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おひかり様の燈

お正月が近づくと、七人家族の我が家はみんなそれぞれが大忙し。

お餅つきの準備をするおじいちゃん。
おせちの黒い煮豆を七輪で1日かけてぐつぐつ煮ているおばあちゃん。
卵焼きや佃煮やご飯の準備をするお母さん。
近所の寄り合いに顔を出すお父さん。
奥の部屋で静かに座っているひいばあちゃん。

僕たち兄弟は、いとこたちとひたすら走り回って、遊びながら手伝いというなのつまみ食いに大忙し。

僕のお目当ては、お餅つきの前にできる餅米のごはん。
つぶつぶしてもちもちしたお米に塩をかけていっぱい食べる。

「そんなに食べたら、お餅が食べれなくなるやろ〜」
「ええのええの!お餅よりこっちのほうがおいしいもん!」


お正月の三が日の朝は、特別なお味噌のお雑煮が出る。
赤味噌の汁に、白いお餅と黄色いお餅に丸い大根と丸い里芋が入った特別なお雑煮だ。

仏壇の横と神棚のところに”おひかり様”(神棚にロウソクを灯したもの)があるので、朝起きてすぐにお祈りをする。

「おひかり様にお祈りしたから、もう雑煮食べてええやろ?」
「ちょっと待ってな〜、お父さんがまだお祈りしてへんから・・」

お雑煮を食べる前に、金粉のはいったお神酒がまわってくる。
僕は長男なので、おじいちゃんとお父さんのあとだ。
ちょっと口をつけて、飲んだふりをして弟にまわす。

「やっと雑煮食べれるわ〜、もう一年で一番美味しいごはんやわ〜」

一杯目は、白いお餅と大根、二杯目は、黄色いお餅と里芋。
三杯目からは好きなだけお餅を食べれるから、食べたくない大根と里芋も頑張って食べていた。


あれから40年近くがたっただろうか。
お正月になると、特別な味噌のお雑煮をつくって食べることにしている。
黄色いお餅はなかなか売ってないから、白いお餅と大根と里芋だけれど
赤味噌の汁にとろとろになったお雑煮は今でも大好物だ。


ずっと前に、おじいちゃんとおばあちゃん、ひいばあちゃんは”おひかり様”になった。

「今年も帰れなくてごめんよ〜、おひかり様にお祈りできんかったけど、お雑煮は食べたわ、めっちゃ美味しかったわ〜」

お正月が近づくと、離れて暮らす家族でも、想い出すことはある。

「ちゃんと、おひかり様にお祈りしてから雑煮食べやなあかんよ」

今年の正月もそんな声が聞こえてくるような気がした。

あけましておめでとう。
遠い故郷のロウソクの燈を思い出した。

(958文字)


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#冬ピリカ応募

ほしまるさんの作品をみて感化されました!
SFにしたかったけど、テーマが”心にぽっ”ということで、ちょっとノンフィクションになっちゃいましたが、今日が期限だしな〜ということでw
なかなかショートショートは難しいです😅


ピリカさん、初めまして!フォローもさせていただきました〜
楽しいグランプリありがとうございます。今後ともよろしくお願いします😊


©️Mahalopine

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