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ピアニストの脳を科学する


最近読み終えたこの本。


もともと私はピアノを4歳から15歳の時まで習っていて、サッカーの次に続けた年数の長いものでした。始めたきっかけは自分でも覚えていないんですが、母曰く、ピアノ教室に通いたいと自分から言い出したそうです。


通い始めて数年経って、サッカーと並行して通い続けることの原動力になっていたのは「先生に怒られないように練習しなきゃ」でした(笑)


ま、そんな話は置いておいて。私は小さい頃からピアノに馴染みがあって、合唱コンクールや卒業式の伴奏を任してもらえるくらいの実力だったということくらいでいいので、頭の片隅に入れておきながらこのnoteを読んでもらえると想像しやすいかなと思います。



フォーカル・ジストニア


みなさん、この言葉をご存知ですか?フォーカル・ジストニア。はい、馴染み全くないですよね。私も初めて聞きました。

脳がある筋肉に指令を送るとき、同時に周りの筋肉にも指令を送ってしまいやすくなる回路が脳の中に出来上がってしまうことを、フォーカル・ジストニアと呼ぶそうです。


ピアノを演奏しているときに、本当はこの音を次に弾きたいのに隣の指が連動してしまってミスタッチになってしまった・・・なんていう経験がある人は多いと思いますが、これは原因の一つに、フォーカル・ジストニアが起きていることが挙げられます。


ピアニストなレベルでない私の場合は、指令を送っているのに指が動いてくれないという現象も起きたりします(笑)楽譜を読みながらすぐさま演奏したり(ピアノ業界では「初見」と呼ぶ)、楽譜を見ないで演奏したり(暗譜)、ピアニストの脳はかなり高度なレベルで働いているということがこの本を読むと実によくわかります。


話を戻しまして、このフォーカル・ジストニアが起きてしまうとミスタッチが多くなり、それが身体を傷める原因にも繋がってしまいます。ピアニストはかなりの時間を練習に費やすので、腱鞘炎になったり他の怪我がおこってしまったり、かなり身体を酷使する職業です。


ピアニストの世界にも、「不適切な身体の使い方や弾き方(ミスユース)が身体を傷める引き金になる」という考え方があって、これはスポーツの世界にも共通する部分です。

なので、いかにして「省エネ」で演奏するかが求められます。


フォームはパフォーマンスを大きく左右する


長時間演奏することで筋肉が疲労してしまい質の高いパフォーマンスが続けられなくなった場合、みなさんならこれを改善するためにどういったトレーニングを取り入れますか?


単純に腕の筋力をアップさせればいいなんていう安易な考え方にはならないと思いますが(笑)、2つの大きなポイントがあります。

・同じような質の高いパォーマンスを
             より少ないエネルギー消費量で作り出すこと

無駄な筋肉の仕事を極力省いて、美しい音楽を生み出すこと


これは本当にサッカーにも共通する部分で、私がここ数年取り組んできているトレーニングのベースの考え方にもなっているのですが、90分間質の高いパフォーマンスを続けようと思ったら、まずは力みにくい身体を作ることが必要になってきます。


この「力み」が生み出す疲労というのはみなさんが思っている以上に激しく、この力んでいる状態が続けば続くほど筋肉は早く消耗し、ラスト15分くらいにパフォーマンスがガクッと落ちやすくなります。


力んでいる状態=呼吸が止まっている状態
なので、当然その間は身体に酸素が供給されないわけですから疲れやすくなりますし、リカバリー速度も落ちます。

ですので、極力無駄な筋肉の仕事を省いた状態でのパフォーマンスが可能な「フォーム」が大事になってくるわけです。


この世界には、筋力以外にも様々な「力」があります。

重力
慣性力
遠心力


筋肉を使わずに身体を動かすには、この3つの力を利用すること。私のトレーニング動画などを見てくださっている方はすぐにピントくるかもしれませんが、私はこの3つの力を利用したトレーニングを行なっています。

(この動画はその1つです)


どんな運動でもそうですが、その運動を学習することによって、脳は筋力以外の力を効果的に利用できになると言われています。ピアノの演奏では、筋力以外で活用されているのは重力だけではなく、慣性力や遠心力も使われています。これはサッカーにおいてもそうですし、ドラム演奏にも同じことがいえます。


疲れにくい身体を作るには?


人間の体は、胴体に近いほど太く疲れにくく、指先に近づくほど細く疲れやすい構造になっています。疲れやすい肘から先(膝から下)の筋肉を使わずに、代わりに肩周り、股関節・体幹周りの筋肉を使えるようになると、疲労が軽減されます。そういった身体を作るには、「何を意識するか」がKEYになります。

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この考え方はサッカーのキックやドラムの演奏にも置き換えることができます。関節を曲げる角度によって回転力に差が生じます。関節が伸びきった状態でボールを蹴るとボールに力が伝わらないのと同じで、鍵盤にも伝わらず、肘の回転も遅くなるで次のタッチへの移行が遅くなります。


より速く弾ける人ほど、より早く指先を持ち上げる準備が始められる「鍵盤の下降動作」を加速させる時間が短く、「肘の回転スピードが速い」ので、これを私は現在ドラムの練習に応用しています。


練習をただ積み重ねることによって脳の神経細胞の数を増やし、指を早く動かすだけではなく、新しいからの使い方を獲得することも必要だと本には書かれていましたが、これはまさしくサッカーにも必要な考え方だと感じます。


正確に動作を行うこと


ピアニストは、重力や腕のしなりを活用し、ノイズを減らし、狙った音量で正確に打鍵しやすくしています。

※ノイズ・・・神経細胞が無秩序に活動すること。動きを不正確にする大きな原因


動作を速くするにつれてコントロールが悪くなるのは、速くしようとするほど筋肉にたくさんの指令を送るので、そこに混ざる「ノイズ」も増えてしまうためとされています。


ドラムでもサッカーでもそうですが、速くしようとするとコントロールが乱れてミスが生じやすくなります。それは、自分がコントロールできる速さの限界を超えてしまっているからです。


なので、まずは自分がコントロールできるスピードでゆっくりと正確に行うことが必要で、正しいフォームを身体(脳)に覚えさせることが先決。徐々にスピードを上げていきながら、常に正確なフォームで学習させていきます。ここでポイントなのがどこに意識を置くのかというところ。


人によって異なりますが、胸やみぞおち、肩甲骨あたりに意識を置きながら試して、自分にしっくりくるポイントを探すやり方をここではおすすめしておきます。


筋力をあまり使わなければ、ノイズ量も減り、より正確に身体を動かせるようになります。脱力するメリットは疲労を避けるためだけではなく、正確に動作を行うことにも繋がっています。


感動を生み出すパフォーマンス


ピアノ教室に通っていた頃、演奏をしているときによく先生に「感情を込めなさい」と口すっぱく言われていたのを思い出します。この「感情を込める」という作業、どうやってやるの?っと聞かれると、正直、答えるのはとても難しいです。

ピアニストが感動を生み出すパォーマンスには、下記の3つがポイントになるそうです。(ピアノをやっていたので、私もなんとなくわかります)


豊かな感性や感情
知識や想像力
作曲(詞)の想いを汲み取る力


「想像→実際に身体を動かす」ことで、はじめて「音」が生まれます。身体の使い方が分からなければ、いくら頭の中に豊かな音楽があっても、実際に奏でられる音楽は表情の乏しいものになります。

したがって、聴衆の心を動かす音楽を奏でるためには、音や音楽の表情を多彩に変化させる身体運動技能が不可欠になります。


美しい音を生み出すには、美しい身体の使い方が必要で、この関係はいかなるパフォーマンスにも通ずる部分だと私は思っています。どんなスポーツにも「アート」の側面はあると思っているし、人が感動するようなパフォーマンスには必ずといって「美しさ」があると思います。


「美しさ」というのは受け手によって異なる部分もあるかもしれませんが、いかなるパフォーマンスにおいても、スムーズな動きや無駄が一切排除された動きには、自然と感動するはずです。


人は「美しさ」に対して心を奪われる、心を動かさせるという遺伝子が組み込まれているのでは?というほど、「美しさ」というのは人々が生活を営む上では欠かせない要素な気もしています。


ただ、ピアニストの中にも、音大まで行っている人でも感情を込められない人がいるという話を耳にしたこともありますし、そういう話をプロの世界でもそれはあり得る話なのかなとも思ったりしています。


さらに、演奏者の感情が込められているかどうかを感じられるかといった、「受け手の感受性」も同時に養われていないと、いくら感情の込もった演奏をしても、人の心に届かない・・・なんてこともある気がしています。


ピアノにおいて、テンポのゆらぎの違い(腕全体のしならせ方を変えた2種類のタッチによって、音の物理特性に違いを出す)で情感の豊かさが変わるという傾向は、聴き手が音楽家である時の方が強かったという研究結果があるように、音楽を知れば知るほど感動が増えるということが科学的にも立証されています。


さらに興味深い実験があって、機械的に演奏したときと比べて、感情を込めて演奏した時の方が心拍数が高くなりますが、呼吸は深くなり、回数が減ります。これは人間の特性で、感情を込めて「何かを表現しよう」と思いながら演奏するときは、集中力をより必要とするため呼吸回数が減ります。


こうした呼吸とパフォーマンスの関係性は、どんなことにも大きな影響を及ぼしています。90分間ある程度強度の高い運動を繰り返す行うサッカーにいても、「呼吸」「集中力」そして「脱力」が重要で、逆説的に考えると、プレーに「感情を込める」ということを習慣化していくことが、質の高いパフォーマンスに繋がるともいえると思います。


アーティストやアスリートにとって、感情を込めて「何かを表現しよう」という機会は、ごく日常的に存在しているものだと思っています。表現する立場ですので、人に何かを届けようと考えた時にここの重要性をまず認知します。(私は、全人類みな表現者だと思っていますが)



ただ、そうでない立場の人たちにとって、感情を込めて「何かを表現しよう」なんていう機会は滅多にないと思いますが、そういった機会をスパイスとして設けることは、より普段の生活を豊かなものにしてくれると思います。


最後に、このnoteを書きながら「感情を込める」をもっとわかりやすく表現できないかなって考えていたのですが、「ゆっくり丁寧に、心に話しかけるように」といった言葉に置き換えると、ちょっとはしっくりくる気がしてきました。



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Why so serious???



みんなが協力しあって生きていける社会へ。愛と共感力で、豊かな世界を創っていきたい。サッカーが私にもたらしてくれた恩恵を、今度は世界に還元していきたいです。