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くり返される毎日をただ受け入れる ~映画『川っぺりムコリッタ』をみた~

映画『川っぺりムコリッタ』は、孤独な青年がひとりで移り住んだ「ハイツムコリッタ」で住人たちと出会い、少しずつ変わっていくお話。

設定としてはよくあるかなぁ、などと思いつつ。
『かもめ食堂』や『めがね』の荻上直子さんの監督作なので、ほのぼののんびり楽しもう、とか思っていたら、少し様子が違いました。

主演の松山ケンイチさんがとてもいいです。
周りと関わる気があまりなかったところから、ぐいぐい来るムロツヨシさん演じる隣人(これまた最高です)ら「ハイツムコリッタ」の住民との関わりで少しずつ変わっていく様子が自然。

しんどいこともあるし、暗い気持ちになったりもするけど。
でもつい笑っちゃうことって日常で起こったりするし、思いもよらずなにかに愛着を感じるようになったりする。
そのリアル。

他の登場人物たちも同じで、しんどいなかでもどこか飄々と淡々としている。
住民たちの抱える苦しさは妙にリアルなところがあるけれど、映画のなかにはどこかおとぎ話のようなファンタジーのような場面がいくつもあり、それがこの映画を少し軽やかにしているのかもしれない。

何度もセリフとして口にされる「ささやかな幸せを見つける」ということ。
使い古された言葉ではあるけれど、やはりそれが生きる知恵なんだな、と感じます。
そんな瞬間があるなぁと知っていると、まだ生きられるなぁと思える。
(ただ、社会の中で貧困に喘ぐ人たちにその幸せで乗り切ろうとは言いたくないな、と見てて思った。頑張って日本。余談)

主人公が職場の上司から仕事に慣れたことを誉められて、この繰り返しで年月が過ぎていくと言われたときに
「それって意味ありますかね?」と問う。

上司は「意味はある。それは10年繰り返した人だけがわかる」と答えます。

自分が生きる意味を毎日実感できる人なんて、多くないでしょう。
多くは、そんなこと考えずにとりあえず生きる。

昔片想いをしていた職場の先輩と交わした会話を思い出します。
少し繊細なところのある人で、私に
「生きる意味ってなんなのかなぁ。そんなのわからないな」
と言うのです。
好きな人がそんなことを言うのは悲しくて言葉にならず私は
「それは…わからないですね、死ぬまでわからないかも」。
すると先輩は
「きっと死んでもわかんないよ」
と笑いました。

その後、先輩は職場から姿を消して私の気持ちは断ち切られたわけですが。
後から思ったんです。
「生きる意味なんてわからなくていいんです」
と言ってあげられたら良かったな、と。

「死んでもわからないようなことなら、わかる必要のないことなんだから、わからなくていいんです」と。

でもさ、死んだ人から話は聞けないから、もしかしたら死ぬ瞬間に
「そうだったのか」
て思っているかもしれないよ。

なるほどやはり、繰り返した人だけがわかることなのでしょうね。


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