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【読書感想文】ロスト・ドッグ/酒本歩

(1428文字)

ようやく酒本歩先生のこの本を拝読。
いやぁ、一気に読んじゃいました。酒本先生、仕事の時間と睡眠時間を返してください(笑)

あなたはペットの命に、いくら払えますか?

愛犬が心臓病になった。手術費用は200万円。
ペットショップでは売れ残った犬が鳴き、
セレブが集う動物病院では、名医の診察を待つ行列ができている。
――発見された人間の遺体の周りには、無数の犬の骨が散乱していた。

動物医療の在り方を問う長編ミステリ

1本の糸に、2本目、3本目、4本目と複数の糸が時間の経過とともに近づいて絡み合い、全てが一本に縒り上げられた時、犯人が明らかになり、さらに一本一本丁寧に解いていくことで真相が明らかになっていく、繊細で緻密なミステリー。
ペットの飼育放棄や高額医療、ペットロスという問題が根底からストーリーの端々まで流れているので、単純なミステリー小説ではなく、社会問題を提議する一冊としても充分に読み応えがある。

小説という面からは、小説家の笹目いく子先生の感想にとても敵わないので、ボクは社会問題の面での感想を。
笹目先生の感想はこちら。

ボクは今まで、実家にいる時に犬二匹、猫二匹、結婚してから猫六匹と暮らしてきた。それは全て拾ったり、迷い込んできたり、頼まれたりした犬や猫たち。
みんな、縁というか、授かって預かったという感覚。
彼らに随分、我が家にとっては大きな額も使った。
避妊・去勢手術、ワクチン接種はもちろん、体調を壊して入院したり、手術をした猫もいた。手術費用は検査から含めると2〜30万円だったと思う。
それでも迷いなく手術を受けさせた。
だけど、この小説では、主人公の太一が愛犬の手術のために必要となった額は200万円。もちろん保険などはない。
自分の生活もギリギリの中で、愛犬に200万円出せるのか。
周囲には、明らかに反対する人もいれば、どちらを選んでも責められないという考えなど、人によって様々な反応。
自分だったらと考えてしまいますよね。主人公も悩みます。

さらに、売れ残りのペット問題。
ボクは前述の通り、ペットを買ったことはない。だから選んで買うという感覚自体がわからない。生き物が生産され消費されていくということが、どうも飲み込めない。もちろん買う人を非難するわけではないけど。
さらに、ショップが売れ残りのペットに頭を悩ませるというのが、なにか別の世界のことのように感じてしまう。
せっかく買ったペットが飼えなくなる人も少なくないという。
この話には鳴き癖がついた犬に困る飼い主が出てくる。
そうした犬を引き取って処分する「引き取り屋」が存在するということを、恥ずかしながら初めて知った。一時期、飼育放棄されてたくさんの犬が殺された事件が問題になったけど、あれがその引き取り屋だったわけか。
みんな保健所で処分されてしまうのかと思っていた。しかし法律が変わって、止むを得ない理由がない限り保健所も引き取らなくなったという。
そうした知識もこの話には詰め込まれている。

こうしたペットに関する様々な問題を、高額治療が必要なペットを抱えた飼い主、保護団体、獣医師など、様々な立場の人たちが、それぞれの考えを述べる。
しかしそれは、ぶつかることができないほどに多様で複雑な問題だ。立場が変われば、問題の見え方が180度変わってしまうこともある。
小説の中で事件は解決する。しかし、問題は散らばったままにこれから手をつけて行かなければならない。
そんな印象で、読了後にも深く思考を持っていかれる一冊だった。

酒本歩先生のnoteはこちら。


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