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【短編小説】アジャイル卒業式 最終話「完璧じゃなくて」

卒業式が終わり、美咲は一人で学校の教室に立っていました。彼女は、壁に掲げられた生徒たちの作品を眺めながら、自分の高校時代を思い出していました。

当時の彼女は、将来に対して漠然とした大きな不安を抱えていました。スポーツ推薦で進路を決めた人、個性豊かな才能を伸ばすため専門学校に進む人。ふと、自分には特別な才能がないと感じ周囲の生徒たちと自分を比較しては落ち込んでいました。
「私には何ができるのだろう...」という疑問が常に彼女の心を占めていたのです。

◻︎◻︎◻︎

ある日、美咲は学校の図書室で一人、将来について考えながら進路に関する本を読んでいました。その時、彼女のクラスメートが彼女に声をかけました。

「美咲、いつも一人で何を考えてるの?」

美咲ははっとして答えました。

「あ、うん...将来のこと…かな。でもいまいち自信がなくて...」

クラスメートは少し考えるそぶりをした後、励ますように言いました。

「美咲はいつも一生懸命だよ。きっとどんな道を選んでも美咲にとって相応しい未来が待ってるよ。それにね、完璧じゃなくていいんだよ。柔軟さと瞬間瞬間の熱量が美咲のいいところだから。」

その言葉は、当時の美咲にとって大きな励ましとなりました。

「そっか…柔軟さか。なんか視界が広がった気がする。」

今、美咲はその高校時代の自分を振り返り、どれだけ成長したかを実感していました。彼女は、過去の不安を乗り越え、新しい挑戦に向かって進んでいました。

◻︎◻︎◻︎

「あの頃の私には想像もつかなかった...こんなに大きなことを成し遂げられるなんて。」

彼女の目の前には、生徒たちが「未来へのメッセージ」プロジェクトで作成したビデオメッセージが映し出されていました。彼らの夢や希望が詰まったメッセージを見てつぶやきました。

「今の彼ら、
あの頃の私、
これからの彼ら、
今の私。」 

それから、「私も、彼らのように夢を持って、前に進むべきだわ。」と自分自身に語りかけました。彼女は、生徒たちの未来に対する希望が、自分自身の未来に対する新たな視点を与えてくれたことを感じました。

その時、教室の扉が開き、何人かの生徒が入ってきました。彼らは美咲に感謝の言葉を述べ、卒業式での経験が自分たちの人生に大きな影響を与えたことを伝えました。
「美咲さんのおかげで、私たちは自分の夢を言葉にして、その気持ちをちゃんと大切にすることができました。だからありがとう。」

美咲は生徒たちの言葉に心から感謝し、彼らの成長を見守ることができた喜びを改めて感じました。

彼女は、自分の過去を卒業し、新しい未来に向けての一歩を踏み出す準備ができていることを実感しました。

「卒業。それは終わりではなく、新しい始まり。教えてくれてありがとう。」

「それも美咲さんが気づかせてくれたんだよ。」

◻︎◻︎◻︎

数日後、午前中の仕事を終えてランチに出かけようとしていた美咲のスマートフォンが鳴り、画面には高校時代の友人からのメッセージが表示されていました。

「美咲、卒業式の話を聞いたよ。おもしろすぎるって。さすが美咲だね。」

美咲は微笑みながら返信しました。


終わり。



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