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【雑誌『婦人の友』特集】 OLD IS THE NEW YOUNG!(老いとは新しい若さ)

おばあちゃんの持つ刺繍の技術に、若者のクリエティブなアイデアの掛け合わせ、持続可能な社会を模索するポルトガル発の取り組み、A AVO Veio trabalharについて。※この記事は自分が取材し、雑誌『婦人の友』で掲載となった内容を再編集したものです(記事は写真の下にあります)。

ポルトガルのおばあちゃんに受け継がれた刺繍の技術がベースに

直訳すると、「おばあちゃんは働きに行く」という意味。どういうことだろう。リスボンにあるアトリエを訪ねてみると、そこには愛らしいさまざまな商品が。カラフルなクッション、モノクロの写真に彩色が施されたアートワークなど、ところせましと並んでいました。よく見てみると、そのいずれもが、刺繍の技術を使っていることがわかります。

アトリエの中では、作業をするおばあちゃんの姿がありました。その手元でつくられているのは…そう刺繍。ポルトガルの刺繍は数世紀の歴史を誇るという伝統的なもの。愛らしい刺繍は、土産物などでも目にする機会が多いものの一つ。そして、ポルトガルのおばあちゃんは、刺繍が上手な人が多いのです※1。

そんなおばあちゃんたちの技術をベースに、スタイリッシュなデザインを使ったさまざまなアイテムをつくり、発信し、販売につなげるプロジェクトがA AVO Veio trabalhar。活動の発端を、ファウンダーの一人であり、デザイナーのスサナ・アントニオさんに聞きました。

古きよき伝統と、洗練されたデザインの融合

「小さいころ、両親は共働きだったからおばあちゃんに育てられました。おばあちゃんは刺繍をいつもしていて、私もそういったクリエイティビティが好きでした。学校ではデザインを選び、1年間ミラノにも留学しました。最初はデザインに感動しましたが、表面的なものだけに思えてきました。モノにデザインを施して、もっとおしゃれに、もっと高く売れるようにするものでした。私はもっと社会のために、QOLを高めるために働きたかった。ポルトガルに戻り、福祉施設でボランティアを始めました。そこで目にしたのは、おばあちゃんたちが伝統的な刺繍する姿でした。私はおばあちゃんたちに、もっと斬新で、もっとカラフルな刺繍をすることを勧めてみました。すると彼女たちの才能は一気に開花しました」

古きよき伝統と、洗練されたデザインの融合。プロジェクトには注目が集まり、有名ブランドから刺繍の依頼が入ったりもするようにもなりました。けれど、大事なのは活動自体なのだと、スサナさんは話してくれました。

仕事は人生に価値を与える

「私たちの目的は、仕事の成果ではなくて、仕事をするという行動そのものにあります。朝起きて、ベッドから出て仕事に行かなくてはいけない、誰かが待っている、というそのこと自体なのです。そして家から出て、実際に集まることがとても重要だと思っています。鬱と診断されてお薬を飲んでいるおばぁちゃんもたくさんいます。大切なのは、朝起きて、歯を磨いておしゃれして、行くべき場所がある、ということ。A AVO VEIO TRAVALHARという団体名の通り(「おばあちゃんは働きに行く」という意味)、働くために出かけることが大事。仕事は人生に価値を与えます。コミュニティの役に立っていると感じることが大切なのです」

 彼女たちの取り組みで特徴的だと感じることの一つに、独特のプロモーションがあります。インスタグラムのアカウントを見てみれば、おばあちゃんたちが化粧をして、嬉々とした表情で街に繰り出す映像や写真などが並ぶ。そしてここにも、プロジェクトへの想いが詰まっています。

年齢の高い人たちがクリエイティビティを発揮できる場所をつくりたい

「私たちは、〝加齢はグラスの半分程度のもの(まだまだ十分に残っている)〟だということ示したい。もっと楽観的にポジティブになってほしい。そのために、みんなにわざとカラフルに、ポップな装いをしてもらっています。それは高齢の女性にはとても難しいこと。彼女たちはシワだらけで美しくないと思い込んでいるから。でも、あえてその部分に働きかけたかった。それぞれの年齢にそれぞれの美しさがある。もちろん、無理に着飾る必要はないけれど、それでも、オシャレをして、家族みんなから褒められたり、写真を撮られたりすると、自然と元気が出たりするもの。あなたは美しい、と20回言われたら、きっと彼女は輝き始めるわ。そして、最近よくクリエイティブという名前を使った場所やイベントがたくさんあるけど、みんな若い人ばかり。40歳以上の人ってほとんどいない。でも何歳になっても創造的であるべきだし、年齢の高い人たちがクリエイティビティを発揮できる場所をつくっていきたい」

老いること楽しいこと

最後に、本稿のタイトルである「OLD IS THE NEW YOUNG!」について触れていおきたいです。これはA AVO Veio trabalharの重要なキャッチコピーの一つ。意味は「老いとは新しい若さ!」。なんとポジティブでステキな言葉なんだろう。

年齢を重ねることは当たり前であり、魅力は年輪のように増し、可能性もまだまだ広がっていくのだと、前向きな気持ちになれる。周囲はもちろん、当事者自身が存在価値を認めるという思考こそが、持続可能な未来をつくっていく社会の礎になることを、改めて教えてくれた気がしました。

※1
1974年の独立革命(カーネーション革命)まで続いたサラザール政権時代、女性は自由に働くことができず、投票権もなく、不自由な暮らしを余儀なくされていました。 そんな時代を生き抜いた女性たちは、専業主婦としての家庭での仕事が中心となり、そのひとつとして、刺繍や裁縫が上手になったという背景があります。


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