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小説「ムメイの花」 #2感情の花

「 おはよう、アルファ。
 今日も花を持って立っているのか!
 いつ見ても無表情だなあ!まぁ、良い1日を! 」


それぞれの生活を始めるムメイ人たちは
僕を見かけては挨拶をしてきた。

僕がいるのは地球から少し離れた「ワレワレ」という星。
地球から見ると一番輝いて見えると聞いたことがある。

ワレワレ星にはいくつかの街がある。
そのうちのひとつが僕が住む「ムメイ」
ムメイは小さな街だけど、地球へ向かうロケットの発着場だ。

僕の名前は、アルファ
生まれも育ちもムメイ。

僕には毎朝の日課がある。

朝起きてベッドから出ると窓を開ける。

背伸びをした後、窓から手を伸ばし、
屋根から垂れ下がる花を摘み取る。

そして花を右手に持ち、家の前に立つ。

ロケットが打ち上がる空をぼんやり眺めて、
右手の花を見るんだ。


こだわっている点は
「1本だけ」元気そうな花を選ぶこと。
「1本だけ」右手に花を持つこと。
どうしても譲れない。


そもそもなぜこんなことをし始めたかって?
それは、ある「答え」を見つけるため。


そんなことより、まず僕の家の話をしよう。


ムメイは小さな街だから
どの人も僕のことを良く知っている。
というか、この街で僕の家は有名だ。

おじいちゃんがロケットを開発した人だから。
ムメイにとって、伝説の人。
我が家にとって、誇り。

そんなおじいちゃんは僕が生まれてすぐに消息をたった。
地球に行ってしまったとかなんだか。

伝説の人は最期まで伝説ってことにしよう。


「数字をこころとせよ」


これは我が家の家訓。
数字と理論を愛している一族なんだ。

僕にとってはこれが普通だったから
違和感も不思議と耐えることができた。
というか、何かをする気力なんてなかった。

バカと天才は紙一重なんて言葉も聞いたことがあるけど、
自ら集中できるものがあると言えるのは
正直、羨ましいと思う。

僕はこの家に生まれた運命を信じて、
ただ嘘をつかない数字と生きるだけだった。

なのに毎日遊んでいたら、
いつの間にか「感情」なんて立派なものを忘れていった。

そんな僕でも、
唯一こころに残っている言葉がある。


「ハナヲ ミヨ。
オマエニ フソクスルハ、ハナヲ ミルチカラヨ」


誰に言われたのか、思い出せない。
意味もわからない。
結局、数字で説明がついてしまうんだろうか?

とにもかくにも言葉のとおり花を見てみることにした。

今のところ、この右手にある花だけを覚えていればそれで良い。

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