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小説「ムメイの花」 #3個性の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

僕の目はぱっちり見開いている。

朝を急ぐ人たちが、
花を持つ僕を横目に
100%の確率で見て通り過ぎる。

僕が花を見ていると
右からひとりのオトコが走ってきた。

本屋の息子、
幼馴染のブラボーだ。

のっぽの八の字眉をしているから
いつも困ったように見える。

困り顔の彼には、思わず
「ブラボー!」と
声をかけたくなる瞬間がある。

何か行動を起こしたとき、
不思議な現象が起こるんだ。


とある快晴だった朝には
こんなことがあった。

僕は起きてから
家でシャワーを浴びた後だった。

すっきり頭が冴えた状態で
数字と向き合おうとしたとき
玄関からコンコンと音が聞こえた。

ノックをしてきたのはブラボー。
散歩をしようと言ってきたんだ。

一緒に歩き始めたとき、
ブラボーは、なんて良い天気なんだと言った。

すると、突然の大雨。

散歩をしようという気持ちだけだったのに
再びシャワーを浴びることになった。


そんなブラボーは今、
片手に本を持って走って来た。

石に つまずいて、本を落とす。
表紙には「注目される方法」と書かれている。

通り過ぎる人が
一気にブラボーを見た。

ブラボーは人の視線を感じとり、
恥ずかしそうに本を拾った。


「おはよう、ブラボー」
「お、おはよう。アルファ」
「今日はあわてて、どうしたの?」

「この本に書いてあることをしたまでなんだ。
 僕は注目されることが苦手。
 それを克服したいと思っているんだ。
 この本によると、急ぐ必要があるんだってさ」

「ブラボー。やっぱり何か起こすオトコだね。
 本の言うように、注目されていたじゃん」

「注目されている人って努力も必要だし、
 結構忙しいんだなあ」

「僕みたいに1本の花を持つ方法もあるよ?
 通り過ぎる人、みんなが注目していくんだ。
 努力して知識をつけるより、効果的かもよ?」

「そんな方法があるの?やってみよう!」

僕の花はされるがまま、
ブラボーの手に渡った。


朝を急ぐ人は、何もないかのように
ただ自分の朝に集中して歩いていく。

「あれ、僕のときとは違う反応だ」

どうやら、注目される方法は
人それぞれあるみたいだ。

1本の花の見方も
人それぞれなんだろうか?

他の人にはどう見えてるんだ?


ブラボーから花を受け取り、再び考えた。


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