今すぐに何かが変わるわけじゃないけど、関わらないと何も変わらない。

「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。」
著:和田靜香 読書感想文
★以下ネタバレがあるのでご了承ください。


2020年3月、「この状況でいきなり解雇されても、派遣の私は文句も言えないんだろうな」と感じていた。
コロナが急速に拡大にして、マスクが売り切れ、百貨店が休業し、学校が休みになり、日常が一変した。

派遣切りのニュースを見て、私もそうなるかもしれないと、うっすらと霧のような不安を感じたのをよく覚えている。
でも、もう、「大企業だから安心」とか「正社員だから安心」とか言ってられないなってここ1,2年で思った。

政府のコロナへの対応であったり、海外との対応の違いであったり、オリンピックであったり、いろんな出来事を通じて、「この国は大丈夫なのだろうか」と感じていた。
けどなんで政府はこんなことするの?なんで働いて税金を納めてるのに不安なことばかりなの?なんで政府は○○を認めようとしないの?わからないことばかり。

そんな不満や不安があるけどよくわからない私にとって、この本は学びが多くて、本当に読んでよかった。
内容は、人口減少、環境問題、雇用、財政、移民、原発、沖縄の基地など様々なことに触れていて、興味があって知っていたことや全然知らなかったこともあるから、1回読んだだけでは全てを理解できなかった。けどそれでも、読んで良かった。

それと、作者の和田さん自身が本の中で「国会議員の小川さんが100%正解ではない」と述べられたのもすごく良いなと思った。
実際に、和田さんと小川さんも一緒に考えて、これはこうなのか?違うんじゃないか?と議論をされていて、その様子がまさに民主主義だなぁと思った。



もしこの本が気になった方は、noteでこの本の「はじめに」が無料で読めるので、読んでみてほしいです。→https://note.com/sayusha/n/neaef2e3f526b



”他者に寛容たれ、ということは他者を好きになれとも、理解せよということでもない。”(本文より引用)


「安倍さんの政治が嫌いで、話し方さえも嫌だ、安倍政権を支持する人も理解できない」と感じていた作者の和田さん。
しかし、「安倍さんの政治が嫌いでも個人を憎むことは違うし、安倍政権の支持者を自分とは違う人たちだと除外していいのか」と話した国会議員の小川さん。
和田さんは、それに大きな衝撃を受けて、安倍政権の支持者を不寛容な人と呼んでいたが、私自身がそうなのでは?と考えた。そして和田さんが森本あんりさんの「不寛容論」を読んでその中で紹介してるのが”他者に寛容たれ、ということは他者を好きになれとも、理解せよということでもない。”である。

この言葉がすごくすごーく響いた。私が同性婚とかを考えるときに、まさにそう感じていたから。
私は同性婚賛成派だけど、私自身は異性愛者だし同性を好きになることはないと思うし、同性を好きになる気持ちもわからない。
でも、その気持ちをわからなくてもいいと思う。
ていうか、なぜ自分が異性愛者なのかですら他人に説明できないし。
だから、同性を好きなる気持ちが理解できなくても、ただ単純に「同性が好きな人がいるんだぁーへえー」って、そのくらいの寛容さがあればいいのになぁと思う。



”「こういう感じを『人生が音を立てて崩れ落ちていく』というのか」と、自分ではっきり自覚していたのを覚えている。
(中略)
東京に戻ってからも何もかもうまくいかず、あるとき駅に向かう途中の狭い路地で、小さな花壇に花が綺麗に植わっているのが目に入った。
わあ、素敵って思うか?違う、綺麗な花がたまらなく許せなかった。「花なんか咲かせやがって!」とむしゃくしゃした。
私には花一本買う余裕がなく、ましてや花壇なんて持てない。私の靴が2足も並べば埋まる小さな花壇に猛烈に嫉妬して、それを踏みつけようとした。
(中略)
でも、できなかった。できないまま泣いて泣いて、電車に乗った。あの頃はよく泣いたまま電車に乗っていた。” (本文より引用)


長文なので、少し省略してしまったけど、これを読んだときに、すごく泣けてきた。
私もこの気持ちがわかる。この気持ちの正体を知ってる。

私の場合、2社目に転職した時、仕事が忙しくて休日出勤したり、会社に内緒で夜明けまで一人で仕事をして始発で帰ったりもした。
その前の会社を1年で辞めてしまったから、まだこの会社を辞められなかった。

ちょうど案件が重なったからしかたないし、自分の能力がなくて時間がかかってしまうから自分が悪い。しかたない。でも仕事が終わらない。終わらない。あぁ、バタッと倒れたいなぁ。入院したら仕事しなくて良いのになぁ。そんなことを考える多忙な日々が数ヶ月続いた。

そんな時、私は友人と会うと「いいなー仕事忙しいとはいえめっちゃ給与高いんだろなー。私も忙しいけどあなたが驚くほど給与低いよ。」とよく思っていた。
友人は、私の仕事が忙しいことや給与が低いことと全く関係がない。だから友人を妬んでも意味ない。そんなことは分かってる。
それでも、幸せそうな他人を妬んでいた。心の余裕がなさすぎて他人を思いやる余裕なんて全くなかった。

もしかしたら、今日本に住んでいる人でこういう気持ちを抱えている人は多いのかもしれない。作者の和田さんは花に対してむしゃくしゃしたが、それが特定の人であったり、何かに対してだったり。
また、その気持ちがずっと続いたりすることで落ち込んで自殺してしまったり、殺人などの事件になってしまってるのではないだろうか。特にここ1年の事件を見ててそう感じる。
そう考えるとやはり、個人の責任とか、家庭環境のせいにしてはいけないと思った。




”基本的なもの(衣食住)が満たされることは、人間の幸せにとって、とても大切な要素だと思います。
でも、やっぱりそれだけじゃない。人の幸せは100%主観的なもの。誰かがあなたの幸せをこうだと決めつけるようなものではありません。
だから大切なことは、あなたが幸せだと思える生き方を自由に選べる広い選択の幅、そしてお互いがそれを認め、尊重し合える懐の深い価値観、この二つが満たされる社会にして行く必要があると思うのです。”(本文より引用)


この文章は国会議員の小川さんが政策としての幸福について書いたものだ。

この言葉、すごくないですか?めちゃくちゃすごくない???
「衣食住があれば幸せでしょ。だから衣食住だけ提供してればいい」でもなく、「幸せなんて人それぞれ違って全部に対応できないから個々で努力して勝手に幸せ目指しなさい」でもない。
人の幸せはそれぞれだから、「選択の幅が広い」「お互いがそれを認め合える」ことが社会に必要。すっごく、私は共感した。

今の日本でそれが達成できているだろうか?「衣食住だけ提供すれば十分」と考える人もいると思うけど、私はこの幸福論に近い社会がいいなぁ。



「選挙は毎日が砂粒を積み上げていくようなもの」と国会議員の小川さんが言ったように、ちゃんと政治を知っても、選挙の投票に行っても何も変わらないかもしれない。
そもそも、もし、自分が応援している政党が大勝利を治めたとしても「明日からぜーんぶ自分が理想としてた社会!ルンルン♪」というふうに簡単には世の中変わらない。 
けど、それでも、今すぐに何かが変わるわけじゃないけど、関わらないと何も変わらない。だから関わるしかない。
この本を読んでもっと知らなきゃいけないし、政治を自分ごととして考えていかなきゃなと思った。

とりあえず、私は他にも政治に関する本をいくつか読みたい。それと次に住む場所がわりと地域の活動が活発そうなので、参加してみようかな。
そうやって少しずつ自分が住んでる地域や住民と関わるのが、なんとなく良いんじゃないかと思う。


作者の和田さんとやりとりする国会議員の小川さんと秘書の八代田さんがとても真摯な対応で素敵だなと思った。
すごく勝手なイメージで偏見だけど、政治家って一般人より自分がえらい、すごいと思ってるイメージだった。(そんな人もいるかもしれないけど) 
だから正直にわかりませんという和田さんを馬鹿にせず本気で向き合う。小川さんってすごいなぁと思った。

特に”和田さんが安心できる言葉、ビジョンを小川が示せるか?それができないようなら総理大臣になれません”と秘書の八代田さんの言葉。
国会議員ではなく秘書の方の言葉だけど、それでも小川さんのすごさが分かる気がする。こういうことを秘書の方が言えるというのは、小川さんと秘書の方の関係が良好で、秘書の方も本気で本音で仕事に取り組まれているということだと思う。本当にすごい。


また、この本は作者の和田さん、対談した小川さん、そのほかにも多くの人の力で、作られたんだなぁと感じた。特に作者の和田さんががんばってがんばって調べて対談して熱い思いでとても心を込めて、丁寧につくられたんだなと感じた。「本気」なんて曖昧な表現だけど、でも本気で、心を込めて、それを凝縮してこの本が作られたんだなぁと、読んでいて思った。おしまい。


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