見出し画像

自分の子供が高校生辺りで先行きの無い伝統工芸の作り手になりたいと言ったら応援出来るか?

当工房は、お昼は給食なのです。工房で作ります。時に夜給食(酒付き)もあります。

給食中は盛んに会話します。

だいたいは創作の話、仕事の話、趣味の話ですが、時にその場で作り話をして遊ぶこともあります。

例えば、こんな話・・・

 * * * * * * * 

小学4年生の男児を連れたお父さんが、たまたま近所で開催されていた和装系伝統工芸の実演イベントに行ってみた。

息子は、それにとても興味を持ち「僕は将来、こういう仕事がしたい!」と(織・染・組紐・和裁・その他の、手仕事系)眼をキラキラさせて主張した。

ちなみに、親は和装業界とは関係ない仕事で、収入は平均ぐらいのレベル、親にも親の実家にも特に資産と呼べるものは無いと仮定。

親は子供が小さい頃は「それはステキだと思う!なれると良いね」と言うが、子供が高校生になっても本気で和装系の手仕事職人になろうとしているのを知り、親もいろいろ調べてみる。

将来がほぼ無い業種だと知り、親は焦る。まさか、ここまで将来の無い仕事だとは思わなかった・・・自分たちには、子供に残せる資産は無いしその業界の人脈も無い。息子がどうにか食えるようになれたとしても、アーティストのように一発当てて儲かった、なんて幸運は絶対に起こらない、まるで夢の無い職種なのを知る。

親は子供の将来を案じ、和装関係の作り手になる、それを職業にする事に、やんわり反対する。

それ専業でなくても、どこか普通のところに就職しながら、趣味で作品を発表するというやり方もあるらしいじゃないか、そういうのもアリだとお父さんは思うな・・・

子供は怪訝に思いながらも無視して勉強そっちのけでのめり込む。オレはどうせ高校を卒業したら、大学には行かずにどこかの工房に入るのだから・・・

子供は自分で、和装関係の製造業の先輩たちにいろいろ意見を求める。こんな未来の無い仕事はやめた方が良いという人、やるのは構わないが、未来の保険のために、ちゃんと勉強してそれなりの大学は出てからの方が良い、という人。逆に、職人技術は若い時に叩き込んだ方が良いのだから高校出たらスグに来い、という人・・・いろいろな人がいて本人も迷う。

共通しているのは「未来は全く暗い」「若い人で専業でやっているのは、ほぼ世襲か、親が資産を持っている人」。

斜陽産業の権化のようなものだけども、しかしプロになるには意外に資質や才能が必要で、覚える事は膨大だし、精度が必要で、勉強や努力を10年ぐらい続けてやっと独立出来るかどうかだという・・・好きなだけではやっていけない職種なのも分かってくる。

キャリア数十年の凄腕の人が廃業している世界・・・自分にマイナス要素をヒックリ返せるほどの資質と才能があるのかは、現状では分からない。

実際に弟子の受け入れ先を調べてみると、教室ではなく本気で弟子になりたい若者を入れてくれる工房はなかなか見つからないのを知る。昔と違って、弟子を育成出来るほどの仕事量が工房に無いので、弟子を育成する予算が立てられないし、諸事情あり弟子にプロとしてのキャリアを積ませる事が出来ないらしい。

弟子を受け入れている所があっても、実は先生ファミリーの小間使い扱いで、たいした事を教えてもらえず、後継者育成助成金を得るために使い捨てされるような待遇である事が多いのを知る・・・そんな事ばかり聞いていたら、自分がどこまで和装の手作り系で生きて行きたいのか、分からなくなって来た。不安になる・・・

やりたくても、裕福ではない親からのサポートは受けられない。美大に行くのも医大の次ぐらいにお金がかかるのでむづかしい。余程の才能が無い限り、美術系の予備校に通う必要もある・・・大学を卒業してからどこかの工房に入ったとしても職人の見習いの給料はバイト以下しか出ないし、独立してもお金を稼げない仕事だから、奨学金を使うと将来は相当まずいことになる・・・かといって、それほど先行きの無い業界だったら高卒でイキナリ入るのも不安・・・

職業訓練校に、自分がやりたい事に近いものは無いか・・・訓練校を出たからといって、自分が望む業種につけるとも限らないようだ・・・

親もそんな息子を観ていて不安である。

そんな親子だから、時折ぶつかるようになり、不毛なケンカをするようになり、親子は決裂した状態のまま、子供は高校3年生を迎えた。。。

どうする、親と息子・・・

ここで、小説や漫画ならその息子に偉い先生からのお誘いがあって、その工房に入り、紆余曲折ありながらその息子は大成する、なんて感じになるんだろうけど、現実社会ではそう簡単に行かないしなあ・・・・

 * * * * * * * 

・・・なんてしょうもない話をその場でつくって工房給食の時に話して遊ぶのです(笑)

それとか、

「不動産資産の無い和装系製造の代表の親がさ、息子に跡を継げと迫るのは、ある種の虐待かね?」

とか話して遊ぶのであります。

業界のマイナス面の話題ならいくらでも広がるので、会話は尽きないのです。

もう笑うしか無い、という状況の業界ですのでー。

ちなみに、ウチの子供二人は既に成人し、私の仕事と全く関係の無い仕事をしております。それは、別に将来への不安からそうしたのではなく

「私の二人の子どもたちは、オヤヂの仕事に全く興味を示さなかった」

という理由からです。笑

やりたいと言えば、自分の子どもたちも育成しましたけどね。

その代わり、外部の志願者たちを育成しております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?