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小説「ムメイの花」 #4憧れの花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

家の前に立つことが日課になってから
ある視線を強く感じている。

僕の目の前を通り過ぎていく人たちの
何百個の目玉から感じるものではない。

たった2つの目から感じるものだ。


視線の正体は
チャーリーという男の子。

チャーリーの家は道路を挟み
僕の家の向かい側に建っている。

見た目が似ていることもあって
よく「兄弟みたいだね」と言われる。

血が繋がっているわけではないけれど、
ムメイの街に住む一部の人は
「お兄ちゃん」と僕のことを呼ぶ人だっている。


そんなチャーリーは僕と同じく
自分の家の前に立ち、
僕をまっすぐ見つめている。

チャーリーの視線を可視化して
直線を数式にすると……

すぐ数字と結びつけようとする自分に気がつき、
僕は頭を左右にふった。

意識を戻し、チャーリーを見ていると
僕と違う点を見つけた。

普段、何も持っていないのに
今日は「3本の花」を持っている。

このまま耐えることもできたけど、
会ったからにはとりあえずの挨拶をしよう。

「おはよう」

僕の言葉は地球に向けて発射された
ロケットの音で遮られる。

大きな声を出すのもエネルギーを使う。
僕らしくもない。
仕方なく、自らチャーリーの元へ道路を渡った。

「おはよう、チャーリー」

「おはようっ!」

10歳年下のせいか、体は小さいのに
エネルギーが溢れる熱いオトコだ。

「今日はどうして3本、花を持っているの?」

「1本より3本の方が立派だろ?
 数が多い方が偉いんだ!」

チャーリーの熱意と自信には感心だ。
自信があって、言い切れたら
数字がなくても人を説得できる気がした。


僕は静かに目線を落とし、右手を見た。

そもそも、僕はなぜ
「1本だけ」を持っているんだろうか?

僕には2本も3本も5本も同じ。
ただ、1本の花は特別なようにも思う。


チャーリーの3本の花に目を向けると、
ぴんっと胸を張っていた。

きっとチャーリーの気持ちが
花にも伝わっているんだろう。

花も持ち主に似るんだろうか?


目線を右手の花に戻し、再び考えた。


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