんかわいそうじゃね?という雰囲気になりみんなで手を振っていた。

高校についてからもずっとネタにされ、家に帰って、開口一番、じいちゃんに

「じいちゃんのせいで、しったげしょしがったねが!もう来なくていいから!」

とめちゃくちゃひどいことを言った記憶がある。

当時は、軽トラの送迎と農作業ルックのじいちゃんと歩くのが恥ずかしいと思っていたのでそれもあいまって、暴言を吐いてしまったと推察する。

じいちゃん、ごめん。
そして、そんな暴言を吐いたにも関わらず、高校の3年間、猛吹雪から私を守ってくれてありがとう!

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