見出し画像

第2話 偏見のはじまり-舞踏会でも会議でもあの屈辱は忘れられない!

小説『高慢と偏見』で主人公エリザベスが恋に落ちるのは、大富豪で長身イケメンのダーシー。
二人の出会いは、娘の婚活に情熱を燃やす母ベネット夫人に連れられて来た舞踏会でした。

この舞踏会でエリザベスの姉で美人のジェインと、ダーシーの友人で富豪のビングリーは、母の思惑どおり、お互いに好印象を抱きます。
一方で、エリザベスのダーシーへの第一印象は最悪で……。

今回はそんな舞踏会での出会いのシーンを、
舞踏会→ボランティア団体主催の会議
主人公エリザベス→ボランティアとして海外に赴任したばかりの女性、エリ
主人公の姉ジェイン→エリの同僚ジュンコ。
ビングリー→現地の起業家ビリー
ダーシー→ビリーの起業家仲間ダン
で読み替えてみました。

ある日サトウ夫人は現地の人も集めて、現地の作物に関する会議を開いた。
もちろんとても気になっている、例の起業家ビリーも呼んで。

ビリーは仲間のダンを連れてやってきた。以前マンゴー栽培で成功したことがあって、ビリーも頼りにしている男だ。

会議のあとは交流の場ということで、ちょっとした立食パーティーが開かれた。
ジュンコが流暢な現地語で、ビリーに話しかける。

「シアバターの事業、素敵ですね。なにか協力できればと思っています」
「それはとてもありがたいね。会議でのあなたの話を聞いて、ぜひ声をかけようと思っていたんだ」
「本当? ぜひ詳しく話しましょう」

サトウ夫人の思惑どおり、ビリーとジュンコは早速良い関係を築いていた。
ビリーは隣にいたダンに、手持ち無沙汰にしているエリに話しかけてくるといいと提案した。

「会議でろくな発言もしなかったし、言葉もあまりうまくないし、こちらから話しかけたいと思うほどの能力はなさそうだね。それにこういう場でほかの人から相手にされないような外国人のご機嫌をわざわざとるような気分じゃないな」


ダンはビリーにだけ聞こえるように言ったつもりだったけど、エリにもしっかり聞こえていた。
彼の言うように、まだ現地語を流暢に話せるとは言えなかったけど、ばかにされていることはわかる。

日本で勤めていた商社では仕事ができると言われていた。でもそんなこと、この場にいる人たちは知る由もない。
それにこの国のこともシアバターのことも、なにもわからないのだ。ダンの言う通り、彼らの役に立つ能力は、実際にないのかもしれない。
日本とは違うノリに、気さくに世間話をすることさえできなかった。

ただエリはここでさめざめと泣くうような女性ではない。家に帰ると日本の友人にSkypeをかけ、ダンの言葉を自虐ネタとして面白おかしく話した。

「あの現地人、私は言葉がわからないと思ったみたいなんだけど、それぐらいわかるわと思って。笑っちゃうよね」

ただ実のところエリのプライドは深く傷ついていた。ダンの高慢さに強い怒りを抱き、相当根に持っていたのだ。

(解説)
日本でのいろいろを振り切って、意気揚々とはじめた海外生活。

もちろん仕事は頑張るつもりだけれど、言葉には自信がないし、専門性だってたいしてあるわけじゃない。
現地のノリや作法なんて、なおさらよくわからない。
そして、そんな不安をちくりと刺す現地の人の辛辣な言葉。

日本だったらもっとちゃんとできるのに。
もう少しこなれた言葉で話すことができれば。
こんなにばかにされるなんて……。

そんな渦巻くプライドと不安は怒りとなって、そして異国の地や人への偏見へと繋がっていくことがあるのではないかと思います。

このシーン、『高慢と偏見』をなぞっているのですが、実は私が海外に行ってはじめてでた大きな会議での状況に、とても似ていたりします。
辛辣な言葉をはなった現地の女性の言葉は今でも忘れられないし、あれが海外でのはじめの躓きだったかも……。

プライドによる偏見がはじまるこの場面。でも、まだまだこれは序の口。
このあともプライドはいろんな形で主人公を苦しめることになります……という続きは次回のストーリーで!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?