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上司に「謝って」と言った夫

夫が転職をした。
ずっとフリーランスという名の「何だか色んなことしてる人」として生きてきた夫だが、子どもができ、経済的にも時間的にも色んな制約が生まれる環境下におかれて初めて「会社員になりたい!」と思ったらしい(36歳にして初めて。笑)

アラフォー夫の新たな挑戦

過去のキャリアとは全く無縁のジャンルの転職を希望していたため、その道のりは中々にハードであった。
ふたりで転職のためのスキルアップのセミナーに参加したり、スクールを見学しに行ったりもした。

20代ならばまだしも、30代半ばで未経験、またビジネス日本語は出来ない(夫はカナダ人)というスキルセットでの転職はやはり厳しい。
そりゃそうだわ、私でも採らないわ…とどちらかと言うと会社で採用側をやることが多い私は冷静にそう思いつつも、それでも彼を全力で応援することにした。

諦めなければ何とかなるものである。
1年のトライののち、彼は見事希望していた会社に入社できた。
私も心からホッとしたし、何よりも彼が苦労と我慢の日々から解放され、とても幸せそうなのが嬉しかった。

入社間も無く突然の事件

念願の会社で彼は生き生きと働きだした。
職場環境も良いし、何より仕事が楽しいらしい。
給与などの条件に恵まれているわけではないが、それでも「頑張ればキャリアが用意されている」ため、目標に向かってトライするモチベーションが湧くそうだ。

そんな彼が家に帰るやいなや「ちょっと聞いてよ!」と私に愚痴をこぼしたのは、今週の頭の出来事だ。

いつもは「今日はまあまあ忙しかったよ〜でも楽しかったよ〜」とのんびり報告をすることが多い彼が、珍しく怒っている。

どうやら上司と揉めたらしい。
揉めたというより、謂れのないミスを責められたようで、どうしても納得がいかない!とぶすくれていた。

えーそうなの〜それは酷いねぇ。
と、適当に相槌を打って彼を慰めていた私は、彼の口から出た次の言葉に衝撃を受けた。

明日ボスに謝ってくれって言うわ

え!まじで?
言っちゃうの?上司に?

彼の決意は固いらしい。確かに客観的に話を聞いても彼は悪くなさそうだし、このままじゃ納得いかない気持ちは理解できる。

かく言う私も、昔から気は強く、納得いかないことはとことん許容しないタイプだ。
それが例え、上司であっても。
自分の感情や主観を除いて、冷静におかしいなと感じたら絶対に言うようにしている。
だが、それは「どうしても納得いかない」という時だけであって、正直不快に思っても、理不尽に思っても多少のことならば、まぁいいか…波風立てるほどのことでもないよねと諦めてしまう気がする。

ましてや上司に面と向かって「謝って」と言ったことなど経験がない。
「私はこう思います」と言うことを伝える勇気までは持ち合わせているが、相手に謝罪を求めるというのはさらに一歩レベルが上の要求である。

ボスの行為はリスペクトに欠いている

夫はそう言ってプリプリ怒ったまま、その晩を過ごし、また翌日仕事へ向かっていった。
果たしてどうなったんだろうと、成り行きを心配半分、残りは何だかワクワクしながら待っていたところ、昼過ぎに彼からLINEが届いた。

ボスが謝ってくれたよ!気がおさまった!

おお!すごい、謝ってくれたのか!!
話に聞く限りでは割とワンマンっぽい感じのボスだったのに。すごい。驚きである。

さらに私が「謝ってって言ったの?」ときくと、彼からは「うん、言った」と当たり前でしょと言わんばかりのトーンで返答が返ってきた。

彼の行動は全てが正しい。
裏でネチネチと文句を言うのではなく、面と向かってストレートにコミュニケーションをしたのも偉い。

何せまだ入社3ヶ月なのである。
それも1年がかりでやっと入れた会社なのだ。
普通だったら「でもココで上司に嫌われなくないし、会社と揉めたくないし自分が我慢しよう」となりそうなものだ。

でも彼はそれをしなかった。
せっかく就けた仕事がどうなってもいいと言う覚悟があったわけではないと思う。
だけど彼のいつだって真っ直ぐな人間性が、その妥協を許さなかったのだろう。
さらに言うと、不当な評価をされるのではという恐れなどではなく、人として尊重してもらっていないという点に彼の怒りはあるようだった。
だからこそ、余計納得がいかなかったのかもしれない。

泣き寝入りする日本人

さて、果たしてどれくらいの日本人がこんなことをできるだろうか。
上司の態度がおかしいと思った時に「謝れ」と言えるだろうか。 
正直私も自信がない。というか、多分無理だ。

だが、彼を見ていて「あー気持ちいいな」と感じたのが素直な感想だ。
正しいことを、正しいやり方で、真っ当からやるのは本当に気持ちがいい。

夫が外国人だから、会社が外資系だから、上司も外国人だから特別だよ、とそんな話で済ませていいことなのだろうか。

セクハラやパワハラ、マタハラなど論外なものも含め、一体どれほどの人たちが尊厳を傷つけられ、それでも泣く泣く我慢してやりすごしてきただろう。
そんな世の中で果たしていいのだろうか。

タコ殴りにあってみて

私はこの一連の流れを横目で見ながら「タコ殴りの会」のことを思い出していた。
これは私が育休に入る前、勤務先の会社で行われた半期のキックオフでのイベント通称のことだ。

タコ殴りにあうのは、各部署の部長陣。
私もある部署の部長を務めていたので「タコ殴られる」側であった。

会が始まると、部長たちは部屋を退出。
その間にメンバーたちは、グループで話し合いながら、普段直接上司に言えない文句や要望なんかを付箋に書いて出していく。

部長が戻ると、誰がそれを言ったのかはわからない状態で本人に共有される。
誰の意見かはわからない状態だといえ、直接メンバーからフィードバックを行うので、そこそこ緊張感はあったと思う。
だが、1対1で抱えていたことを伝えるよりははるかにやりやすかったはずだ。

私もメンバーに色んな意見をもらった。
中には耳の痛いものもあり、グサっと来なかったかというと嘘になる。

だけれども、私はこの会が今までのキックオフの中で一番有益だったなと何度も思った。
私はそんなに威厳があるタイプではないが、それでも普段は上司という立場にいる以上メンバーは意見しにくいと思うからだ。

こういう場を強制的に設けることで、私も新たな気づきがあり、実際に改善していこうと行動に移せた。

夫のようにストレートにいうのが厳しいのならば、周りがこういった環境をつくってあげるのもまた、一つのやり方ではないかと思う。

部下の率直な意見は上司にとってはとても有難い。
意見されて逆上する人間も中にはいるかもしれないが、はっきり言ってそんなやつは上司の器じゃないのでさっさと降格させたほうがよい。
(むしろその判断基準になるかもしれない)

そして私自身も、部長になってからメンバーには常に本音で接してきた。
私は自分自身の管理職としての技術が、他の役職者に比べて圧倒的に足りないと自覚している。
だからこそ「今の私にできること」として、メンバーといつだって本音で向き合うことを決意していた。

それが伝わっていたかはわからないが、私はこれからもそのスタイルを変えるつもりはない。
そして願わくば、双方に本音で語り合える関係性を築きたい。

言いたいことは本人に直接言え。ただし尊敬を持って。
そう言えば昔の上司がいつもそう言っていた。
ああ、今となってその提言の大事さが身に染みている。



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