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メキシコ旅行記 2003.2.27~2003.3.7

これは、2003年に友人藤堂つまき嬢とメキシコを旅した時の、面白楽しくちょっと大変だった、そんな記録です。

ちなみに藤堂つまき嬢とアイルランド、イギリスを旅した時の紀行文はこちら。

プロローグ 

メキシコ旅行が決まるまで
2002年にアイルランド・イギリス旅行。帰ってきてから藤堂つまき嬢は言った。
「次はチュニジア行こうねー」
地中海を望むアフリカ大陸の国、チュニジア。
そうか、チュニジアか。
すべて決めてもらう立場の結城はネットなどでチュニジア情報をつらつら拾いながら日々を過ごし、2002年冬。そろそろ目的地を決める段になったとき、つまき前言を翻す。

「メキシコに行こう!」

 おりしも不穏な世界情勢。
同時多発テロのおかげでイラク方面は一触即発。
さすがのつまきさんも、今回ばかりは命を優先したらしい。そんな彼女が持ち出してきたのが、太平洋の向こうの国、中米メキシコ合衆国。
つまきさん、私はいつになったらヨーロッパの大地を踏むことができるのですか…。
さすがにそれまで考えたこともない国なので、渋ること数日。
対するつまき、猛攻をしかける。
「メキシコはいいですよー、泳げますぜ光流さん♪」
「水着になるのはなぁ。この体をさらす勇気がないんだけど」
「食事もおいしいらしいですよー。ちなみに公用語スペイン語なんでさっぱりわかりませんけどねっ♪」
「でもなぁ、いまの時期アメリカ方面だって物騒じゃないのかい」
「大丈夫大丈夫。本当にまずくなったら政府から禁止令出ますから。まだ平気♪」
「………そういう問題ですか?」
渋り続ける結城。そもそも、メキシコという国に対しての明確なイメージというものがないのだから、行く行かない以前の問題だ。
数度目の電話で、しかしつまき運命のひとことを。
「だって光流さん、メキシコには月のピラミッドがあるんですよ?」

 ――ツキノ、ピラミッド。

「もしもし? みっちゅー、もしもーし?」
「………メキシコって…もしかして、月と太陽のピラミッド?」
その瞬間、電話の向こうでつまきは確かに手ごたえを感じた!
「そうそう♪」
「マヤにアステカの空中庭園?」
「そうそう♪」
「ポンチョにタコスにソンブレロ?」
「そうそう♪」
「つまきさん、メキシコ行こう!」
結城を釣るには何よりも遺跡。かくして、メキシコ旅行決定とあいなった。

03/02/27 
1日目 日本→ロサンゼルス→メキシコ・シティ

◎◎◎ 日本出国 ◎◎◎
4:00起床。前回の旅行同様〆切をくぐりぬけての出発なので、5月刊の原稿をぎりぎりで脱稿して手直しをする。
ちなみに、こんなに早く起きたのは別に原稿をするためではなく、頭痛がやまなくて眠りが浅かったから。
本当は帰国してからでいいですよと言われていたのだが、目が覚めてしまったので仕事を片づけておく。うう、毎回体力的にいっぱいいっぱいの旅行…。
朝ごはんをしっかり食べて、9:30出発。新宿駅を10:42発の成田エクスプレスに乗り、成田には11:59到着。
12:00前後につまきさんと待ち合わせだったので、無事に空港で合流。
今回の便は大韓航空14:55発。チェックインだけ済ませて荷物を預け、身軽になってから昼食に讃岐うどんを食べる。
一週間以上も和食から離れるので、和食好きのつまきさんは出国前の食事は必ず和食を選ぶのだ。
「絶えられなくなったら、私は米を求めて中華に走ります」
常にそう宣言する彼女に対し、私は一週間洋食でもまったく応えないのでこっくり頷き、久しぶりのうどんを食べるのであった。ちなみにうまかった。
身軽といっても、私はモバイルパソコンを、つまきさんはB4サイズの原稿を携えていたりする。このとき持っていた鞄はパソコンを入れるには非常に不向きだったため大変難儀し、後日マンハッタンパッセージのビジネスバッグを購入することになる。
時間も迫ってきたので搭乗。出国手続きをしたあとで、行ってくるぜと角川に電話。
『虫入りキャンディーはいりません』という編集部のために、見つけたら買ってこようと誓いを立てる。
飛行機が撃墜されたらあれが遺作になりますからと言い残し、担当のおののく声を最後に電話を切る。無事で帰ってこられますように。
大韓航空はてきぱきと動くので、飛行機は予定通りに離陸。
今回は乗り継いで行くので、まずアメリカのロサンゼルスに向かう。長い長い一日の始まりだ。
機内食タイムがやってくる。つまきさんは大韓航空機に乗るとき、ビビンバが一番の楽しみなんだそうな。
ビビンバがうまいのです! としきりに力説されたのでビビンバとお茶をチョイス。
あたたかいビビンバが、実にうまかった。しかしビビンバが嫌いな人には拷問だろうなぁという機内の状態だ。そういう人はきっと大韓航空自体を避けるんだろうけど。
夕食にあたる機内食が終わると一息つくので、疲れきっていた私とつまきさんはまず眠った。
それはもう泥のように。
幸いなことに、4人掛けの列に私とつまきさんのふたりだけだったのだ。
横向きに足をのばして眠れた。
目が覚めると朝食で、私はオムレツ、つまきさんはフルーツをチョイス。パンとバターがうまかった。大韓航空はおいしいなぁ。
それにしてもメキシコは遠い。足がむくんでしようがない。
念のために成田空港でサロンパスを買ってふくらはぎに貼っておいたが、正解だったようだ。湿布も持ってきたけど、スーツケースの中なのよ。
スーツケースは新品。
前回小さいと痛感したスーツケースよりひと回り大きいソフトケースを買ったのだ。
これを買うときに、旅なれた初老の見知らぬ紳士がいろいろとアドバイスしてくれた。
いわく、ハードケースは割れるそうな。スーツケースはぼんぼん投げられるから、ハードは簡単に割れる、だから実はソフトのほうがもつんだよ、と。なるほど、経験者だから語れる重い言葉だ。

◎◎◎ ロサンゼルスで起こった事件 ◎◎◎
事件は会議室で起こってるんじゃない、ロスで起こってるんだ!
そのロサンゼルスに到着したのは、朝7:30すぎ。
日付変更線を越えて、太平洋を飛び越えて、やってきましたアメリカ合衆国。
アメリカにはいまいちいい思い出がないというつまきさん。
そうなのか、と少々緊張していたところ、イミグレーション(入国審査)で事件発生。
先年9月に起こった自爆テロのせいで、空港は物々しい雰囲気に包まれている。
どれほど呑気な顔をしていようとも、そののほほんとした顔の下に冷酷なテロリストの素顔を隠しているかもしれないのだ、彼らの警戒は至極当然のものであるだろう。
たとえ相手が、疲労気味の顔でへろへろになった日本人女性であろうとも!
入国審査はひとりずつ。飛行機の中であらかじめ書いておいたツーリストカードを審査官にパスポートとともに出す。
乗り継いでメキシコに行くのだと伝えてカードに問題がなければ通れる。はずなのだが。
「全部見せてGo to Mexicoとでも言えばきっと大丈夫!」
英語の話せない光流にそう告げて、先につまきさんが無事スルー。
さて、次だ。
恰幅のいいいかつい顔の審査官がツーリストカードとメキシコ行きの航空チケットとパスポートを一瞥し、なにやら早口で問いかけてくる。
なにっ、なにかまずいのか、私は善良な一般日本人なんだ、テロリストに見えないだろう、こんなまぬけな顔のテロリストがいるわけないじゃないか、と心の中で訴えるも、そもそもなにを言われているのかがわからない。
「彼女は友人か?」とつまきさんを指して問われたのでそうだと答える。
かろうじてそれだけ聞き取れたが、やはりほかがわからない。
審査官は物々しい口調で「OK」と頷くと、なにやら書類に走り書きをして別の女性係員にそれを渡し、彼女についていけと促された。
この時点で緊張はピーク。早鐘を打つ鼓動の音が耳の奥で響いている。
「これを持って、このラインに沿ったあのAのプレートのところで左に曲がるのよ」
女性係員に言われ、どきどきしながらその場所に向かうと、係員のいるカウンターを発見。パスポートとチケットを出すと、なにやら書類を渡される。
周りのカウンターでは数人が何かを書いている。
これか、いま渡されたこの書類に何かを書くのか? 
しかし、これはなんだ、なんなんだ。読めない、意味がまったくわからない。つまきさんは遠い、異国の地で私はいま一人、この窮地を脱するにはどうすればいいのか。ああもっと英語をしっかり勉強しておくべきだった、ああ誰か、誰でもいいから、助けて!
パニックを起こしていたら、日系と思しき係員が手元を覗き込んできた。
「わからないんです…!」
思わず日本語で訴えると、
「OK,come on」
と英語が返ってきた。そうだ、ここは英語の国だった。オリエンタルの顔で英語が来るのは当然なのだ。でも日本人にしか見えない顔だから一瞬期待しちゃったよ…。
ペンの設置されたカウンターにいざなわれ、チケットやパスポートを見せたところ、彼が代わりに書類を書いてくれた。
その書類を提出して、ようやくアメリカ入国が許可される。
待っていたつまきさんの許にたどり着くと、彼女もほっとした様子だった。
「ああ、光流さんが連れて行かれてしまう、どうしようかと思いましたよ」
「こ、怖かったよー」
「やはりアメリカは何かがあるなぁ」
ちなみに、関税申告書を書いていなかったから足止めを食らったのだった。
こちらも飛行機の中で渡されていたのだが、書かなくても大丈夫とつまきさんに言われたので書かないでいたわけだ。成田は書かなくても大丈夫だが、ロスはだめだったらしい。
国によって違うので、出されたものはすべて書きましょうといういい教訓になった。
つまきさんがなぜ平気だったかって? 英語で説明できたからに決まっている(泣)。
波乱含みのアメリカ入国だった。ううっ、怖かった…。
その後、スーツケースを受け取り、次の便に預けて、いざアエロメヒコの受付カウンターへ。
アメリカはすべてが大きい。桁が違う。そらーもう、段違いに。
そしてロサンゼルス空港は、広かった。その上入り組んでいた。おかげで迷った。
「どこだ、どこなんだ、アエロメヒコよ、お前はいまどこに…!」
 カウンターが動くわけはない。我々が迷っているだけのことだ。おのれアメリカ、どこまで私たちを苦しめるというのか(人はこれを完全な言いがかりという)。
どこまでもどこまでも行き、係員を見つけて尋ね、行き過ぎていたので引き返す。
アメリカの風は冷たく私たちを打ち据える。
ううっ、寒い。しかし警備員の制服がテレビで見るのとおんなじだ。
わーいほんとにアメリカにいるんだわ。
少々余裕の出てきた結城に対し、つまきさんはアエロメヒコのカウンターが見つからないので硬い顔をしている。乗り継ぎ便までの時間はたっぷりあるが、受付カウンターでチェックインするまでは安心できないのだから当然だろう。
散々歩き回ってようやくアエロメヒコのカウンターを発見。
ほほう、これが私たちをメキシコに運んでくれる航空会社か。
大分お腹がすいたが手近なところにカフェらしきものはない。
出国手続きをしてしまったほうがよさそうだ。中に入れば免税店やカフェがあるものだから。
アメリカから出国するので手荷物チェックと金属探知ゲートをくぐる。
その瞬間。

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