AI、イノベーション、アクティブラーニング。ビッグキーワードの"自己目的化"問題
ミミクリデザインでは、ワークショップデザインを主軸とした商品開発・組織開発・人材育成のプロジェクトを専門としているため、幅広いフィールドから仕事のご依頼をいただきます。
これまで繰り返し述べてきた通り、プロジェクト設計の初手は「課題のリフレーミング」で、まず何を解決するためにプロジェクトを設計し、何のためにワークショップをするのか、つまり「なぜやるのか(Why)」の問い直しをするところから始めます。
手段ワードの導入が自己目的化しているパターン
課題のリフレーミングの仕方にはいくつかのパターン傾向があると感じていますが、そのまま実施するとうまくいかない「絶対にリフレーミングしておかないとヤバイ」バッドパターン(笑)の一つに、手段に関する流行ビッグキーワードの導入が自己目的化しているというパターンがあるように思います。例えば、以下のようなご依頼から始まることが多いです。
・学校のカリキュラムにアクティブラーニングを導入したいが、教員の意欲と技量が追いつかない。どうすればいいか?
・イノベーションのためにデザイン思考を導入したがうまくいかない。どうすればいいか?
・AI導入の流れに社内のナレッジや、プロダクトが追いつかない。どうすればいいか?
などなど..。必ずしもこうした依頼のすべてが「筋悪」というわけではなく、これらのキーワードは、いずれも正しく実践すれば、意味があり、効果が出るものです。しかしながら、こうした流行りの"ビッグワード"を導入することが前提で、その上で「うまくいかないのだが、どうすればいいか?」というパターンの依頼は、「お、これはバッドパターンの香りがするぞ..」と頭の中でアラートを鳴らすようにしています。(他にもUXとかスクラムとか、アラート対象のソリューション系ビッグワードは色々ありそうです)
こうしたご依頼を成功させるためには、「どうすればいいか?」の背後にある「これまでどうしてきたのか」「何がしたいのか」「なぜやるのか」「プロジェクトメンバーの想いはどこにあるのか」などなど、目に見えない個人の内面やチームの関係性、また"課題"とされている目の前の事象の背後にある課題の真因について掘り下げなければ、筋の良いプロジェクト設計ができません。
ところが、バッドパターンは掘り下げど掘り下げど、乱暴にいえば「社会の流れ的になんかやったほうがよさそうだから、やる」「みんながやっているので、うちもなんとなくやる」といったスタンスで、流行しているソリューションを導入することが自己目的化しており、それによって何が実現したいのか、目指すゴールや導入の理由が欠如しているのです。「How?」が先にきていて、「Why?」の検討がないわけです。
「手段」と「大義」をチームで接続させる
このようなパターンは、「どうやってもうまくいかない」「この筋はやめたほうが良い」と言ってるわけではありません。ソリューション、Howが先行してしまっていたとしても、それが現場のメンバー発であれば「なんとなくやってみたい」という衝動ありきでうまくいくこともあります。
けれども、後付けでもいいから、それをやる理由(大義)が言語化され、それにプロジェクトチームが納得していないと、中長期的なプロジェクトは持続せず、成果を評価するための軸が定まらず、プロジェクトは勢いが出ぬまま収束してしまいます。
そのためだけにワークショップを実施し、チームで対話を重ねながら「なぜやるのか」「本当にこの手段でよいのか」「自分は何を実現したいのか」をプロジェクトのキックオフ的にとことん深めることもあります。繰り返しになりますが、アクティブラーニング にせよ、デザイン思考にせよ、イノベーションのフレームワークにせよ、AI活用にせよ、大義と方法論を結びつけながら、チームの衝動に基づいて正しく実践しさえすれば、成果につながるものだと思います。けれども、大義を見失ったまま手段が自己目的化しまうと、どんなソリューションを導入しても、うまくいかないと思うのです。
アクティブラーニングは、学生を寝させない手法?
たとえば「アクティブラーニングの導入」であれば、21世紀型スキルをはじめとする汎用的能力の育成、また専門教育としての知識の理解深化など、具体的な教育・学習目標の方向性への合意があった上で、各学校の思想やリソース、戦略などから成る「学校として育てたい人材像」の定義があり、それにカリキュラムの全体構造を接合させるかたちで「アクティブラーニングを導入する理由」が形成されているはずです。
そうしたカリキュラムのグランドデザインが各授業のプログラムデザインに落とし込まれ、教員のファシリテーションによって運用される..というのが学校としての大義から、カリキュラムへの導入、現場の運用のあるべき「一貫した接続」です。
ところがこうした言語化と接続をせず、なぜやるのかを合意しないまま、
・学校のカリキュラムにアクティブラーニングを導入したいが、教員の意欲と技量が追いつかない。どうすればいいか?
などと、手法ありきで導入を試みれば、現場レベルでは「学生を寝させないためにグループワークを導入する」といったような浅い理解のまま実践が進み、かえってHow?の試行錯誤が本質的に進まなくなってしまうのです。そしてうまくいかない原因を「教員の意欲と技量」に起因させたまま、Howレイヤーで試行錯誤をし続ける..という永久に成果の出ないバッドパターンの出来上がりです。
変化の速い世の中の動きに取り残されないためにも、ソリューションに関するトレンドワードを追いかけておくことは重要ですが、大義を失ったまま導入が自己目的化することのないように、なぜやるのか(Why)、何を導入すべきか(What)、どのように導入するか(How)という問いの手順を間違えてはならないな、と思います。
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