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いま必要なのは「ゆるやかな組織変革」?「もったいない」から始める、前向きなカルチャー変革のアプローチ

昨年頃から急激に「カルチャー変革」というテーマで登壇の依頼をいただくことが増えています。そうした中で、企業のカルチャー変革の本質や、具体的に実践する際のレバレッジポイントについて詳しく解説する記事も書きました。

組織のカルチャーに注目が集まっていることを嬉しく感じる一方で、少し違和感を覚えることもあります。というのも、組織変革のご相談を受けるとき、「今の組織がダメなので、カルチャーを変革をせねば」とカルチャー変革を“戦略”に位置づけ、トップダウンで改革を断行しようとするケースが多いのですが、それだけではうまくいかないだろうなとも感じるのです。

この記事では、なぜ危機感を煽ってカルチャー変革を進めてはいけないのか、その代替となる「ゆるやかな組織変革」「前向きなカルチャー変革」とは何かについて簡単に考えをまとめておきます。

「今がダメダメだから変わらねば」という現状否定の限界

昨年に「Unipos Summit 2023 winter」というカンファレンスのトークセッションに登壇する機会をいただきました。イベントレポートが公開されているので、ぜひご覧ください。

一緒に登壇させていただいたのは、製薬業界や積水ハウスにて人事制度改革に携わられてきた藤間美樹さんと、書籍『だから僕たちは、組織を変えていける』の著者である斉藤徹さん。斉藤さんとはときどき一緒にランチに行くような仲で、藤間さんとは今回はじめてお会いしました。

今回のセッションでまず面白かったのが、トークテーマに対する3人の反応です。

「生存戦略としてのカルチャー変革-衰退する企業への処方箋-」という重厚なテーマのトークセッションだったのですが、3人とも「カルチャーの話は重くなりがちだから、柔らかく話しせるといいよね」という考えが共通していて、なごやかにセッションを進めることができました。

斎藤さんもは「変化する時代において、企業や従業員は自分の意思で自走していく必要があり、その指針としてカルチャーが重要である」と、カルチャーのポジティブな側面を強調されていましたし、藤間さんも「カルチャーを変えるにはコミュニケーションを変えていく必要があるので、タウンホールミーティングのような経営者と従業員の対話の場や、1on1の場をうまく設計して変えていく必要がある」というお話をされていて、根底にあるものは似ているなと感じました。

私からは、冒険的世界観の話をさせていただいたのですが、その中でハイライトとなったのが、「カルチャーを変革していく際に、『今がダメダメだから変わらなければならない』という現状否定から入ると、カルチャー変革のプロジェクトはまずうまくいかない」という話です。

たとえば、秋葉原という街の間口を広げたいという課題感があったとして、「アニメと電気の街というイメージから脱却しなければならない!」と自己否定して、秋葉原に港区っぽいバーなどをつくってもおそらくうまくいかないであろうということは、容易に想像がつきますよね。カルチャーは外部から無理やり変えられるものではなく、もし秋葉原のカルチャーを変えていきたいのであれば、そこに集まっている人やお店、既にあるカルチャー、そこに眠っている資源ポテンシャルのようなものを起点にする必要があります。

都市開発やまちづくりの例だとわかりやすいと思うのですが、これが会社の話になると、なぜか組織の現状を否定して、まったくないものを求めて変革しようとしてしまう。組織のカルチャー変革プロジェクトにおいても、既にあるけれど目が向けられていない組織のよさやポテンシャルに目を向け、そういったものを呼び覚ましながら、“ゆるやかに”組織を変えていく必要がある、というお話をさせていただきました。

重要なのは、いかにして「前向きな動機」を設計するか

なぜ、私はここまで「ゆるやかな組織変革」にこだわるのか。

もう一段階深く言語化してみると、やはり組織を変えていくには大きなエネルギーやモチベーションが必要になります。まさに今回のトークテーマにも「生存戦略」という言葉が使われていますが、これまでは「このままだと船が沈むぞ」という危機感でもって、そのモチベーションをくすぐる方法が主流だったのかもしれません。

しかし、私が最近「冒険的世界観」というキーワードを繰り返し掲げて主張しているように、現代はそうした「軍事的」な方法論では立ち行かなくなってきています。むしろ「このままだと船が沈む」と言われたら、たいていの従業員は転職してその会社から逃げ出すでしょう。これが、危機感をあおって無理やり組織を変えていこうとしてもうまくいかない理由の1つです。

やはり前向きな気持ちで、「この組織を変えていきたい」と思えるかどうかが重要であり、そのためにはそこにいる人のモチベーションや資源を活かした無理のない組織変革をする必要があるのです。別の言葉で言えば、経営層には無理のないゆるやかな組織変革をファシリテートすることが求められます。

危機感を使って無理に組織を変えていこうとしてもうまくいかないもう1つの理由は、危機意識を起点にした変革には持続性がないからです。

下記は、変革の動機についてで整理した表であり、「このままだとまずい」というピンチを起点にした説得は、比較的短期の変革において効果を発揮します。しかし、カルチャー変革は基本的に時間のかかるプロジェクトであるため、ずっと危機感をあおり続けているとメンバーは疲弊し、離職を誘発してしまいます。

ただ、出発点として危機感を持つこと自体は悪いことではありません。

下記はジョン・コッターという人が組織変革のプロセスをモデル化したものです。ナドラー&タッシュマンの整合性モデル同様、現代の環境で使うにはアップデートが必要な部分もありますが、非常に優れたモデルであることは間違いなく、このモデルにおいてもファーストステップが「危機意識の共有」になっています。

実際に企業においてプロジェクトを進める場合には、組織変革のキーマンとなるミドルマネージャーが各部署から集められ、プロジェクトチームを組成することになると思いますが、こうしたマネージャーや経営層の間で危機意識を持つことはむしろ有効です。共有するものがなければ、足並みを揃えて前を向くことができませんし、不確実性の高い世の中を組織で冒険していく上でも、健全な危機意識を共有する必要はあるからです。

しかし先ほども書いたように、危機感は出発点としては有効ですが、持続性はありません。

そこで重要になってくるのが、危機感を出発点にしつつも、それを「チャンス」や「ビジョン」といった前向きなストーリーに転換していくことです。コッターのプロセスモデルで言えば、5つ目の「メンバーの自発を促す」というフェーズで、組織変革のプロジェクトをどれだけメンバーの内発的動機と結びつけ、メンバーの自分ごとにできるかが、プロジェクトの成功のカギを握ります。そしてそのためには、前向きなビジョンやチャンスが必要不可欠です。

そういう意味では、「前向きな変革の動機をいかに設計するか」が、組織変革プロジェクトの大きなポイントだと言えるでしょう。

ゆるやかな組織変革のカギは「もったいない」という感情?

「変革の動機を設計する」と言っても、そもそも動機とは個人の内部にあるものですし、具体的にどんな動機を設計すればいいんだ?と疑問に思われる方もいるでしょう。

私がその手がかりになりそうだと思っているのが、組織の中にある「もったいない」という感情です。

最近MIMIGURIには、他社で豊かな経験を積んだメンバーが多く入社してくれているのですが、彼ら彼女らに「なぜMIMIGURIに入社したのか?」と聞くと、全員が口を揃えて「MIMIGURIは十分に良い組織で面白い仕事もしているけれど、もっとポテンシャルがあるはず」と言うのです。

  • 「より一層面白い組織にできるポテンシャルが眠っているのに……」

  • 「こんなに面白い人がいるけれど、もしかしたらさらにその面白さを爆発させられるのではないか……」

  • 「いいコンテンツをつくっているし一定のリーチもしているけれど、もっと広く届けられるのではないか…」

誤解を恐れずに言えば、このようにポジティブな意味で「もったいない」という感情を抱いている人が多いように思うのです。

「もったいない」という感情は、ポジティブとネガティブの中間にあり、現状に対する不満と同時に未来への期待を持っている状態です。本当にダメダメだったら「もったいない」とすら感じられません。

この「もったいない」という感情を起点にする「ゆるやかな組織変革」が、これからの組織・カルチャー変革の鍵になるのではないか?と思ったのでした。


MIMIGURIでは、ゆるやかな組織変革に関連するナレッジをレポートにまとめて発信しています。以下のリンク先から無料でPDFをダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください!


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